風の誓い
「絶対にここで止めてやる!あの人が信じてくださったんだ。一人で無茶をしようとするあの人が信じ、任せてくださったんだ。ここで力を使わないでいつ使うんだよ!ムウ、こい!」
ストームがそう言うと小さな緑色の猫が彼の肩の上に乗った。
「それはなあに?」
「俺の相棒だ!いくぞ、ムウ!」
相棒のムウ。ストームが説明したのはそれだけ。
そのため男は自分が今から何をされるのかすら分からない。
先手必勝。そうとでもいうかのようにストームは男に向かって攻撃を仕掛けた。
「この感覚久しぶりだな。にしても、あのソルって奴意外といいもん作るじゃねえか。ただチェーロさんが師匠って言ってんのは気に入らねえけどな」
ストームが持っているのは銃の形をしたもの。
だが、ただの空洞であるため威力はさほどない。空洞に詰めるのは、先ほどストームが相棒だといったムウ。
「あの人はたとえ敵だとしても誰かが傷つくのを嫌がる。そんなお優しい人だから今もついていきたいと思うんだ。俺は右腕だ。まだ足らねえとこもあるがな。あの人に恥じねえ右腕であるためにって思い出してからは、ずっとムウと修行してきた。で、どうだ?俺の相棒の......風の精霊であるムウの力は」
「人のこと吹き飛ばしておいてよく傷つけたくないだなんて言えるよね......しかもボクの見たことのないもの使っちゃってさ!というか、思い出してからってなあに?」
「んなことお前に言うつもりはねえよ。ただ一つ言ってやる。俺はお前が気に入らねえ。お前に似た奴を知ってるからな、しかもなんとなくで行動するところまで似てる。あの人はあいつを許した上に、自分があいつを傷つけてしまったことも悔いていた。それなのにあいつはそのことに気がつきもしねえ。だから、これはただの八つ当たりだ」
「似てるからって攻撃するんだあ。ひどいな〜ボクだってちゃんと目的あるのに〜」
「目的?なんとなくって言ってたくせにか?ほかに理由があるなら言え。そのあとどうするかは決めてやる。だが、足止めを頼まれてるからこの先にはいかせねえけどな」
「ボクはね、空っぽを埋めたいんだ。ずっとどこか空っぽだと感じている。この気持ちが何なのかわからなくてもどかしくて、人の心がむき出しになる叫び声ってのが好きになってた。そんなボクの空っぽも聖女っていうのなら直してくれるのかなって思ってた。でも、違ったんだねえ。あの子が、聖女だからとか関係なくきっとボクの空っぽにはあの子が必要なんだあ、だって、あの子が強い瞳を見せた瞬間、かすかにだけどボクの空っぽが埋まった気がしたから。だからここを通してもらうよ。おいで白蛇」
男がそう言うと、白色の蛇が男の腰のあたりから出てきた。
「君だけに相棒がいると思わないでよねえ。ボクにだって相棒がいるんだよお」
「お前、やっぱり......いや違うんだろうな。けど一つだけ言ってやる。お前の空っぽを埋められるのはチェーロさんだ」
「あれー?教えてくれるんだ?それに、君は何を知ってるのかな?」
「何も知らねえよ。ただ、お前の空っぽを埋められんのがチェーロさんだってことは分かってる。だとしてもお前に渡す気はねえ。そんで、この先に向かわせる気もねえ。俺は、あの人の右腕で、あの人が大切な人と笑っていられる場所を守る。それが俺があの人に誓ったことだ!だから俺は負けない。誰かのために力を発揮できるあの人の右腕である俺が、あの人のために力を使う時はここしかねえからな!!」
ストームは宣言する。
たとえ男の空っぽを埋められるのがチェーロだとしても、行かせるわけにはいかないと。
チェーロのためなら自分の力以上のものが出せると彼は思っている。
ストームは敬愛するチェーロのために絶対に負けないと誓うのだった。




