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聖女に転生したみたいだが逃げ場がないので今すぐやめたい  作者: 紫雲 橙


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空っぽの答え

「そこまでです」


 その言葉は誰だっただろうか。

 重なって聞こえた気もする。ボクにそう言ってきた子が前にもいた気がする。

 あれ、前っていつのことだったっけ?


 前?ボクが生きているのは今。

 でも、あれ?ボクのいた世界はこんなんじゃなかった。ボクのいた世界ってなに?


「……あなたも、理解できていないんですね。私も最初は戸惑いました。それに、きっとチェーロさんも戸惑ったでしょう。ですが、私は言いたいことを言わせていただきます」


 女の子の声。この声と言葉をボクは聞いたことがある。

 戸惑ってる。それはこの女の子の言葉で動揺しているから?それとも、ボクがここにいるべき人じゃないから?


「ボクってなに?」


 思わず口から出た言葉。

 それは本心。

 だって、ボクは空っぽなんだ。

 その空っぽを埋めたくて聖女というのを探して、やっと見つけたのに逃げられて……満たされない感覚がずっとある。


「そうですね、あなたはいわば亡霊なのかもしれません。私と同じ。田宮さんや、紫雲さんたちは少し姿が変わりましたが私たちは変わらないでしょう。この世界にどうしているのかすら分かりません。あなたはどのように生まれたか思い出せますか?」


 どのように生まれたか......ボクは亡霊?どういうことなんだろう。

 でも、どのように生きてきたかも思い出せない。


「ボクってどんな生き方してたんだっけ?」

「やはり思い出せませんか。あなたは私を狙ってきました。私の未来予知の力が欲しいから、と。しかし、あなたは田宮さんに倒されましたね。これは別の世界線の話です。ああ、倒されたといってもすぐに目を覚ます程度に、でしたよ。田宮さんは悪いことはしませんから」

「俺だってあれが良かったとは思ってなかったけどね。仁菜(にな)が危ない目にあったのにあの後お茶会までするような仲になって良かったのかなってさ」

「いいんですよ。それは私も許可したことですから」


 未来予知の力。

 別の世界線。倒された?なんの話なんだろう。

 でも......


「お茶、会?」

「うん。俺が仁菜を助けた数日後にお前が謝りに来たんだよ。最初はどうしようかと思った。だって俺も危なかったし怖かったからさ。けど、ちゃんと話さなきゃって思った。だから入れたんだよ。かくまってた仁菜もいいって言ったから」

「その時に、あなたが自分には何もないから大きいものを手に入れたかったんだって言ったのを聞いて私と田宮さんがあなたに言ったんです。友人になろう、と。何か欲しいのなら友人という存在になろう、と。その時からですよ。私たちがお茶会をするようになったのは」


 友人?そうだ、ボクには何もない。何もなかったからすべてつかめるものを追い求めた。

 でもつかめなかった。それに、いけないやり方だったというのも空くんから教わった。

 

「あ、れ?空、くん?それに仁菜、ちゃん?」

「うん、姿は変わったけど空だよ」

「私は変わりませんが、仁菜ですよ」


 そう言ってボクがしゃがむと二人は小さな手でボクの背を撫でている。

 ボクはまたしてはいけないことをしてしまったみたいだ。

 ボクの心が埋まらないからって......


「空くん、ごめん、ごめんね......また君の仲間を傷つけた。それに、関係ない子も傷つけちゃったよお」

「そうだね。それは許せない。けど、お前がいるかいないか分からないまま放っておいた俺も、お前の今の力がどれくらいか分からないままこの場を離れた俺も悪い。あと、かすり傷程度に抑えていたみたいだから重傷ではないだろう。そうだろう?ストーム」


 空くんがボクの攻撃で膝をついていた人に聞く。


「こんなんすぐ治ります!つーか、前の方はためらいなかったからさっきのは全然痛くなかったです」

「たしかにな~前のが痛かったぜ!!」

「ほらこう言って......って、レイン?!なっ、前ってどういうこと?!」


 空くんは優しい。

 この暖かさは居心地がいい。彼は大切な仲間と話している時が一番いい顔をする。

 それは、幼くなった彼でも変わらないみたいだ。


「空っぽの答え、見つかりましたか?」


 仁菜ちゃんがボクに微笑みながら聞く。

 どう答えるか分かっているみたいだ。

 

「うん、見つかったよ」


 きっと、この言葉は彼女が思っていた通りのものだろうなあ。

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