突撃
今後は関わらない。これはチェーロがこれまで関わってきた者たちと離れる時苦しくならないように決意したことである。今すぐにでも出ていきたかった彼女は王に止められた。一年間関わりを深くしてしまえば離れがたくなる。そうなってしまわないように彼女は決めたのだ。
しかし、そう上手くはいかないのであった......
「やあ、何をしているんだい?」
「こっちが何してんのか聞きたいんですけど?!何してんですか?!」
何をしているのか聞きながら窓を開けて勝手に入ってきたクラウに対してチェーロは叫んだ。
クラウはそんな彼女に向かって
「最近顔を出さないから体調でも悪いのかと思ってね。それで、なにをしていたんだい?」
ニコニコと笑いながら同じことを聞いた。
その表情は彼を知っているものが見たら誰でも怯えるような表情。
笑っているのに目の奥が笑っていないのだ。おまけに声には圧がかかっている。
(ああ、これバレてるや......大方王に聞いたんだろうな。いくら息子だからってあの王口が軽いな......クラウが私が来ていたのを知っていてあとから話を聞いたのかもしれないけどさ。にしたって、窓を開けて入ってくるって......いや私が不用心なのが良くないんだけど......あー言い訳が思いつかないなあ)
彼女が誰にも言わなかった理由。こうしてやってくるだろうと思っていたから。さすがに窓から直接来るとは思っておらず驚いてはいるようだが。
もうすでに自分が何をしようとしていたのかバレていても、言い訳をしようと考えているところは変わらない。彼女は前でも仲間に心配をかけないようにと、無理をしようとしている時や抱え込んで苦しくなっている時には言い訳をしてきた。
「そうですね......少し休んでいただけですよ。ほら、私だって何度も城に向かうのは疲れますし」
「嘘だね。仮にそうだったとしても君はそういう時には伝えに来る。伝えにも来ないってことは知られたくない何かがあるってことだ。あと、君がこの国から出たがってる話は聞いたから隠したって無駄だよ」
クラウはチェーロの言葉をすぐさま否定した。裏は取ってきているのだから隠さず全てを話せと言いたいのだ。彼女はクラウが真剣な顔をしていることに気づきため息をついた。
「貴方が全部考えたうえで来ているんだったら私が隠せるわけないじゃないですか......巻き込みたくないから何かあったとしても一人で対処できるようにしようと思ってたのに。なんで突撃までしてくるんですか......」
「君から一緒にいてくれるかとか聞いてきたくせに自分から離れようなんていい度胸だよね。大体君は前から自分のそばにいる人を頼ろうとしない。巻き込みたくないとか、君が言えることじゃないよ。ついていくことを決めた時点で覚悟していたからね。それなのに、また自分一人で背負おうとしてるとかほんとに馬鹿なんじゃないの?」
クラウが怒りをあらわにして彼女に言う。
チェーロに対しての説教でもあり、空に対してずっと思ってきたこと。
(この人がこんなふうに感情を出して俺に何かを言う日がくるとは......って、今までにもあったかな。馬鹿、か。何も変わらないな俺は。バカソラって何度も言われたのになあ)
「すみません、私はやっぱり馬鹿です。一人じゃだめだって知っているのにまた一人で背負おうとしてました。でも、巻き込んで怪我をさせてしまうかもしれない。取り返しのつかないことになるかもしれない。私はそれが嫌なんです」
彼女は自分の意見をまっすぐとクラウに伝える。
ただ遠ざけたいだけじゃないと知ってもらうために。
「君は僕がそんなに弱いと思っているわけ?」
「そうじゃないんですけど......」
「だったら僕にぐらい言っても良かったんじゃない。というか、勝手にいなくなるとかもう許さないから」
クラウのその言葉を受けて彼女は驚きつつも申し訳無さを感じていた。
前では急だったから、言葉を残せずいなくなってしまった。
「もう勝手にいなくならないですよ」
「だったら一人で出ようとするな。出るのは一年後なんでしょ?僕もいくから」
「は?!」
クラウの思わぬ答えにチェーロは大きな声を出した。
「いや、え、なんでですか?」
「これは決定してるからね」
「え?!クラウこの国の王子!!出てもいいんですか?!って、そもそも私は一人でどうにかしますって!」
「うるさい。何年探したと思ってるのさ。やっと見つけたのに手放すわけないでしょ」
クラウは微笑む。
「稜さんの特大のデレが......しかもこうなったら貴方なにも聞いてくれないですし......やっぱり名前変わっても性格はあんまり変わらないですね」
「君もね」
「うっ、そうですけど......」
チェーロはもうクラウに何を言っても聞き入れてくれないだろうと判断した。
生まれ変わっても、名前が変わっても本質は変わることはない。
それは彼女自身にも言えること。
「ねえ、クラウ。ついてくるならまた迷惑かけちゃうと思うんですけど......」
「そんなの今更。君が一人で抱え込むよりずっといいよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
彼女は自分の心が少しずつ軽くなっていくのをその時感じたのだった。




