雨の音は近い
「私も参加させて!」
チェーロはストームに向かってそう言った。
身体を動かしていた方が余計なことを考えなくて済むと思ったことと、見ていて自分も稽古に参加したくなったため彼女はそう言いにいったのだ。
「なるべく参加しない方向でって言っていたんですけど?」
と、ストームはチェーロを見て困惑した顔をする。
「だって動きたくなったんだ」
「やっぱりクラウに似てきたんじゃ......」
「だから戦闘狂じゃないってば」
「そうですね......えーと、今から模擬戦を見ていただこうと思っていたんですが......」
ストームが困惑したままチェーロに告げる。
チェーロはその言葉に目を輝かせて
「私も模擬戦したいな!」
と、今の歳に相応な表情で言った。
悩みごとと、思い出したくないことまでを思い出さないように、彼女は自分の力を受けてくれる相手と戦いたいと考えているのだ。
(誰かと思い切り戦いたいなんて本当にクラウになったみたいだけど、今の私にはそれが必要だと思うんだ。私のおねだりにストームが弱いのは前から知っている。だから、わざと甘えるように言ってみたんだけど、それは少し恥ずかしかったかな......)
「しかし......」
「まあまあいいじゃねえか!チェーロは隊長にも勝ったんだし危なくはないだろ?」
ストームが渋っていると、その後ろからレインがやってきた。
レインはチェーロが参加することを否定せず、むしろ自分と戦ってくれないかと付け足した。
「うーん、私本気でできる人としたいからなあ......」
チェーロはレインとは模擬戦はできないと断る。
本気できてくれる人。そして自分も本気でできる人ではないと意味がない。その条件を満たす人はこの場にはストームしかいないと彼女は言う。
(私の戦い方知ってて、限界も知ってくれてるから戦いやすいし、ストームが怪我しないようにも戦える。だから本気でできるんだ。レインがどれほどの力を持っているのかも分からないし。まあ、剣の扱いが上手いことは分かったんだけどさ)
そんなことをチェーロが考えているその瞬間、彼女は風を感じた。
ストームが起こすような風ではない。
ただ人が動いた時に起こるような、静かな風。
「これでも、本気でできないって言うのか?」
彼女の感じた風。それはレインが彼女の横に音もなく移動した時のもの。
そして剣を持ちながらチェーロの背後に立っている。
「ってめ、なにしてやがる!」
ストームは間に入ろうとしたが、チェーロはそれを制した。
彼女は微笑んでいる。
「すごいね。油断してたとはいえ、気配を感じなかったよ。うん、レインなら本気で来てくれそうだし......私と模擬戦してくれる?」
「オレがしてほしいって言ってんだけどな〜」
「そうだったね。じゃ、ストーム......審判よろしくね。ああ、もちろん他の隊員たちのを見ないといけないならそちらを優先してくれ」
チェーロが話をしながらグローブをはめて戦闘モードに入る。
「いえ、あなた以上に優先することはないですし、他の隊員だってレインとあなたの模擬戦だと聞けば見ますよ。もうすでに聞き耳立てて周りに集まってますから」
ストームが周りを見渡して言う。
副隊長のレインが戦う姿を見ておきたいと周りに隊員が集まってきていたのである。
「よっし、じゃあ場所も空いてるし審判もいるし......始めるか」
「ああ、よろしく頼む」
「んじゃ早速......『ライトレイン』」
レインがそう呟くとパラパラとした雨が降り出すのだった__




