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聖女に転生したみたいだが逃げ場がないので今すぐやめたい  作者: 紫雲 橙


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予想外

「お父様、連れて参りましたよ」

「ああ、本当にいたんだね」

「見つかったと言ったではないですか」


 チェーロは隣国の空気も感じることができないまま王の御前に出された。ネビアにすぐ連れてこられたのだ。


(少しぐらい心の準備をさせる時間をくれても良かったと思うんだけどな。まあ、そんな準備もできない場面は多かった。慣れっこだ)


「初めまして、チェーロ・アーランと申します。お会いできて光栄です」


 チェーロはお辞儀をして挨拶をする。


「初めまして、よくこの国に来てくれた。君の国の王とは仲良くさせてもらっている。君のことは息子から話を聞いているよまさか本当にいるとは思わなかったけどね。久しぶりだね空くん?」

「は、い?え?」


 チェーロは驚いた顔をしている。

 目の前にいる王がかつての自分の名を言ったのだ。それに驚かないわけがない。

 言った本人は笑っているのだが。


(あれさっきの聞き間違いじゃないよね?俺の名前言ってたよね?え、待って誰?俺のこと知ってるってことは組の誰か?いや俺のことをそんな呼び方してくるのはいなかった。ということは俺の組の誰かではない。だったら誰なんだ?)


 チェーロは考える。誰なのか、と。考えて思い当たる人間がいないわけではない。

 関わってきた人が多いため思い当たる人も多いのだ。


「えっと……ごめん、誰?」

「あ、そっか急に言われても分からないよね。僕は(いつき)神崎樹(かんざきいつき)だよ。今はアラン・フォグっていう名前だけどね」


 男は微笑む。 

 かつての友人に出会えた嬉しさを噛みしめるように。かつての友人に自分もこの世界にいるのだと伝えるために。


「い、樹?!え、ネビアの父?!って、連れてこなきゃ一ヶ月後に婚約者を勝手に決めるって言ったあの?!」


 友人に出会えたということに喜びながらも自分が連れてこられた理由を思い出してチェーロはネビアの方を見て言う。


「そんなの嘘に決まっているでしょう。ああ、神崎樹が僕の父であるというのは本当ですよ」

「う、嘘かよ......」


 チェーロは気が抜けたようで座り込んだ。

 その様子に不敬だと王の護衛としてそばにいた者たちが声を上げるがそれを抑えた者がいた。 


「発言を許されていないのに声を上げることの方が不敬。今すぐ出ていきなさい」


 その者はネビアに似ている雰囲気を纏う女性。

 その女性の言葉に対してアランは


「よく言ってくれたね。僕も護衛がいすぎると話しづらくてかなわない。だから、ローゼ以外出ていっていいよ」


 と賛同した。

 王の意見には逆らえないようで、先程までいた者たちはぞろぞろと出ていった。


「よし、これで話しやすくなったね」

「うん、それはいいんだけどね......なんで人がいる状態で記憶があることを言い始めたのかな?」

「え?だって空くんそういうの気にしないでしょ?」

「まあ気にしないけどね......あとすごい気になってるんだけどその女性ってさ......」


 チェーロはローゼと呼ばれた十七、八歳程の女性を見る。


「ローゼのことですか?あなたも覚えがあるでしょう。前も今も変わらず僕にそっくりですから。ああ今は義妹ですよ」

「やっぱり(れい)だよね?!今も弥一のそばにいるんだねえ......会えて嬉しいなあ」

「組長.....私も会えて嬉しいわ。頭撫でていい?」

「急だね?!いやでも零に撫でられるのはちょっと......」

「嫌?」

「そんな可愛く首傾げてもだめ!」


 チェーロはローゼに近寄って話しかけた。

 懐かしさと嬉しさ。そして前も今も変わらず大切な人のそばにいることができている彼女に良かったねと言いたかったのだ。

 しかし、いくら幼くなったとはいえ頭を撫でられるのはやめてほしかったようである。


「僕と会った時はそんなに喜んでいなかったくせに......」

「え?喜んでたけど?」

「態度に出してくださいよ態度に」

「はいはい。嬉しかったよ」

「適当じゃないですかね?!」


 チェーロはネビアに態度に出せと言われたから出したのに適当だと言われたことに納得がいっていない。

 だからこう言うのだ。


「本当に嬉しかったんだよ弥一に会えたことも、樹に会えたことも、さ。だから今回だけは嘘つかれたことを許そうかな」

「嘘ついたことは本当にごめんね。にしても、空くんがそんなに幼くなっていたとは思わなかったなあ」

「それは自分も思ってるから。なんでみんなよりもこんなに差があるんだろうねえ。しかも女の子っていうね」

「うん、可愛くなったね」

「樹に言われると複雑な気持ち......そうだ、アランって呼ぶね。あっ、そうだ一年後またくるからよろしくね」

「ああそうだったね。というかもう帰るの?」


 アランはチェーロに聞く。 


「うーん、ほら言わずに来てるからね。うちの右腕と戦闘狂が怖いかなって」

「あなたが誰にも言わないでって言ったんじゃないですか」

「いやそれはネビアが困ってるって思ったからだよ。このまま数日いるとクラウが乗り込んできそうだからさ」


 ネビアが困っていると思ったから来た。それなのに嘘だったということはもう帰ってもいい。

 帰らなければ乗り込んできそうな人を知っているから一刻も早く戻った方がいいと思っているのだ。


「あの人もいるのね」

「うん。相変わらずだけど優しくなったと思うよ」

「あの人、元々組長には甘いわ」

「そうかな?」

「右腕って自称してた人も組長には甘かったわ」

「それはそうだと思う」


  ローゼの言葉にチェーロは頷く。

 ストームがチェーロに甘いのを自覚しているのだ。しかしどれだけ言おうと聞かないのも分かっている。


(ストームが私に甘いのは否定できないけど、クラウは甘くないと思うんだよなあ。前も今もあの人は厳しいよ……まあ、優しくはなったけどね)


「空くんが今も楽しそうで良かったよ」

「樹も楽しそうだね」

「うん。楽しいよ……でも、最近はネビアが君に会いたいってうるさいからね」


 アランがため息をついてそう言った。

 そして、チェーロはそれに対して笑って答えた。


「そういう時は無視しとくといいよ」

「だから僕の扱いが雑ですよ!!」


 チェーロの答えを聞いてネビアの大声が城に響くのだった。

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