作戦
「まず一つ。私はネビアとの歳の差がある。それをネビアの父がどう思うのかというとこだな。それと、一応国をまたぐならそのへんも考慮して......まあ、婚約者になる気はないからネビアの出された条件を取り消させるだけならそういうのは考えなくていいか」
「あなたあくまでも条件を取り消させるだけ、なんですね」
「当然だろ?ネビアの婚約者になるぐらいならストームの方がいい」
「僕に失礼ですよ。これでも申し出は多かったんですから」
「地位を狙われてたんじゃないか?」
二人はどのようにして一ヶ月後の件を取り消させるのか話し合いをしている。
話し合いというよりただ雑談をしているだけだが。
「全くあなたは......少しは真剣に考えてくれませんかね?」
「考えてるよ。その上で分かったことがある。多分私の聖女という立場は利用できるよ。利用できるものは利用する。それはお前もしてきたことだろ?」
「あなたも随分と強かになりましたね......」
「誰かさんたちのおかげでね」
チェーロは微笑む。前のことを思い出しているのだ。
昔はどじもするし勉強も得意ではなく人をまとめることもできなかった自分のことを。しかし、友人と仲間と呼べる存在に出会って変わり始めた前の人生のことを。
いつのまにかこけることも少なくなり、力も強くなっていた自分のことを。
空として生きてきた前で仲間をまとめられるようになった自分のことを思い出している。
(まとめられたって言っていいのかと思うほどふりまわされたけど、その時間が嫌だったわけじゃない。みんなといる時間は何よりも大切だった。まあ、彼らのおかげで心も強くなったものだなあ)
「それで?どう利用するつもりですか?」
「どうしよっかな」
「なんにも考えてないんですか?!」
「いやーこういうの久しぶりすぎてね。あんな自信満々に話しておきながらお恥ずかしいもんだよ」
「はあ......頭痛くなってきましたよ」
ネビアがため息をついて頭を抱える。
チェーロが真剣な顔をして自信満々に話していたから聖女という立場の利用法を思いついているものだと思っていたのだ。
しかし、実際特に考えていなかった。それを知って驚いているし、呆れているのである。
そんな様子を見たあとチェーロは口を開いた。
「さてと、冗談はおいといて......聖女というのは一人しかいない。それは間違いないんだ。そして、魔獣が入ってこないように結界をしたり、回復魔法を広範囲で使ったりといったような役割がある。中でも結界は重要なようで破れると非常に危険だ。今はまだこの間張った結界があるけれど、それがなくなったらどうなるだろうね?」
チェーロは目を細めてネビアに聞く。
「そうですね、混乱が起きるでしょう」
「うん、だからそこをつく。要望を通さないのであればもう結界は張らないって。もちろんハッタリだけどね。他の人が怪我するのも嫌だしさ」
「相手が嫌がりそうなことを提示するくせにそういうことを言うんですから、あなたは変わりませんね。時々急に恐ろしくなる」
「ん?仲間が困ってるんだから手を差し伸べるのは当然でしょ?」
間違ったことは言っていないというように笑う。
そんな彼女の表情にネビアもつられて笑うのだった。
「策も決まったところですし、ついてきてくださいね」
「連れて行くのは確定なんだね」
「連れてくると言って出てきているので。ほら、仲間が困っていたら手を差し伸べてくださるんでしょう?」
「はいはい」
こうして彼女はクラウとストームに伝えないまま先に隣国へ足を踏み入れることになるのだった。




