雨は泣きやむ
「やっと追いついた!」
チェーロは息を整えながらレインを指差す。
レインが向かった先はそう遠くなく、稽古場近くの大きな木の下だった。
「チェーロ?なんで来たんだ?」
「そんな顔してて心配にならないわけないでしょ?今にも泣きそうな顔だよ」
「そんな顔してるか?」
レインは自分の顔を触って首を傾げる。
「してるよ。なんでかは分からないけどさ。なにか悩んでいることとか苦しいこととかあるのかもしれない。私にはその痛みをどうにかすることは難しいと思う。それでもさ、話を聞かせてもらうことはできるかな?」
チェーロはレインの横に座って目を合わせる。
そんな彼女の視線に耐えられなくなったのか
「んーちっと面白くない話だけど、聞いてくれるか?」
と、レインが言う。
「もちろん!」
「んじゃ、簡単に言うとオレな......チェーロに嫉妬してんだ」
「嫉妬?」
「おう。オレなストームとチェーロが仲良さそうにしてるのとか、信頼し合ってんだなっての見るとなんか胸がもやもやしてな〜これって嫉妬ってやつだなって思ったんだよなあ。本人に言うことになるとは思わなかったけどな!」
ははっ、とレインが笑う。
「好きなんだねえ、ストームのこと」
チェーロはレインの言葉を聞いてそう言った。
好きでもなければ自分に嫉妬することはないだろうからと。
(私に嫉妬するほどにストームのことを好きでいてくれているとはねえ。彼は時々私のことしか目に入ってんじゃないかと思うけど、こうして気にしてくれている人がいるなら安心だ)
「おう!結構長く一緒にいるからな〜」
「そっか、私はそれに嫉妬しちゃいそうだよ。だって、私はこの世界での彼の生き方をあまり知らないんだもの。どんな幼少期を過ごしてきたんだろうとか、どうやって魔法を取得していったんだろうとか、人付き合いはどうしてきたんだろうとか、色々気になることはある。けど、聞くのもなあって思ってるんだ。だからさ、私もレインと一緒なんだ」
「オレと、一緒?でもチェーロはあいつに笑いかけてもらえるだろ?オレ、あいつのあんな喜んでる顔見たことねえもん」
「一緒だよ。私もさ、ストームがレインにするような表情見せてもらったことがないんだ。見たいと思って見れるもんじゃないし、見せてとお願いするものでもない。彼の心は彼にしか決められないし、私たちがこうしてお互いを羨ましがっていてもどうにもならないよ。それにさ、レインはもうすでにストームの大切になってると思うよ。ね、ストーム?」
チェーロは笑って前を見た。
気配と足音を感じたのだ。何度も感じたことのあるものだからこそすぐに気づくことができた。
「あなたには気づかれますよね......」
ため息をつきながらストームは近づいた。
「当たり前でしょ?大事な右腕なんだから。それで、どうなの?」
「その表情......面白がってますよね?」
「やだなあ。私はね、ただ君が想いを伝えずにまたうじうじしてるんだろうなあって思ったから背中を押してるだけだよ。しかも、自分のことを好いてくれている人に対してはちゃんと伝えないとだよね?不安にさせちゃだめだよね??」
「は、はい......」
チェーロは笑いながら圧をかけてゆく。
ストームが絶対に逆らえないようにする言い方を知っているのだ。
そんなチェーロの圧に負けストームはレインを見て
「いいか一度しか言わないからよく聞いとけ!」
と勢いよく言った。
「俺はお前のことが大切だし好きだ!!分かったらチェーロさんに嫉妬とかしてんじゃねえ!このバカ!」
「はあ?!そ、それほんとか?!ストーム!」
「うるせえ!一度しか言わねえ!あと隊長って呼んでたのに急に変えてんじゃねえ!」
「だってストームはストームだろ?!」
「だあもうわーったよ好きなように呼べ!!」
ストームに想いを告げられたレインは先程までの苦しそうな顔が嘘だったかのように思えるぐらい満面の笑みを見せている。
(素直じゃないからなあ。 まあ、ちゃんと伝えたなら良かったかな。こうして見てるとなんか懐かしい気持ちになるな)
「チェーロ、話聞いてくれてありがとな!」
「チェーロさん、こいつどうにかしてください!」
二人が笑い合っている様子を見て
「そのままずっと仲良くしててね!」
と、チェーロも笑って親指を立てた。




