大事なもの
「さてと、話を聞かせてもらおうか?ああ、言っとくけど拒否権ないからね」
チェーロは全員を移動させて座らせた。
拒否権などないと笑う彼女はまごうことなき組長だ。
「久しぶりの再会なんだからちょっと感傷に浸ってくれてもいいと思うなあ」
「そんなことできる暇なかったでしょ?すぐに喧嘩売ってきたのはどっちさ」
「え~君こそ自分を捕まえられたらとかって挑発してきたじゃん!あ、そうだ名前言っておくね。ボクはナミ。そうだと認識してるよ。でも、本当にそうなのかわからない。だって姿も変わらないからねえ」
姿が変わらない。だから自分の名が本当に合っているのか疑問に思った。今まで気にしていなかったことが気になるようになってしまったのだ。
「確かに姿変わらないね。けどさ、ここで生きてきた記憶もあるんじゃないの?まあ、そこは後で聞くとして……なんで突撃しにきたわけ?」
「最初に言ったでしょ?空っぽを埋めたいって。その答えが聖女ってのに会ったら分かるかなって思ったんだ〜」
「だから、なんでそう思ったの?」
「だって、聖女って重い運命背負うんでしょ?ボクの空っぽを埋めてくれてた人もそういう人だったなあって少しずつ思い出して……あれ?ボクは聖女を探しにきた時点で記憶が戻っていたのかもしれないねえ」
すでに記憶が戻っていたから探しに行ったのだということにナミは気がつく。
「そうですね......きっと戻っていたのだと思いますよ。無意識のうちに田宮さんを探していたのなら」
「え?俺じゃなくて仁菜を探してたんでしょ?実際正気に戻ったのだって仁菜の言葉だったし。って、今はニイナか」
「多分どっちもだよ。ボクにとっては君たちと過ごした時間が一番楽しかったんだ。そうだニイナちゃん?君が言った亡霊ってどういうこと?」
ナミはニイナに首を傾げて聞く。
一度聞いた時から引っかかっていたのだ。
「それ私も気になってたんだよね。どうして自分とナミを亡霊みたいなものだなんて言ったの?」
「それはですね、私には最後の記憶がないんです。どうやって前の世界を去ったのか。ほかの方は覚えているでしょう?」
「あ、ボクもないなあ。って、それを分かってたから自分とボクが同じだって言ったのかな」
「ええ。分かっていたから言ったのですよ。私とあなたは似ていますからね。きっと同じだろうと思っていたんです」
「似てるかなあ。けど、空くんのことが大事だってことは似てたのかもしれないね。君とボクがお茶会で空くんを待っている時の会話ほとんど彼についてだったもんね」
「懐かしいですねえ。またしましょうか」
ニイナとナミは質問に簡単に答えたあとに、自分たちはここだけは似ているという話をしだした、
空が大事でいつもその話をしていたということ。そして、この世界でもまた話をしようという予定を立てている。
「最後を覚えていないっていうからって、今ここに生きているのは二人自身なんだから今の人生を楽しく生きていたらそれでいいんじゃないかな。それにさ、また話をするっていうなら私も混ぜてね。三人でする話も楽しかったからさ」
チェーロは今を楽しく生きていられるならそれでいいじゃないかと笑う。
全力で生きていけるなら前の最後の記憶がなくても関係ないと。
「本当、そういうところだよね」
「ええ、そういうところですね」
ナミの言葉にニイナが同意して頷く。
「いやどういうところなの?!」




