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聖女に転生したみたいだが逃げ場がないので今すぐやめたい  作者: 紫雲 橙


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本音

「ねえ先生、聞いてくれる?」

「なにかは知らねえが聞くぐらいはしてやるぞ」

「相変わらず素直じゃないねえ。聞きたいって言いなよ。まあでも、ありがとう。話すね」


 チェーロは笑って話し出す。聞いてくれるということに感謝して、長くなりすぎないように簡潔に済ませようと思いながら。


「私さ、不安なんだよ。みんなをまた何かに巻き込んでしまうんじゃないかって。もし、巻き込んでしまいそうな何かがあったとしても私が前のように守り切れるとは限らない。だって今の姿は幼いから。仮に、聖女であることが特別で、力があってもすべてを守れるとは限らないから。だから、みんなを頼れないの」

「お前も変わらねえな」


 男はボソッと呟く。

 その言葉を拾いチェーロは首を傾げた。


「いいかよく聞け。お前はスーパーマンでもヒーローでもねえんだ。全部守れるなんてそもそも思うんじゃねえ。あいつらだってお前に守ってもらわなくても強くなってる。世界中全部守りたいとか思ってんのかもしれねえが、んなこと考えるな。お前が今一番大事にしてえのを守れ。それでも全部だっつーなら少しは背負わせろ。幼いからなんだとか言ってやがったが、結局はお前の自己満足だ。あとなお前は......俺の生徒はどうせ一人にはなれないんだぞ。世界変わっても変わらずに会いに来てる奴いるんだからわかるだろ?」


 男の言葉にチェーロは頷きながらもため息をつく。


「わかってはいるけど、私にそんなことをするまでの価値はないのにね。彼らが好きだったのは、尊敬していたのは田宮空でしょう?チェーロじゃあない。確かに私は空だったころの記憶はあるし気持ちもある。けど、それだけだよ。今の私についてくる必要はないの。私は空だった時のように動けないんだから」

「......そうやって言い訳を並べれば満足か?そうやってただ遠ざけようとしていれば楽か?ああ、楽だろうなあ。自分の気持ちだけ考えてればいいんだからよ。あいつらのことを考えずにただ自分だけのために遠ざけようとするのは、さぞかし楽だろうなあ」

「んな?!そんなことない!」

「そうか自分の本当の気持ちも考えてねえって?無視して最善かもしれないことを考えるって?果たしてそれは最善って言えんのか?」


 男はチェーロの嫌がるようなことをわざと言い続ける。

 彼女の本音を、本心を引き出すために。

 彼女自身が自分でもしまい込んでみないようにしているものを引き出し向き合わせるために彼女を煽っているのだ。


「無視なんてしてない!私はこれでいいって思ってる。私はみんなの今の人生背負えないから」

「今はそばにいるのにか?」

「なんでさっきから否定してくるの?」

「否定じゃねえ。俺はお前の本音を聞きたいだけだ。隠すのだけうまくなっていきやがって」


 男は舌打ちをする。

 組長だった時から隠し事をすることに慣れてしまったチェーロの本当の気持ちを聞かなければ気が済まない。


「あーもう、隠してるってわかってる時点で千和にはばれてるじゃん」

「教育係をだまそうなんて甘いんだぞ」

「はいはいそうですよ俺は馬鹿だし甘かったですよー」

「それで?さっさと全部出せ。噓はつくなよ」


 チェーロは少し悩んで小さく頷いた。

 

「んー私の本音......巻き込みたくないっていうのも本音なんだけどなあ。でもね、かなうならそばにいいたいんだ。一緒にいて笑っているのを近くで見ていたいし、笑っていたいんだ。彼らと共に成長していきたいんだ。離れたいって思いもあるのにいつだって浮かんできてしまうのは彼らの顔で、数分もたたないうちに会いたくなるんだ。この思いはしまい続けるよ。この世界での特別みたいな感じの存在として生まれたんだからいつ何が起こってしまうかわからないからね」


 チェーロは本音を吐き出した。

 自分自身で抱え続けていた思いを。隠すことができないと思った相手だから伝えたのだ。

 

「言えるじゃねえか。それがお前の願いなんだろ?あいつらと一緒にいたい、なあ。意地でもしてみろ。お前は譲れねえもんのためには俺でも予想できないぐらいの力を発揮するやつだ。だからなあとは覚悟だけだろ。巻き込むことになっても守り切って見せるって覚悟。お前はそんなに弱くなかったはずだぞ」


 男はチェーロの目を真っ直ぐと見る。

 

「覚悟、か......そう、だね。うん、私は逃げることしか考えてなかった。隠そうと思って自分の気持ちにも向き合えてなかったんだ。私は、みんなと一緒にいたい。もっと強くなるよ。私の誇りを守りきるために」


 チェーロは拳を作り胸の前に掲げた。

 覚悟が決まったのだ。何があっても仲間とともにいるという覚悟が。


「それでこそ、だな」

「ありがと先生。また背中押されちゃったね」

「チェーロもダメダメでバカだからな、これからも教育係してやるぞ」


 こうして彼女は一歩前に踏み出した。

 逃げたいと思い続けた彼女は向き合うことにしたのだ。

 かつての仲間だった彼らと今世でも共にあることをあきらめないように。


 せっかく出会えた縁を離さないようにーー

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