予想外
数日後。
チェーロは一人で出ていた。
動いていないともやもやするということで走りに出たのだ。
彼女は日課のコースを少し伸ばし自身の気持ちがすっきりするまで走ることにしたのである。
(走っているときは余計なことを考えなくて済む。この言葉はお兄さんが言ってたやつだったな。実際そうなんだけど。私も最近いろいろ考えること増えてたからなあ。時々だけど、自分が類をかばった時の周りの声とかのことを思い出す。あの時にはもう戻らないというのに。離れてほしくないと願っていた人たちから手を離したのは自分だ。また巻き込むわけにはいかない。あの時には助けられたけど、次どうなるかわからない。なら、私はもう自分から離れるしかないんだ。ああ、結局こんなことばかり考えてしまうんだよね。よし、もう少し走ろう)
チェーロはまだ気持ちがすっきりしないからと走り続ける。
そして、走っていた先で彼女は気になる場所を見つけた。
(ん?あの高台......あんなところあったんだ。ちょっと寄るかな。『俺』が好きだった場所にもどこか似てるし)
気になる場所に寄ることにしたチェーロは歩いて向かった。
(展望台みたいな感じだったんだなあ。なんか空が近くて落ち着く......そよ風も感じられていい場所だ。それに、やっぱり好きだった場所に似ている。ここにいたらだれか来そうな気がするんだよね)
そんな時だった。
彼女の後ろで微かに小枝が踏まれた音がしたのは。
そして彼女の視界の端にその人物が入ったのは。
「珍しいな、ここに人がいるのは」
「そうですねえ、私もただひたすらに走っていたらたどり着いたんですよ。どうしようもなく流れてくる記憶だったり、鍛えられていた時の記憶だったり、仲間との楽しい日々のことだったり、自分の背中を押してくれた人の言葉だったり......忘れたくても忘れられないものを整理するためにがむしゃらだったんです」
「はっ、忘れる必要なんてないだろ。そういうことがあったからダメダメから見違えるほどに強くなったんだからな」
「私はダメダメですよ。『俺』だってそうだったでしょ?ねえ、先生?」
チェーロは後ろを振り向いて、自分よりも高い身長の相手に微笑みかける。
「なんだ、気づいてたのか?」
「先生こそ。私の方が姿変わってるからね」
「お前が勝手に語り出したからな。気づくに決まってるだろ」
「だって、あなたは少ししか姿変わらないから。絶対そうだって思ったんだよ。だから、語ったの。私の中に今あるもやもやをさ。先生に会いたいなあって思ってたからタイミング完璧だ。でも、まさかこっちにいるとはなあ……」
チェーロは嬉しそうに笑っていたが、ため息をついた。
自分の会いたかったものに会えたというのに、だ。彼女がため息をついた理由は簡単なものである。
(こっちにいるってことは生まれ変わったってこと、だよね。みんなに会ってきて思ったんだけどさ、私もそうだしきっとみんなもそうなんだよね。会えて嬉しいけど、複雑だなあ)
「心配しなくても、俺は長生きしてやったぞ。お前が守りたかった街もちゃんと守ってきてやった」
「そっか…良かった」
「よかねえけどな?組長がいなくなってからどれだけ大変だったと思ってやがる。あいつらも動きが鈍くなるし……お前には一つ言ってやらないといけねえことがある」
「えっ、なに?」
「お前はバカだ。バカソラだ。庇って守るなら、自分も生きろ。守りたいと思ってんなら、心まで全部守ってやれ。どうせ今もあいつらのことで悩んでんだろうが、あいつらを頼ってやれよ。一人で全部抱えてんじゃねえぞこのバカが」
男は一息で全てを言い切った。
チェーロに伝えたいことを全て。
「そんなこと言ったって、みんなに心配かけたくないし自分の問題だって思うこともあるしさ……てかなんでみんながいるってこと…」
「んなこと俺がここにいるから以外の理由があるか?俺がいてお前もいんならどうせあいつらもいるだろ」
「あーもう、変わんないねえ先生は」
「お前も変わんねえよ。相変わらずのバカだ」
「もー!バカバカ言うのやめてよ!」
「変わんないんだからいいだろ」
男はそう言って笑う。
チェーロもつられて笑い、二人は長い話を始めるのだった。




