滞在
「そうだ、空く......いや、チェーロは聖女になったんだって?」
「なったというか生まれた時からというかね。今回もその立場を利用して交渉するつもりだったのにその必要はなくなったね。それで、それを聞いてどうしたのかな」
チェーロは急に聖女になったことについてを言われて警戒している。
警戒しているとまでは言わないのかもしれないが、どういうことなのか不審に感じているのだ。
「ふふっ、使えるものは何でも使おうとするところ変わっていないんだね。まあ、それは置いておいて......また抱え込んで徹夜とかしすぎちゃだめだよ」
「その言葉そっくりそのまま返すよ?」
「はは......よく一緒に愚痴言ってたね」
「そうだよ。それにさ、今は私よりもアランの方が大変でしょ?」
「さっきも言ったけど楽しいから平気だよ。みんなが過ごしやすいように考えていくのは苦じゃないからね」
「王様も変わりませんね」
チェーロはわざと王様と言って笑う。
かつての友と昔話をして楽しくてついからかいたくなったのだ。
前では一緒に愚痴を言っていた相手が自分よりもはるかに上になっていることへの寂しさもある。
(どうして私だけこんなに離れているのだろう。たしかに私はもう巻き込みたくないからとみんなに会うつもりはなかった。けれど、みんなに記憶があって私と共にいることを選んでくれるのに、歳も身長も基礎的な力もかなわない。それは、とても悔しいよ。悔しいし、悲しいよ。それに、みんながこれまでどう歩んできたのかも分からない。本当にどうして、こんなにも離れてしまったのだろう)
「チェーロに王様って言われると変だから、それで呼ばないでね」
「私も不思議な感じだからもうやめようかな。って、だから私はもう帰るんだよ」
「そうだったね。まあ、一日ぐらいここにいたら?ほら、ローゼもいてほしそうだよ」
「そう言えば残ると思ってるでしょ......」
「君がローゼには弱いの知ってるからね」
「私は仲間には弱いよ」
チェーロは仲間には弱い。わがままを言われた時に断ることが難しい。
しかし、そのわがままさえも彼女にとってはあってほしいものであった。
いつも苦労させていると思っていたからこそ、組のみんなにはわがままでいてほしいと考えていた。
(そのわがままを聞いてあげられなかった子がいたからあんなことになったんだけどね。でも、やっぱり関係ない人が傷つくようなわがままは聞き入れてあげられない。まあ、幹部はわがままというよりお願いみたいなものだったかなあ)
「組長......まだ帰らないでここにいてほしいわ。一緒に寝たり髪をアレンジしたりしたいの」
「うぐっ、うーん......」
「いたらいいじゃないですか。別にあの戦闘狂にバレたとしてもあなたなら平気でしょう」
「バレたら強制的に戦闘モードでくると思うから嫌なんだよ!」
「組長なら避けれるし逃げれるわ」
「うう......両サイドから訴えてくるのやめて......」
チェーロはローゼとネビアに挟まれている。
挟まれたまま帰らないでと言われているため悩んでいるのだ。
(このままここにいたいけど、クラウにバレたときのことを考えるとな......でも、ローゼがおねだりしてくるの珍しいし......うーん、ネビアにも言われるとなあ。避けれるし逃げれる、か。よし、自分の力を信じよう)
「じゃあ、一日だけね」
チェーロはそう言った。
悩んだ結果このままここに滞在することに決めたのである。
「本当に?嬉しいわ組長!」
「うん、よく考えたらクラウにバレないかもしれないし!」
「あなたのその自信はどこからくるんですかねえ。まあ、一日羽伸ばしでもすればいいんじゃないですか」
「そんなこと言ってるけど頬が緩んでるの分かるからねネビア」
「アランだって同じでしょう」
「僕はネビアと違って表に出すからいいの」
ネビアもローゼもアランも嬉しそうに笑う。
久しぶりに会えたというのにもう帰ると言っていた彼女が滞在すると決めてくれたからだ。
一日だけでも関係ない。いるという事実が彼らにとってはたまらないのだ。
「そんなに喜んでくれるなら良かったよ。私もネビアたちと昔話したり今のことについて聞きたかったりしたしちょうどいいかな」
「昔話?ろくなもの出ないでしょう」
「は?分かった。お前の黒歴史の話してやる!」
「僕も気になるなあ」
「この趣味の悪い二人が!」
「私も聞きたいわ」
「ローゼまで?!僕の味方はどこにいるんですか?!」
「そこにいないならいないな」
チェーロは昔話......主にネビアの黒歴史を話そうと記憶を掘りおこす。
掘り起こさなくても彼女の頭の中にはいつだって仲間との思い出があるのだが。
だから、その中からいくつか話すことにしたのだった。




