孤高
「ちょっと、二人しかいないみたいな雰囲気出さないでくれない?」
クラウが不機嫌な顔をしてチェーロとストームの間に割り込む。
二人の世界のような雰囲気が気に入らなかったのだろう。
「ストームに答えを言いたかったんですよ」
チェーロは微笑んでクラウに言う。
それを聞いてクラウは更に不機嫌になる。
「僕にも早く答えてくれない?」
彼はチェーロの目をじっと見つめている。
(正直この人に見つめられるとなんでも言いそうになってしまう。けれど、今回だけは押されるわけにはいかないって思っているのだ。それに、前から言いたいことがある)
チェーロは深呼吸する。
考えをまとめてクラウの目を見返す。
「これはあくまで田宮空だった時のことです。あなたも今ではなくて稜さんだった時の気持ちで聞いてくださいね。俺、あなたの言葉が、表情が、背中を押してくれるところが、悩んでいる時に何も話さずそっとそばにいてくれるところが......好きでした」
前から言いたかったこと。田宮空として伝えたかったこと。
抱え込んでいた想い。決して告げることはできなかった。告げてしまえば関係が変わってしまう。それを恐れたのだ。
告げなければ共にいてくれる。だから最後まで言わなかった。
(できれば今世も言わないでおこうと思っていた。でも、今のことを考えるのだとしたら前の想いを吐き出してしまいたかった。自分が楽になるだけだとしても伝えてしまいたかった)
彼女が乗り越えないといけないこと。
前でのことを忘れることができない彼女にとっては少しづつでも乗り越えていきたいと考えているものがある。自分の抱えていたものを少しでも吐き出すことで前を向こうとしているのだ。
「知ってたよ」
「え?」
「君の視線に気づかないわけ無いでしょ。君が何かしら抱え込まないといけない感情を僕に持ってたのは気づいてたよ。でも僕が何も聞こうとしなかったのは君がいつか言ってくるのを待ってたからだ。まさか、急にいなくなるとは思ってなかったけどね」
クラウは稜の時のことを思い出しながら顔色一つ変えずに言う。
「なんで、待ってくれたんですか?」
「無理に聞き出されるの本当は好きじゃなかったでしょ。そんな君に無理矢理聞き出そうとは思えなかっただけだよ」
「あーもう......やっぱりずるい人だ」
「それで、今の君の答えは?」
さっきの言葉は前としてのこと。
今感じることを言えとクラウはチェーロを見る。
「あなたが自分の人生を自分のものだと言うのなら、私の人生も私のものですよ。けど、そうですね......望んでくれるならまた共に歩んでくれますか?独りが好きなあなたにこんなこと言って頷いてくれるか分かりませんけどね」
「独りが好きだった僕を変えたのが誰だと思ってるのさ」
「それは共にいてくれる、ってことでいいですか?」
「いちいち聞くな」
チェーロは笑う。
いちいち聞くなというクラウの答えは共にいるということを示しているのと同じだから。
独りが好きだった男が変わった。
その理由は他でもない田宮空が作った。そして、今世でもクラウは独りだと物足りなさを感じるようになっていた。
そのため、クラウはチェーロを逃すはずもないし離れる気などないのである。
「なに笑ってるの」
「孤高だったあなたに共にいたいと思わせることができるのが嬉しくって!」




