君がいるから
「さて、解決したしこの国から出ていかないよね?」
クラウがチェーロに聞く。
そう、彼女が国を出ようとした理由は妙な紋章が現れたからだ。しかし、彼は忘れている。
「え?出ますけど?」
彼女は妙なものが現れたからというのを理由としていたが、それが現れなくとも出るつもりだったということを。クラウはそれを忘れていたのだ。
だから解決したから出ないよねと聞かれた時に彼女はなんで?と首を傾げた。
「チェーロ様この国から出るんですか?!」
椅子から勢いよく立ち上がりストームが言う。
そのことを知らされていなかったから驚いているのだ。知らせていなかったのは彼女が誰も巻き込みたくないと思っていたからだが。
「うん。あと様呼びやめてくれる?類って分かってからだとなんかむず痒い」
「では組長呼びで!」
「うん私組長じゃないからやめようか?」
組長と呼ぶと言われてもそう呼ばれて反応したくはない。彼女はそう思った。
「で、ではチェーロさんで」
「うん、それが一番いいな」
「チェローさん改めて聞くんですけど、ここから出るって本当ですか?!」
「本当だよ。王様には止められたから一年後なんだけどね」
ストームの質問にチェーロは間髪入れずに返す。
その答えにストームは驚きこう返す。
「俺もついていきます!」
「なんで君までそう言うかな......」
彼女は頭を抱える。自分一人でなんとかしようとした時にもクラウがついてくると言った。その時のことを思い出して君も、と言っているのだ。
(どうしても一人にはしてくれないらしい。前からそうだったけどね。俺のことを思い出してくれたのは嬉しい。でも、本当につれていってもいいのかと思う。数日前から悩んでいたものが解決したとはいえ今後何があるかなんて誰にも分からない。それに、彼には迷惑をかけた分自由に生きてほしい)
ストームのことを考えるからこそ、彼女は彼についてきてほしくないと願う。
最後に泣かせてしまったから、今度こそ自分の知らないところで大切だと思う人と笑い合って生きていてほしいと願う。
「だって、俺の場所は貴方のそば。貴方が言ってくれたんでしょう?自分の右は俺以外にいないって。だったら、俺は貴方に......チェーロさんについていくという選択肢はないんです」
(どうやら自分で自分の首を絞めたようだ。右腕は類しかいない。それは本心だから言った。でも、その言葉に彼が縛られてしまうなら......)
「ストーム、俺の右腕は君じゃなくてもいるんだよ。だから、君は自分の好きなようにしていいんだ」
彼女は嘘をついた。いつものような本当と嘘が混じったようなものではない。全てが嘘。先程の言葉に本心なんて一つもない。他にいるなんて嘘。いるわけがない。
彼女が、大切で守りたいと思う右腕はただ一人なのだから。
「チェーロさんは、嘘が下手ですね。そんな顔で言われたって説得力ないですよ」
ストームはチェーロを見て微笑む。
彼女の顔が苦しそうで、泣きそうな顔をしているから。
「馬鹿......俺のことはいいんだよ。俺とのことはいいんだよ......君がいてくれたから助かったのは事実だけど、今はいいんだよ......今世で何も与えられてないのに、君を縛りたくないよ......」
「言わせていただきますが、俺は貴方にもらいましたよ。生きる理由を。つまらないと、どこか穴が空いたような気持ちを抱えていた俺に生きる理由をくださいましたよ。前も今も、貴方は俺に生きる意味をくれたんです。俺は縛られるんじゃない。自分の意志で貴方と共にありたいんです」
ストームはチェーロの手を取る。
まだ幼い彼女の手は小さくてストームの手ですっかり隠れてしまう。
「なんで......私が今できることなんて少ないよ?ただの五歳児だよ?聖女の力も少しずつしか扱えない子どもだよ?また迷惑かけるよ?」
「迷惑をかけられた記憶はないですけどね。貴方は自分でなんとかしようとしてしまいますから」
「もう巻き込みたくないよ......」
「貴方のトラブルに巻き込まれるのは本望です」
ストームはチェーロの言葉に次々と答えていく。
彼女は遠ざけようとしているが彼にはそんな気はない。むしろ自分から巻き込まれにいく。
「もう......本当に馬鹿......それで、そんな君を離したくないって思ってしまう俺も馬鹿だ......」
彼女は涙を流した。
堪えていたが我慢できなくなったのだ。
「いいんじゃない馬鹿同士で。どうせ断ってもくるでしょ忠犬は」
そんな二人の様子を見てクラウが言った。
「チェーロさんが俺を拒んだとしてもおそばを離れない。それが俺の覚悟だ」
「もう......ストーム、進む道は決まってないし茨かもしれない。それでも、きてくれる?」
「どこまでもお供しますよ!」
その答えに彼女は微笑む。
涙を拭いてこう言ったのだ。
「君がいるなら私はまた強くなれるよ」と。




