始まり
「よく来てくれたなチェーロよ」
「いえ…指定されていた時間通りですよね?」
いつもの服とは異なり綺麗な装飾のついた服。
王様の前に立つならと母親に着飾られたのだ。
動きづらいが仕方ないとチェーロはそのまま来た。
「ああ、時間通りだ。さて、呼んだ理由は分かっているな?」
王は真面目な顔をして彼女を見る。
「聖女について、ですよね?」
チェーロはそう答えた。
それ以外にないと思ったからだ。
(そもそも手紙に書いてあったしな。今回は大事なことを話すのだろうと思って一応一人で来たのだが……親だとしても聞かれたらいけないことを話される可能性もありそうだし)
「そうだ。今日からチェーロには聖女としての仕事をしてほしいと考えている。前の聖女が張った簡易結界もそろそろ危ういのでな」
簡易結界が剥がれてしまえば魔獣が国を襲ってしまう。それを防ぐためには更に強固結界を張るしかないのだ。その役割を担うのが聖女。つまりチェーロの初仕事である。
「承知しました。他には何かありますか?」
二年前から言われていたことなので彼女は受け入れて、他にもすることがあるかもしれないと王に聞いた。
(あとから何か増やされるより最初から聞かされていたほうがまだ楽だ。というかそろそろ危ういなら早めに呼んでくれて良かったんだが...一応気を使ってくれたのだろうか)
聞いた理由は自分があとから面倒になってしまわないように先に把握しておきたいというこであった。
理由がそうだとも知らずに王はチェーロにやる気があるのだと思って嬉しいと感じていた。だから、告げたのだ。チェーロなら引き受けてくれるだろうと。
「もう一つ頼みたいことがある。隣国との和平を結ぶため、隣国の王子と婚約をしてほしいと考えている」
王は冗談だとも言わず真剣な顔を保ったままチェーロにそう言い放った。
(なに言ってんねんこの人!!確かに今は女だが中身は四十後半のおっちゃんなんよ?!......動揺して変な感じになってしまった。まあ、改めて考えてもふざけてると思うけどな。隣国と和平結びたいなら他の方法もあるだろうし、そもそもあちらが望んでいないのであればただの押しつけに過ぎない)
チェーロは様々なことを考えて
「申し訳ないのですが、理由も聞かされないのであれば頷くことはできませんね」
と、横に振った。
断ることで不敬罪に当たったとしてもなんとか切り抜けようとそう思った。
「理由......すごく個人的なことになってしまうのだが、一周回れば国のためでもあることなのだ」
ただの私利私欲のためにチェーロを隣国の王子と婚約をさせようとしているわけではない。
王は話し出す。理由についてを。