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聖女に転生したみたいだが逃げ場がないので今すぐやめたい  作者: 紫雲 橙


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雨の悩み

「よし、とりあえず話もまとまったところで戻ろうか?みんなおいてきてるでしょ?隊長も副隊長もいなくなったら困惑すると思うよ」

「言ってから来てますから平気ですよ。それに、副隊長を追いかけろってうるさかったですし……」

「あーまあ、それならいいのかな」


 ため息をつくストームの様子を見て察したのかチェーロはそれ以上は何も言わなかった。


「あいつらに心配かけちまったかなあ」

「普段笑顔で本音見えてこねえやつが急に走り出してどっか行ったなら心配もするだろうな」

「そりゃ心配するねえ……本当のことを言ったっていいと思うよ。私も人のこと言えないけど…でも、やっぱり隠してると苦しくなるしさ」


 人のことを言えるほどに自分も本当のことを伝えているわけではないとチェーロは笑う。

 しかし、苦しくなる前に吐き出したいことは吐き出した方がいい。それを彼女は大事にしてほしいと思っているのだ。


「うーん、そうだなぁ…ちょっと聞いてくれるか?ただの弱音だし聞かせたくねえこともあるけどさ、どうしようもねえもんもあるんだけど…」

「聞く。聞くから話して?」

「どうしうもねえならさっさと話してスッキリしとけよ」


 チェーロがレインの背中をバシッと叩き、全て話すように促した。


「オレさ、剣しかないんだ。ずっと、その道しかないと思っててよ。そんで、騎士団に入って稽古してさ…でも、本気出すと怪我させちまうから手抜いてた。それに気づいたのがいたんだよな」


 レインがストームを横目で見たあとに話を続ける。


「俺には本気でこいって。けど、やっぱ怖いから躊躇った。まあ、そんなのに必要ないぐらいにそいつは強くて、オレは負けたんだ。それからだったな、そいつに近づきたくてもっと強くなろうって決めたのは。そんでさ、やっとそいつと同じ隊になれたって、隊長と副隊長として肩を並べられる。そう喜んだんだ。それなのに、それなのにな……そいつは護衛対象に負けて、その護衛対象にキラキラとした目を向けてる。それを見た時さ、なんかもやもやしてよ。でもその気持ちを悟られないようにしようって、いつもと同じように過ごしてたんだ。笑ってないとって思ってたから。そんで今日護衛対象も稽古に参加したいっていうの聞いて、オレが模擬戦で戦いたいって思った。勝てたらあのキラキラした目をオレも向けてもらえんじゃねえかってそう考えたんだよなあ。まっ、甘い考えだったけど!」


 レインがニカッと笑って話を終えた。

 それを聞いたチェーロは一人考え事をしている。


(そいつ......明らかにストームのことだって分かるのにぼやしているのは意図的なのかな。というか私が思っていたよりも大きな感情をストームに向けていたみたいだ。しかもどうやらそのモヤモヤの原因は私も関係してるよなあ。うーん、どうしようもないもの、か……何をもってそう思ったのかは分からないけれど、その感情を押し殺そうとしていたのは事実なのか。それなら一つ伝えよう)


「レイン、甘い考えだったとか言うんじゃないよ。私に勝てたらキラキラした目を向けてもらえるかもしれない。そう思ったことは間違いじゃないでしょう?だったらそれを恥じるな。君のそれは別に恥じるものではない。それに、私に向けられる目と君に向けられる目は違うもので当然なんだよ。私と君は別人なんだからさ。それでもほしいのならこれからに期待してみたらどうかな?私を倒したいというのなら何度だって挑戦を受けるしさ。それに今回の勝負だってレインの技には随分と翻弄されたからね。次どうなるかは分からないよ」


 チェーロはレインに笑いかける。

 この先に期待しろ。自分に向けてほしいと願う感情があるのなら諦めるなと彼女は言う。

 その言葉を受けてレインは


「期待?それってオレがまだストームに対して思ってること持ってていいってことか?」


チェーロを見て首を傾げて聞く。


「感情なんて誰がコントロールできるわけでもないんだから、レインが持ってたいもの全部持ってなよ。それで、吐き出したいものがあったら私にでもぶつければいい。受け止めるからさ」


 チェーロは立ち上がり座っているレインの頭を撫でた。彼女は仲間に似ているレインのことをどうしようもないほどに、放っておけないと感じているのだ。


(レインが諦めたらストームのことを見てくれる人が減ってしまうような気がするからなあ。不器用で、想いが伝えられなくて、抱え込むこともある子。なんか数分前にも同じことを考えていた気はするけどそれぐらい心配なんだ。だからさ、レインには私が期待させてもらっているんだよね。私の右腕を支えてほしいって。まあ、もし泣かせるようなことや苦しませるようなことをしたら......絶対容赦しないけど)


「そう言ってもらえんのは嬉しいんだけどよ急に顔怖くね⁈なにがあったんだ?」

「ああちょっと考え事。レインがストーム泣かせたらどうしてやろうかと思ってさ」

「組長が俺のことを⁈嬉しいです!俺はこの先もチェーロさん一筋ですからね!!」

「だから組長って言わない!それと、ちょっとはレインのことも見てね?さっきまで恥ずかしくてそっぽ向いてたのは知ってるけど、彼はストームへの感情が強いみたいだからさ」

「べ、別に恥ずかしかったわけじゃ......」


 ストームは頬を染めてうつむいている。図星を突かれたことにより、恥ずかしさが一層増したのだ。


「あーうちの子かわいいなあ。うう......支えてほしいけど渡すのもなあ。でも、ストームのためだからレインには頑張ってもらわないと!」

「うちの子って......結局ストームとチェーロってどういう関係なんだ?」

「んー?なーいしょ」


 レインの疑問に対してチェーロはにっこりと笑って関係を隠した。

 話したところで信じてもらえるかもわからない相手に対して話そうとも思わなかった。

 いつか話すことがあるかもしれないが、それは彼女次第なのである。

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