愛
「く、クラウ?!なんでここに?!」
「なんでって君が連れて行かれたって聞いたからだけど」
「だ、誰に?!」
「君の母親に」
扉を開けて入ってきたのはクラウであった。
王のいる間だというのに簡単に入ってきたのだ。
「久しぶりですね。顔パスにしたのは失敗だったかもしれないな。それで、どうしたのかな」
「どうしたってさっき理由は言った。チェーロを勝手に連れて行ったのは誰」
「そんなに睨まないでくださいよ。一応今は僕のほうが立場は上なんですから。というか、見当はついてるのでは?」
「まあ、どうせ君でしょ。ネビア」
クラウはアランから視線を移した。
「確かに僕ですが、勝手にと言われてもねえ。別にあなたのものなわけではないでしょう」
「チェーロが勝手にいなくならないって言ったんだよ。それなのに勝手にいなくなってるからさ。忠犬も連れてきちゃったよ」
「チェーロさーん!!」
クラウの後ろからストームが出てきてチェーロに飛びついた。
「ちょっまって!身長考えて!!」
受け止めきれずにチェーロは後ろに倒れると思った。
しかし、その予想は外れたのだった。
「お元気そうでなによりです!!」
「うん大げさ!あとおろして?!」
チェーロのことをストームが持ち上げたので彼女が倒れることはなかった。
だが、大げさだと彼女は戸惑っている。
「記憶を思い出してからあなたがいないことがどれだけ苦しかったと思ってるんですか!それに、隣の国に行くなら一言ください」
「うっ、ごめんなさい。ネビアが困ってるって言うから。まあ、嘘だったけど」
「相談ぐらいはしてくださいね」
「はい......」
ストームが真剣な顔をしてチェーロに話をする。勝手にいなくなることがもうないだろうと思っていた人がまた急にいなくなったかと思わされたのだ。
真剣になってもおかしくはない。
「まあ今回はネビアが連れてきたからだから、許してあげてね」
「アラン......面倒なことになると思って言わなかったのは私だから庇わないでいいよ」
「庇ってはないよ。ただ僕の息子がしたことだからって言ってるだけ。それに今回は僕も関与してるからさ」
「えーと、王様が今回のことに関与してて?チェーロさんが名前で呼んでて?え?」
チェーロとアランが砕けた口調で話していることにストームは困惑している。
「あれ、ストームは知らないの?」
「だって最近まで記憶なかったでしょ?だから知らないというか言ってないんだよ」
「あーなるほどね。アランはね、樹だったんだよ。ストームも知ってるでしょ?」
「知ってますけど......まさか王になってるとは......」
「あはは、それは僕が一番分からないよ。まあ、良かったねまた空くんの......チェーロのそばにいられてさ」
「ああ、今度こそ一生お仕えすると決めている」
ストームはアランが樹だと分かったので口調を前のように戻した。
チェーロのそばに一生いること。それも、彼が自分で決めた覚悟。
その覚悟を聞いてアランは微笑んだ。
「前も今も空くんのことを大切にしてくれる仲間がいてくれて良かったよ。一生ってなんかプロポーズみたいだね。ネビアが言ってたのってこういうことなのかな」
「な、なに言ってんのアラン?!というかネビア何言ってたわけ?!」
「チェーロはまだ知らなくていいよ。ローゼと話しててね」
「それはするけどね?!」
チェーロはプロポーズという言葉に反応した。
ストームがそういう意味で言ったのではないと分かっているのだが、少し驚いてしまったのだ。
「チェーロちゃんも大変......」
「本当だよ......からかってくるのが多いからね」
「からかってるだけじゃないと思うわ」
「いやいやそんなことないでしょ」
「みんなチェーロちゃんが大好きなのよ」
ローゼは微笑む。自分もその中の一人なのだと。
だから、からかっているわけではないのだと。
「私もみんなのこと大好きだけどね。でも、私が君たちの人生を背負っちゃだめなんだ。今世では仲間以外にも大切な人を見つけて愛して笑って終えてほしい。もちろんそれが最高の選択じゃないって思う人もいるだろうけどさ」
チェーロは自分の考えを伝えた。
自分がすべてを背負えはしないと。人生全部を背負えはしないと。
前のようなことには巻き込みたくないと。
「チェーロちゃんって、自分の中で完結してる......前もだったけど、ちゃんと聞いたほうがいいと思うわ」
ローゼはそう言いながら近くにいたストームを見た。
その視線を感じて、ストームはチェーロに一言告げる。
「チェーロさん、俺は生涯あなたから離れるつもりはありません。前ではあなたに命を救われたことが何度もあった。今はまたあなたの強さに魅せられた。そして生きる理由を思い出した。俺はあなたに出会わなかったら失っていたもののほうが多いんですよ。あなたのいない人生なんて考えられません。嫌だと言われてもそばにいますよ。それに愛していると言うなら、あなたがいいです」
ストームの真剣な顔。その声色。それら全てでチェーロのそばにいたいと伝えてくる。
(な、なに言ってんのこの人?!というかイケメンだから許されそうなこと言ってない?!え、待ってその真剣な顔で言われたら本気にしちゃうんですけど?ていうか愛してるって言うなら私がいいって言った?!は?!)
チェーロは心のなかで暴れている。
かつての右腕の本音を聞き動揺しているのだ。
顔も真っ赤なりんごのようになっている。
「あ、えと、その......」
「やっぱり困りますよね」
「困るとかじゃなくてさ、なんていうか......照れるというか、言う相手自分で合ってるのかな、というか......」
「合ってるに決まってるじゃないですか。他に言う相手もいないですよ」
「そ、そっかー」
チェーロは恥ずかしさを隠そうと顔を背ける。
背けたところで彼女は耳まで真っ赤になっているので意味はないのだが。
「チェーロ顔真っ赤だね」
「アラン、からかうのやめて」
「僕としては君が幸せならそれでいいからね」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどさあ......」
「まあゆっくり悩みなよ。だって、ストームだけじゃないしさ」
「え?」
アランの視線の先にはクラウとネビアがいる。
「僕の最善を君が決めようとしないでくれない?それに君に背負ってもらおうなんて思ってないよ。僕の人生は僕のものだ。そして、君の人生もね」
「僕には、あなたに背負ってもらう人生はないですよ。そして僕の選択が間違っていなかったと証明するためにも、あなたには今世も僕と共にあってもらわないと困ります」
二人はチェーロに近づき、それぞれ伝えた。ストーム同様、本音をぶつけたのだ。
だが、その言葉を聞いて彼女は
(待ってなんでみんなそんな言葉かけてくんの?!言う相手間違えてる!絶対間違えてるって!!え、なに人格変わった?!いや変わったわけじゃないか!!だったらなんなの?!)
更に動揺するのだった。




