右腕
チェーロは心を落ち着けるため深呼吸をした。
「よし、落ち着いた。というところで、まずはストームから答えていこうかな」
ストームの方を見てチェーロが言う。
ストームの言葉に対して自分がどう答えるか考えがついたのだ。
「君はね、いつも俺の隣にいてくれて、間違ってたら口に出してちゃんと言ってくれる人。俺が休めてなかったら体調管理もしてくれる。息抜きもさせてくれる。そんな俺の大事な、優秀な、右腕。何度も君がうちにいることは最善なのだろうかと疑った。けど、手放したくなくて君の気持ちを利用していたんだろうね。最初に会った時に助けられたからそばにいたいっていう君の気持ちを。だからさ、今世まで君の大切を俺にしなくていいんだよ。今はチェーロっていうただの小さな女の子なんだから。強さに魅せられたって言ったけど私は強くないよ」
彼女の目はまっすぐストームを捉えている。
言いたいことは全て、一言一句残さず伝えた。
前ではとても助かったし、離したくなかったから気持ちを利用していたのだと素直に伝えた。けれど、今世まで縛りたくない。ストームの大切な人は他にいていいということ。愛しているという言葉を言う相手は別にいていい。それが彼女の答え。
(もし、類だった時に彼の心が俺にあったのだとしてもそれは別だから。私はチェーロで前は空。けど、心までは違うから。過ごしていく時の中で変わっていっているから。私であることに少しづつ違和感を抱かなくなってきた自分もいる。それなのに今の私に甘い言葉を言われたって受け入れられないんだ)
「チェーロさん、俺は言いたいことがあります」
ストームは真剣な顔でチェーロを見る。
「言いたいこと?」
「はい。俺は決してチェーロさんと組長を同様に見ているのではありません。組長は組長。チェーロさんはチェーロさんです。それを踏まえて俺はあなたに聞いてほしいことがあります」
「なに?」
チェーロは彼の声色から、真面目なものだと察して一つも漏らさぬように聞こうとしている。
「俺は、あなたのそばにいたいんです。この世界で記憶を思い出して、あなたに会った時にあなたはもう一度俺を右腕にすると言ってくださった。それが俺にとって何よりも嬉しかったんです。だからこそ、今度こそ最後まで守りたい。その思いが一層強くなりました。巻き込まれたっていいと、それが本望だと感じたんです。あなたにかかる危険も全て跳ね除ける。その想いには愛情もあります。もちろん、あなたに受け入れてもらえるとは思っていないです。けど、そのことだけは覚えていて、そばにいさせてくれませんか?」
彼もまた素直な感情を返す。
チェーロには直球でいかなければ伝わることはない。それを知っているから彼は自分の想いを包み隠すことなく伝えるのだ。
「ばか......そんなこと言われたら断れるわけないじゃん......」
「ばかですみません。チェーロさんには嘘はつきたくないので本心ですよ」
「あーもう......顔暑い......ストーム、私はさ弱いよ。弱いから乗り越えられないことも多いけど、君がいたら平気だと思うんだ。だからさ、そばにいてくれる?」
「それは......願ってやまないことですよ」
ストームとチェーロは笑う。
想いの形が変わったとしても、たとえその想いが消化されなかったとしてもその日もそばにいてもらえるように。
彼はまた笑っていてもらうためにその想いを抱えて生きることにしたのである。
「ちゃんと、考えるからね」
そして、チェーロは聞こえないようにそう呟いたのだった。




