思い出す
チェーロはクラウと共にいることを決めた。巻き込みたくないと考えたところで彼には通用しない。
クラウはチェーロが離れようとしてもつかまえにいくだろう。もう一人にはさせない。それを本人に言うことはなくとも、クラウはそう思っているのだから。
(クラウにバレた時点で私が折れるのは確定していたんだ。だって、この人が私を逃がしてくれるわけがなかった。言葉には出してくれない不器用な人だけど、ずっと心配してくれてるのも知っていた。俺が迷う時はいつも背中を押す言葉をくれた。ただ自分の言いたいことを言っただけだったとしても、それが俺に力をくれていたのは事実だ。そして自分が決めたことにはまっすぐ突き進み行く手を阻むものがあるなら倒していた。そんな人が私のもとに来た時点で受け入れる以外の選択肢はなかった)
「はあ......また貴方に負けてしまった......」
チェーロはため息をつく反面嬉しそうに笑う。
誰も話さずに、誰にも関わらないようにという決意をしていたのにそれを簡単に曲げられてしまった。王と話したときにはそんなことなかったというのに。
仲間には弱い。それは空であった時から変わらない。
「何言ってるの。まだあの時の報酬もらってないんだけど?というか、君僕に何度か勝ってるでしょ。忘れてないからね」
クラウは大きな仕事をした時の報酬として、遊びという名の戦いを空に要求していた。
しかし、その報酬を渡してもらう前に空がいなくなってしまったのでまだもらっていないのである。
それ以前にも報酬として戦ってはいたので今更なことではあるのだが、報酬をもらわないと気がすまないのだろう。
前で戦いをした時の記録まで覚えているほどなのだから。彼にとって空からの報酬は決して忘れることのないものだ。自分に勝つことができる数少ない相手。
「そういうことじゃないんですけどね......って、報酬の話はもう良くないですか?今にまで持ち込まなくても......私まだ前と同じようには戦えないですよ?」
「ストームに勝った相手がよく言うよ」
「勝てるって思ったから。だって、前の記憶で戦ってきた相手より遥かに弱い。姿も声も似てるのに力は一切似てないですよね彼」
「君の右腕にってこと?まあ、あの忠犬に比べたら悪いでしょ」
「類をいつまでも忠犬って呼ぶのやめてくださいよ」
「だってずっと君のそばから離れなかったし、君以外には反抗してたじゃない」
「それはそうですけど......」
二人はストームに似ている類の話をする。
空の一番そばにいて仕事のサポート、体調管理などあらゆることをしていた。類は空以外の者にはあまり心をひらいていなかった。幹部たちには空までとはいかなくても心をひらいていたようだが。
(あれでも時が経つにつれてましになってきたほうだったけどなあ。最初の頃は誰にでも噛みつこうとするから焦ったものだ。俺を思っての行動だったから咎めるわけにもいかなかったし、その行動が嬉しくなかったわけじゃない。ああ、こんなに彼のことを思い出していたら会いたくなってきてしまった......)
チェーロは窓から差し込む少しの光を見上げて彼のことを思い浮かべる。そんな様子の彼女を見てクラウは言う。
「どうせまた会いたいとか思ってるんだろうけど、君のそれをどうにかするのが先だからね」
「本当に隠し事できませんね......そもそも、何かも分からないのにどうにもできなくないですか?」
「だから考えるんでしょ馬鹿なの?」
「ストレートな罵倒やめてもらえます?!」
数日前から急に出たという紋章。それは未だになにかも知らない。
どうにかしないといけないような気はするものの、あまり嫌な予感はしていない。しかし、考える必要はあるとチェーロは思っている。
「それが出る前って何があったのさ」
なにか原因があるとしたらそれが出る前。だからクラウは聞いたのだ。
「そうですねあれは......」
数日前のことをチェーロは語りだす。




