親友
「まあ空くん、ボクのことは一旦おいてさ......もう一人話を聞きたいんじゃないの?」
ナミはチェーロの驚いた声を聞いていたため、彼女が話を聞きたい相手はもう一人いるだろうと推測したのだ。
「そうだった!ちょっとレインさっきのってどういうこと?!」
チェーロはナミの言葉で思い出したのかストームのそばにいたレインに目線を向けた。
レインはそんな彼女になんでもないように首を傾げ
「さっきのってどれのことだ?」
と聞く。
「さっき前って言ったよね?!記憶!あるの?!」
「あ~それのことな~さっき急に思い出したんだよなあ。たぶん、チェーロとちゃんと関わったからかもな~」
「私と関わったから?私と関わったから前のつらい記憶思い出したの?レインにとっては忘れていたほうがよかったような記憶まで思い出したの?」
「チェーロが言ってるようなのがなんなのかわかんねえけど、オレにとって忘れてたほうがいい記憶なんてないぜ。オレはソラに会ったから生きてられた。あんときもう全部がどうでもいいやって思ってた。そんなオレを助けてくれたのはソラだったんだぜ?それなのに、オレをつれてはいけないって全力で逃げようとするし......肝心なこと相談しようともしないし......一人で何とかしようとするし......ああ、思い出したら腹立ってきたぜ」
「え、ええ?!ごめんって、もうしないから!」
チェーロは慌ててもうしないと首を横に振る。
そんな様子にレインは思わず吹き出して
「本当に怒ることはないから安心しろって!でも、全部一人でやろうとするなら…分かってるよな?」
と言った。
「はい!分かってますごめんなさい」
威圧のこもっているレインの表情にチェーロは萎縮して即答する。
(普段ニコニコ笑ってる人の威圧感って怖いなあ。まあ、自分が怒られるようなことしなかったらいいだけなんだよなあ)
「んな怯えなくても、今チェーロが一人でしようとしてることとかないだろ?」
「え、あ、えと、ないよ?」
「ん?怪しいぜ?」
「いやいやないから」
「目そらしながら言われても説得力ないんだけど?!」
「だって近いんだもん!」
レインとチェーロの距離は近くなっていた。
そのためレインからの圧を間近で感じているのだ。
「記憶思い出したからってチェーロさん困らせてんじゃねえよレイン」
ストームが間に入ってレインをにらむ。
「チェーロがソラだってこと知ってうれしいから仕方ないだろ~てかなんで教えてくれなかったんだよ?」
「通じない相手に言うわけないだろうが!ったく、せっかくチェーロさんと二人だと思ったのにな」
「そんなこと言わないの。私は親友がいてくれると嬉しいからさ。あ、もちろんストームも親友だからね。それとさ、他にも記憶ある人いるから二人ではないよね」
親友がいる。そのことが彼女にとって大切なこと。
しかし、同時に思う。
(ああ、また一人増えてしまったのか。私はもう巻き込みたくない。そう思っているから逃げたいと考えるのにこのままでは全員ついてきてしまいそうだな。それでもいいとは思えない。だって、みんなには笑顔でいてほしい。私といる方が笑顔になれるとしても、傷ついてほしくない。ただのエゴだとしても、一人でしたいことがあるんだ)
チェーロはかつての仲間を巻き込みたくないという気持ちが強い。
それは彼らに何を言われようとも根底にはある。その場では一人では抱えないというけれど、抱えてしまうのだ。
「まっ、またこうして親友と一緒にいられるならなんだってできるな〜」
チェーロの考えごとを遮るようにレインは笑う。
親友と共にいることで彼は強くなれる。守りたいものがあればなんだってできる。
レインの守りたいものはチェーロなのである。
「だから、今度こそ最後まで一緒にいさせてくれな!」
「うん、もちろん」
チェーロは頷く。
本当は遠ざけようと考えているがそれは隠し通す。誰にも気づかれないように彼女はひたすらに隠すのだった。




