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聖女に転生したみたいだが逃げ場がないので今すぐやめたい  作者: 紫雲 橙


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昔話

「えーと、ネビアの......弥一の黒歴史っていうとやっぱりあれかな。俺を......というか組に関係する人を襲撃してきた時。あの時の弥一は尖ってたなあ」

「その話はもういいでしょう」

「あれは忘れられないからなあ。ずいぶん傷つけられたし?それに人質取るとか趣味悪いことしてんじゃないよ」

「へえ......そんなことがあったんだね?それがあんなに空くんが離れなくなるなんて......空くんが優しくて良かったね?」

「あの時のことはいつまで経っても許してくれなかったですけどね」

「許す許さないじゃないけどね。俺はね、弥一があの時のことを理由に組に入れられたのが嫌だっただけ。いつでもやめて良かったのにいつまでも俺のそばにいてくれた。俺はそれが気になってたんだよ。だって昔誘拐されてヤクザが嫌いだって言ってたのにさ。だから襲撃までしたってのになんで嫌だったところに入ったんだよ。なんで最後までいてくれたんだよ。なんで、断らなかったんだよ」


 馬鹿、とチェーロは小さく呟いた。

 襲撃してきたことやその時に関係ない人までも巻き込んだことを理由にネビアの前......弥一は無理やり組に入れられた。そして空が組長になる時には幹部としてそばにいることを決められたのだ。少なくとも。空は弥一が本当は嫌なのにそれを断れずに自分のそばにいたと思っている。


 時々泣きそうになりながら話すチェーロにネビアはため息をついて言った。


「あなたの方が馬鹿なんじゃないですか?僕は嫌ならすぐにどこかに行きましたよ。気づかれないようにように消えるのは得意ですからね。ですがそうしなかった。それが分からないあなたではないでしょう」

「分からないよ。俺だって全部知っていたわけじゃないんだからさ。みんなのこと知っているようで知らないことの方が多いんだと思うし」

「あなたは鈍感で人の好意に気づかない。それも良さなのかもしれませんが、僕があなたについていった理由ぐらいは気づいてほしかったですね」


 ネビアがチェーロの目を真っ直ぐ見る。

 自身が認めたついていきたいと思った者の瞳。

 その者は自分のことを弱いと思っていて、自分に向けられる好意にも気がつかない。


「俺のこと好いてた人とか少ないでしょ。危ないことにも巻き込んじゃったしさ」

「空くんて本当に何も気がつかないよね。そのくせ悪意には敏感なんだから。僕も君に好意を持っていたんだけどなあ。あの時の喧嘩にも意味はあったよね」

「樹との喧嘩に意味がなかったとは思ってないし俺も樹のこと好きだったけど……」

「私も組長のこと、好きよ」

「零にも言われると照れるなあ」


 あの時言えなかったことを素直に伝える。

 空は……チェーロは口にしてもらわなければ分からないのだ。自分に向けられる感情は、仲間に害が及ぶ時か自分に害がある感情しか気づけないのだから。

 前は面と向かって言うことが照れくさくて空も空の仲間も想いを口にすることが少なかった。


「僕もあなたについていきたいと思ったから、あなたを好いていたから共にいたんですよ。それ以外に理由はありません」

「俺もみんなが大好きで大切で、笑っていてほしいってずっとそう思ってたんだ。最後に泣かせてしまったことが心残り。それでも、また昔話をして笑っていたい。そう思うんだよね」

「全部叶えられるでしょう。あなたが望むなら昔話だってなんだってしますよ」

「ネビアの黒歴史も話していいの?」

「あなたが笑っているならそれでもかまいません」

「ははっ……もう、俺甘やかされてるなあ」


 チェーロは微笑む。


(自分の大切な仲間が同じ想いでいてくれる。それがどれだけ嬉しいことか分かってるのかな。分からなくてもいいけどね。俺がただ心の中で思っているだけだから)


「甘やかされてもいいんじゃない。空くん頑張ってたんだから」

「うん、組長頑張ってた」

「ありがとう二人とも」

「僕へのお礼はないんですかね?」

「はいはい、ありがとうなネビア」

「投げやりですよ!」


 チェーロは照れ隠しで投げやりなお礼を言った。

 大切に想ってくれていることは嬉しいが、甘やかされることは恥ずかしいと感じているのである。

 けれど、言葉はちゃんと口にしないと後悔するということも思い知らされた。照れ隠しをしていてはいけないということも知った。だから彼女はもう一度言う。

 

「ちゃんと感謝してるよ」

「あなたが素直だと怖いですね」

「は?失礼だぞ」

「はいはい。というかあなた口調はどうしたんですか」

「これは昔の話をしてたらこうなっただけだ。ネビアたちと話してる時だけだしいいだろ?」

「かまいませんよ」


 口調が変わっていたのは昔の話を始めてから。チェーロは無意識に前の口調で話していたのだ。

 しかし、それは前の仲間と話す時だけなので特に気にすることではない。

 

「なんかまだ話足りないなあ」

「黒歴史を?」

「そうそうまだなんかあったと思ってさ」

「僕もなにか話そうかな。ネビアの黒歴史」

「それってこっちの世界でってこと?聞きたいな!」

「えーじゃああれかな〜」


 チェーロとアランは二人で楽しく話しだした。

 

「僕の黒歴史で盛り上がるのやめてくれませんかね?!」

「ネビア様......諦めたほうがいいわ」


 ネビアが自分の黒歴史で盛り上がっている二人を見て嫌そうな顔をする。

 それを見てローゼはネビアの背を撫でて慰めるのだった。

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