修行の始まり
「さて、お前には今から修行をしてもらう」
「それはいいんだけど、どうやって?」
「乗り気じゃねえか。やる気があって嬉しいぞ」
「断っても無駄なの分かってるからだよ。で、私に何をさせたいわけ?」
「なにさせよっかなあ」
「考えてんじゃないの⁈てか、さっき魔獣と戦わせるって言ってたでしょ⁈」
「だってえ、最近魔獣の話聞かないんだもん」
「もんじゃないよ!」
修行をさせるとか言っておきながら何も考えていないと言うレノにチェーロは驚く。
そしてつっこみをしすぎて息を切らしかけるほどだ。
(やっぱり変わらないな。むちゃぶりしてくるところもだけど、こういうところも変わらない。そしてこういったやりとりを嬉しく思っている自分もいるので複雑な気持ちだ。まあ、久しぶりにこうやって振り回されるのも悪くないかな)
彼女は高揚している。
久しぶりの感覚に。自身の教育係であった男のむちゃぶりを受けるという感覚に。
彼女の口角は上がった。
「なに笑ってんだお前」
「べ、別にいいでしょ⁈」
「まあいいけどな。ああ、たった今やってもらうこと決めたんだぞ。今の力知りたいから俺と全力で戦え。それが終わったら修行の内容も考える」
「はあ⁈まって、無理だって!てか厳しいって!最強って言われてたんでしょ?そんな人とやって小娘が無事でいれるわけないって!」
チェーロは首をぶんぶんと横に振る。
手でバツのポーズを作り絶対に嫌だと言う。
「お前なら大丈夫だろ。聞いたぞ?ストームが前の記憶ない時からなついてた理由がチェーロに倒されたからだって。あとお前が今師匠と慕ってるやつも倒したってな?ほら自分よりも大きいやつに勝ってんだ。だから俺ともやれ」
「誰だよそれ言ったの!一人しかいないだろうけど!!」
チェーロはレノに告げ口をしたであろう人物に心当たりがあった。
(どうせストームだろうな。私の武勇伝のようなものを話したがる人なんて一人だろうし。ししょうとたたかったのをみていたのはレノが会った中なら彼だけだ。言われても困るものではないと思いたがったがそれを理由にレノと戦うこともできるだろうと言われるのは少々困るんだよなあ)
チェーロは眉を下げて困ったように笑う。
「私、先生とだけは戦いたくないんだよねえ」
「前の時はしてなかったか?」
「ううん、やってないよ。だっていつになっても俺はあなたと戦いたくなかったんだから。いくら組のみんなと手合わせしようとあなたとだけは嫌だった。だから何度も適当にはぐらかすようにしてたのにさ......まさか別の世界で言われるなんてなあ」
「そんなに嫌だったのか?だが、俺はんなこと聞いてやる気はない。世界が変わったなら、もう一度組織を作るという決意をしたなら、誰とでも戦えるようになっとけ。」
レノはチェーロの目を見る。
強くなれと、また組長のような立場になりたいなら、強くなれと。
「......分かった。私だっていつまでもこのままじゃいけないよね」
「いつ理不尽なことが来たっておかしくねえんだから慣れとけよ」
「その理不尽を与えてきそうなのはレノだけどね?」
彼女は自分を変えようと、嫌だったものに向き合うことにした。
覚悟もあると証明するために―




