わがまま
「よし、つーことで考えんぞ」
「え、今からの話してたの?」
「あ?使うとお前の寿命減るんだろ?だったら早い方がいいだろ」
一刻も早く聖女の力について考えることでチェーロの命をつなぎとめる。
それがレノの思っていることだ。
「先生も随分優しくなったねえ。でも、やっぱり私の問題だしなあ」
チェーロはレノに自分を再び強くしてくれるかと聞いたというのにまだ悩んでいるのだ。
自分の問題なのだから自分でどうにかするべきだろうと。
彼女は前からずっと仲間に頼ることが苦手だった。余計なことに時間を割かせたくないと、厄介なものほど自分で対処するようにしていた。
だが、その様子を見て仲間がどう思っていたのかを彼女は知らないのだ。
「あのなあ、さっきの話聞いてなかったのか?背負わせろって言っただろうが。このまま自分だけで対処しようとして間に合わなくて急に倒れたらどうすんだ?今度は置いていかねえんだろ?なあ⁇」
レノはチェーロを睨む。
心配もしているのだが、彼女には強めに言わなければ受け入れないと知っているから。
「......レノって優しいよね。クラウもだけどさ、みんな優しい。覚悟を決めたはずなのにさ、私って弱いんだってさっき痛感したよ。そんな優しくて強い彼らのことを、私のわがままに巻き込んでもいいのかな」
チェーロは小さな身体で多くのものを背負っている。
背負っているものの重さも、面倒さも彼女はすべてを理解している。
(私は聖女という肩書を持っている。それは生まれたその日から決まっていたものだし、今更どうこう言えることではない。聖女の力だって生まれたその日からあったのだ。その日から始まっていた。炎が出始めた時から自分で頑張るって決めていた。この力が尽きるその時をただ静かに受け入れようかと思っていた。だから、全部背負うって決めてた。それなのにみんなが優しいから私もわがままが出てしまった)
「私、生きたいんだ。今度こそ最後まで生きて、みんなと一緒に守りたいものを守って、全力で生きていたいんだ。それが私のわがまま。もうどうしようもないって抗うのもやめようと思ってたんだけどさ、
欲が出ちゃったみたい」
チェーロはまたごめんねと言う。
なにも悪いことではないというのに謝るのだ。
「お前は、ずっと強欲だろ。手放したくないものを離そうとしなかっただろ。それなのに自分のことは軽く見てんじゃねえ。あとな、お前のそれはわがままじゃねえよ。生きてえって思うことをわがままだとか言うんじゃねえ」
「わがままだよ。私が全部受け入れてたら巻き込まなくて済むんだからさ」
「誰もお前に巻き込まれたくねえだなんて思ってねえぞ。俺ですらな。だから心配してねえでさっさと俺たちにも背負わせろ」
「私はきっと何回も後悔しそうなんだ。みんなになにかがあったら後悔する」
「俺だって、あいつらだって後悔すんだ。お前をもう一度守れなかったらあいつらは泣くだろうな。それでいいなら一人で悩めよ」
レノはチェーロの嫌がりそうなことを言う。
彼女にとって仲間が泣く姿は、自分のせいで悲しむ涙はもう見たくないものである。
「ずるいよねえそういうこと言うの」
「はっ、俺は組長の教育係だったんだぞ?ずるい手でもなんでも使う」
「そっか、そうだったよね......今も前も何も変わらないんだ。私がみんなといたいと思うのも何も変わらないんだ。だったら......」
「だったら?」
「うん、降参。負けたよ。私は一人ではできないことの方が多いんだ。だからさ、お願いしてもいいかな?」
「ずっとそう言ってんだろ」
「ははっ、そうだったねえ」
彼女は笑う。
遂に荷を下ろしたのだ。いやすべてを下したわけではない。ただ、少し預けることにした。
彼女の持っているものをほんの少しだけ預けることにしたのだ。
(みんなに少しだけ頼ってみよう。私のことを大切に思ってくれる彼らを頼りにしよう。ずっと共に生きていくために)
チェーロは離したくないものを思い浮かべながら両手のこぶしを握ったのだった―




