脱線に終わりはない
脱線していたものを戻し話を始める。
「ごめん、なんの対策の話だっけ?」
チェーロが何か分からないといった様子で首を傾げる。
その様子を見てレノたちはため息をする。
「本当に言ってるの?」
「えっ、なんの話なのかクラウは知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、今回それで呼ばれてるからね。僕ではないけど」
「はい。今回は私が呼ばれたものですね。レノさんからの招集だったので急ぎましたよ。全て見えていましたから支度はしていましたけどね」
ニイナたちは今回呼ばれた理由を分かっている。
しかし、チェーロは本当になんの話をしようとしているのか分かっていないのだ。
「チェーロの今後の対策についてに決まってんだろうが。いつまでも首傾げやがって。さっきもしようとしたら自分の問題だからとかぬかしやがって」
レノがチェーロを軽く睨む。
「ああそうだったねえ。ごめんね、私の覚悟が決まらなかったんだ。でもそうも言ってられなくなったね。私のために集まってくれた人がいるんだからさ」
チェーロは睨まれても怖気づくことなくレノを見る。
彼女の覚悟は決まったのだ。だからもう断りはしない。対策をしようとしてくれるのであればそれを受け入れようと、そう決めた。
「私は私がチェーロさんの助けになりたいと思ったからきたんです。力になれるかは確実ではないのですが......」
「ううん、私のことを考えてくれるのが嬉しいよ。けどね、ニイナは自分のこともちゃんと大事にするんだよ?予知の反動とかきちゃうでしょ?」
「平気ですよ。私のそばにも心配してくださる方がいますから。ねえ、お兄様」
ニイナはクラウに目配せする。
クラウはその言葉に頷く。
「まあ、妹だからね。様子を見るぐらいはしてるよ」
「あなたが優しいとなんか調子狂いますね。ずっと思ってますけど」
「なに、なんか文句あるのかい?」
「ないです、ないんで物騒なのしまってくださいね?」
クラウは杖を持っている。彼にとってそれは攻撃するための武器でもあるので物騒なものとチェーロは言ったのだ。
「結局脱線してんじゃねえか。何にも進んでねえんだぞ」
「えーもう、どうだっていいんじゃないかな。私はこうして話してるだけで楽しいし」
「んなこと言ってっと、危ねえことあった時にあの力使いすぎるだろうが」
「あーそれは否定できないかもなあ」
チェーロは苦笑する。
自分のことは自分で分かっているとはよく言ったものだ。彼女は自分が無理しそうなタイミングのことをよく分かっている。
(こればっかりは前から変わらないし、変えられないんだよなあ。みんなのためにならいくらでも頑張れる。だから、自分の体なんてどうだっていいと思ってた)
「君はいつもそうだよね。僕たちのことを頼らずに一人で突っ走ろうとする。その時に少しは後ろも見なよ。周りを見な。君のことを心配して声をかけてくるのはいただろう?」
「そうですねえ。あなたも含めて、いてくれましたよ。それなのに『俺』は突っ走った。なんでだったんだろうって考えたんですけど、結局それもみんなが理由だったんですよね」
チェーロは懐かしそうに自分の前を振り返る。
「『俺』はついてきてくれたみんなを守りたいって必死だったんです。みんなの身体も心も全部を守りたかったんです。そして、幻滅して離れてほしくなかったんです。巻き込みたくないから、ついてきてほしくないとか思ってたくせに『俺』は離れてほしくなかったから進み続けた。矛盾してますよね」
「それで自分の心壊すとか何がしたかったの?君がなくなる数か月前からずっと様子がおかしかったよ。うまく隠せてるとか思ってたかもしれないけど、噓笑いなのが分かった。また何かしようとしているのか、それとも何かを感じ取っているのか......待とうかと思っていたのに、君が突然いなくなるなんてね」
クラウは少し苦しそうな顔をした。
田宮の最後を思い出したのだ。同時に彼の不調に気づいていたのにもかかわらず何もしなかった自身のことも思い出す。
「別に心が壊れていたとは思っていませんし、仮にそうだったとしても稜さんや、他の幹部のせいなわけがないです。だからそんな顔しないでくださいよ。あなたのそんな苦しそうな顔、らしくないですよ?ね、笑って。いや笑うのもらしくないか......うーん......」
クラウらしさについて悩み始めたチェーロを見てクラウは笑う。
「笑ってるのがらしくないとか失礼だと思うんだけど」
「いやだってあなたが笑ったの見るのあんまなかったんですもん!強敵と戦う時の邪悪な笑みとかぐらいですよ!」
「邪悪ではないでしょ」
わいわいと言い合う二人の姿を見て
「嬉しそうですねレノさん」
と、ニイナがレノに話しかける。
「そうか?あいつが楽しそうだからかもな。あいつはダメソラだったが、最後までダメダメだったわけじゃねえ。そんなやつが急にいなくなったら俺もさすがに堪えたんだぞ。今こうして姿が変わろうとあいつが笑ってられんなら俺もそれを守ろうかと思ってな」
「ふふっ、生徒想いですね。でも、私も同じ気持ちですよ。姿は変わっても彼が私を助けてくださったという事実は変わりません。ですから、必ずこの世界では最後まで......最悪の予知なんていらないですから......」
ニイナは最後の言葉だけは小さくつぶやき、チェーロをただ見つめるのだった。




