呼び出し
ストームに類の記憶があることが判明した日から数日経ったある日チェーロは王に呼び出しをされていた。クラウから言伝があったのだ。
(なんか私よく呼び出しされるんだけどそんなに何を言うことがあるんだか......というか呼び出しのことをクラウに伝えさせるなら内容も伝えさせればいいのでは?そうもいかないことがあるってことか。なんの件なんだろ?)
なぜ呼び出されたのかも分からないまま彼女は王の前に姿を表した。
「何度も呼び出してすまないな」
「いえ、どのようなご用件でしょうか?」
「そなたはこの国から出たいと言っていただろう?それにクラウもついていくと聞かなくてな......心配なので留学という形で隣国に行くというのはどうだ?」
王はチェーロに提案をする。
自分の息子であり王子でもあるクラウがついていくと言うから心配になったのだろう。チェーロが一人で行くと言った時にも心配していたのだが、息子もとなって余計にそういった感情を持ったのだ。
(なるほどなあ。クラウが親に言うのは意外だったけど、伝えておかないと誘拐だと思われてしまうかもしれないしそちらのリスクを避けたのかな。にしても留学、か)
「それは隣国も了承しているのですか?」
「うむ、あちらの王子が案内役もすると言ってくれてな」
(隣国のって......ああ、ネビアか。面白がって了承しそうだな。まあ、あいつなら安心はできるけど......クラウと喧嘩しないかな?それはちょっとやめてほしいけど......ストームもいるしいざとなったら止めれるかな)
ネビアが案内役を務めるということは安心だが、クラウと喧嘩をしてしまわないかという不安はある。しかし、チェーロはストームも共にくるということを知っているのでいざとなったら止める役を押し付けようようと考えているのだ。
いざとなったらなのでそれ以外は自分でなんとかしようと思っているのだが。
「そうですか......ではそのようにしていただきたいです」
「そなたならそう言うと思ってすでに話は通してある。一年後という期間は延ばさないがかまわないか」
「はい。こちらこそありがとうございます」
チェーロは王に頭を下げて感謝する。
自分がなんと答えるのかを予測して先回りされていたことに驚きはしたが、前にもそういったことはあったため深く考えないことにした。
(先に手配されているなら楽だな。あっちの国との友好関係も上手くいっているようだし。最初にネビラと会ったのは国のために彼の婚約者になれという話だったか......あの時は驚いたものだな。クラウと会ったあとで記憶があるの分かった上で顔を合わせたから思わず笑っちゃったからなあ)
「......息子を頼んだぞ」
「私の方こそ迷惑をかけてしまうかもしれませんので......」
「いや、うちの息子はあまり人の多いところを好まない。だが、囲まれてしまうことがあってな......」
「そういうことでしたら、おまかせください」
王はただ一人の父親の顔をしている。
本当は近くにいてほしいいが、チェーロについていくと言って聞かない息子の気持ちも尊重したいのだ。だから、自分が少しでも安心できるように手配した。
そして、チェーロにも一つお願いをした。
「私にできることで王子をお守りしてみせますから」
「本当にそなたは頼もしいな」
「私についてきてくださる方のことは守りたい。私にとっては当然のことですよ」
チェーロはまっすぐとそう答える。
その言葉に嘘偽りはない。
守り抜く。それが彼女の思うこと。たとえ自分がどんな目にあおうとも仲間は守り抜く。それも彼女の覚悟なのである。
「そうか......では任せたぞ。絶対にクラウに傷一つつけずに、そなたも共に帰ってくること」
「はい」
こうしてチェーロと王の誓いが成立したのであった。
(私も共に帰ってくること、か。仲間は守るけど自分の守り方ってどうするんだったかな。何度怒られてもそれだけは分からなくて、自己犠牲やめろって言われてもしちゃってたみたいで......でも、それが自分だったからなあ。けど、もう泣かせたくはないから......自分のこともちゃんとしてみよう)
彼女は目標を作った。
無茶はしないこと、という彼女が前のときに何度も破ったこと。それでも、今世はそうしてみようと目標にしたのだ。
もう悲しむ顔は見たくない。それが理由である。
(もう泣かせないと誓うよ。悲しむ顔をさせてちゃ組長失格って言われてしまうからね。なんて、もう組長じゃないんだけど......それでも仲間が大切な存在であることに変わりないから。大切な人が笑ってくれるように頑張るよ。それが私の新たな覚悟だ)




