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聖女に転生したみたいだが逃げ場がないので今すぐやめたい  作者: 紫雲 橙


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訪問者

「あ、お邪魔してます」


 チェーロが走ってから家に帰ると一人の男がいた。その男は彼女の部屋で茶を飲んでいる。


「お邪魔してますじゃないよ!!どっから入った?!母さーん、不審者!!」


 チェーロは自分の部屋から一旦出て母の元へとかけていった。

 

「許可はしているから不審者ではないわよ?それにしてもあなたにかっこいい王子様のお友達がいるだなんてねえ」


 母はにっこりと笑う。その表情は穏やかで、安心しているような様子だ。

 数日前から何かを抱えている娘のことを心配していたのである。そのため友人がいるということを知って、自分には言えないことも話せるような子がいるのだと安堵しているのだ。


「母さん?!正体知ってて中に入れてるの?」

「ええ。でも隣国の王子様だとしてもあなたの友人なんでしょう?友がいることはいいことよ。たとえ私に言えないことがあっても、お友達にはなるべく隠し事はしてはだめよ。信頼の置ける者には誠実でいなさい」


 立場がどうであれ友といってくれるのなら大切にしなさいと、誠実でいなさいとチェーロを見て真剣な顔をする。

 

(隠し事をしてはいけない、か。確かに私は言っていないこともある。それを母さんも気づいていたのだろう。でも、友人だからって勝手に入れるのはなあ......まあ、悪いやつじゃないからいいんだけど。というか本当になんでいるんだろ)


 母の言葉に頷いたあとに彼女は部屋へと戻っていった。


「人のこと見た瞬間に不審者ってひどいんじゃないですか?」

「いや自分の知らない間に人が入ってきてたら驚くだろ。てかなんでいるのネビア」

「ちゃんと許可取っているからいいでしょう?遊びに来たかったんですよ」

「はあ......そういうのはいいから本題」


 ため息をついて座りながら本題に入れと促す。

 それを聞いてネビアが微笑む。


「あなた僕の扱いが雑ですよね......まあ本題には入りますけど、チェーロさん僕の婚約者になる気はないですか?」

「お断りします」


 ネビアからの申し出をチェーロは素早く断った。

 絶対になりたくないという意思が伝わるように。


「もう少しぐらい考えてくれても良くないですかね?」

「なんで考えないといけないんだよ。断られるのぐらい分かってたでしょ。だいたい本題がそれってどういうことなの?そもそも急に来るな」

「なんかあなたクラウに似てきました?」

「最近よく一緒にいたからじゃない?で、理由は?」


 チェーロは微笑んだまま理由を聞く。

 

「色々と考えたんですよ。あなたが僕の国に来る。それは構わないんです。ですが、婚約者の話が出ても一切断ってきた者が幼い女を連れて歩く。それを周りが見たらどう思いますか?」

「なるほど。面倒なことになりそうだな。だが、別に私一人で行くわけじゃない。クラウもストームもついてくる。だから平気だろう」

「ストームって?」

「ああ、私の右腕だ。今も前も、な。類の記憶を思い出したみたいなんだ」

「あの忠犬ですか......確かにあなたに面倒事がこないように対処するでしょうね」

「彼は優秀だからな」


 チェーロは組長時代の口調で話している。

 ネビアが自分に婚約者になってくれと申し出るなんてなにか事情があるのだろうと踏んで、その事情に対して改善策を答えられるようにしているのだ。


(なんの理由もなく私に婚約者になってくれと言うような男ではないというのは私も分かっている。それに、先程言ったことが理由なのだとしたら面倒なだけで対処できないこともない。多分まだなにかある)


「ネビア、本当の理由を聞かせてくれないか」

「あなたには隠し事ができなくて困りますね。本当の理由も何も先程のも本当だったんですけどねえ」

「そういうのはいいから。さっきのことはどうにかなることだ」

「僕、一ヶ月後に勝手に婚約者を決められるんですよ。父にもう逃げるなと言われましてね。探していたものは見つかったと言ったんですけどねえ」


 ネビアは少し俯いて言った。笑っているような表情ではあるが目は笑っていない。

 勝手に決められる。彼の意思など関係ない。家柄やマナーがしっかりしている女性と勝手に婚約を結ばれる。今まで断り続けてきたがそれはもう許されないのだ。


「そして、見つかったのならその者を婚約者として連れてこい、と。連れてきたら勝手に決めはしない、と」

「なるほど、な。それで急に来たのか。しかし、私を連れて行ったところで納得するのか?」

「僕の探していたのはあなた以外にいないですよ?」

「そ、それは嬉しいけど......でも、やっぱりごめん」

「なんでそんなに嫌なんですか?」

  

 ネビアはチェーロに近寄り手を握る。


「あのね、私はもう空じゃないし組長じゃない。お前が好きだったのが空で、お前の組長ならその感情はチェーロにじゃないから」

「は??誰がいつ組長だったあなたのことを好きだったと言いました?恋愛感情なんてものをあなたに向けたことはありませんよ。僕はあなたの悔しそうな顔を見たりあなたのほうけた顔を見るのが好きだっただけです。探していたのは、ただあなたが一人で苦しそうな表情をしていないか見たかっただけですよ」


 ネビアがチェーロを婚約者にしたいのは恋愛感情からくるものではない。

 空を探していたのも恋愛感情があったからではない。

 

「趣味悪!!なおさらなんで私なの?」

「あなたなら大人を丸め込む話術を持っているでしょう」

「ネビラに言われたくないけどそうかもね」

「だからあなたを連れていけばどうにかなると思いまして」

「あーうん、そっちのがネビアらしいな。はあ......まあ、仲間の面倒事背負うのも組長の仕事ってことだね。いいよ、ただクラウには伝えないでね」

「言われなくても伝えませんよ。というか、あなたさっきもう組長じゃないとか言いませんでした?」

「ん?そんなこと言うならついていかないからな??」


 チェーロはネビアの申し出を受けた。

 自分の話術を求めているということが分かったから。


(もう組長ではないけどネビアも仲間だからな。正直絶対になりたくないけど、仕方ない。私以外に頼める人がいないんだろう。まあ、大人を丸め込むのに付き合ってやるとするか)


 ため息を付きながらも彼女はどのようにしてネビアの父親や周りの者たちをどのように説得するか考え始めるのであった。

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