会いたい人
私のしないといけないこと。そのことは誰にも言っていない。
レインにも、ほかの人にも一人で抱えるなって言われたけどそれを守ることはできないだろう。
これは私の問題であると確信しているのだから。
だからこうして彼らと別れて家に帰ったあとに考えているというのに。
「本当、言えないよなあ」
自分の記憶を思い出すたびに頭痛くなることがあるとか、時々靄かかってるとか、聖女の印とは別のあざみたいなのが腕に浮かび上がってきたこととか......
「言えないことばっかだな。前から何も変わらない。隠し事の多さは何も変わらないものだ。でも、これだとまた怒られるのかな。んー怒られるのはな……それでもこの感情はどうしようもないものだから」
そう、頭が痛くなるだけなら別にいい。
けれど、同時にあの頃の感情を正確に思い出してしまう。
あの頃自分がどんな思いで、仲間と共にいたのか。あの頃どれだけの信頼感を彼らに持っていたのか。
そして、今一番会いたいと願う相手がいるということとか。
私と関わったことによって記憶が戻った人がいるということとか、そうじゃない人もいるという違いとか、色々なことを考えなければならなくてもやもやしている。
それでも、このことは言いたくない。もやもやは自分で解消したいから。
「にしても、やっぱりあいつはいないのかな。いないならいないでいいんだけどさ。今もどこかこことは別の場所で元気にしてくれていたらそれでいい」
こういう悩み事があるときに一番に思い出すのがいる。
俺が一番信頼して、そばにいてほしいと願ってやまなかった男。
あいつがいたから、変わったんだ。田宮空の人生はあいつがいなかったら何も変わらない、ずっとダメダメな自分だっただろう。周りがにぎやかになることもなかっただろう。
「たった一回でいいから、見たいなあ。俺の先生......俺は今どうしたらいいのかな......相談したいこと、いっぱいあるし、聞かせてほしいこともいっぱいあるよ......だからさ、千和......また教えてよ。ダメダメな『私』のことも背中押してくれないかなあ」
部屋から外の空を見て思う。
空という名前だったから、愛着がある。それに空を見上げているともしかしたら会えるんじゃないかっていう気持ちになるんだ。空はどこまでもつながっていて包み込むから。
さすがに世界を超えてもつながっているかわからないけれど、もしかしたらを捨てきることのできない自分がいる。
「まあでも、弱音ばかりはいけないよね。時がきたら離れたいとか思ってるのにこのままだとズルズルといきそうだしな。まっ、頑張りますか!」
抱えている感情を出すことは難しい。一人で悩みたいこともある。
そんな時でも会いたくなる人はいるから、そういう時は頼らせてもらおうかなあ。
「また笑って話そう」




