稽古
(私の覚悟......もう誰も泣かせない。私の誇りは、仲間で友人。誇りを泣かせてしまった前の記憶は決して消えるものではない。だからこそ今を生きる。誰も泣かせないために強くなる。私はそう決めたんだ)
チェーロは守りたいもののために強くなる。彼女は前からそうだった。組長をしていた時から、なると決めた時から自分の大切なものを守るために覚悟を決めた。
今もそれは変わらない。たとえ離れてしまうとしてもそれまでは自分の手で守り続けたい。それが彼女の願いでもあり覚悟。
「チェーロのその目はいつ見てもいいな!俺も手加減しないでいいと分かる!!」
彼女のまっすぐとした瞳を見てソルが言う。ソルは拳を握りしめてチェーロに向かう。
「私だって手加減しない。いつでもこい」
グローブをはめると組長の時のことを思い出すのか彼女の口調はいつもと違う。
本人はそのことに気がついていないし、戦っているソルも特に気にもしないためこのまま続行となる。
彼女たちが気にしなくても見ている二人には違和感があるようだが。
「チェーロがソルと戦う時の口調はいつになってもなれないんだぞ......」
「普段の温厚なチェーロ様も素敵だが、俺を負かした時のような彼女も素敵だ......」
リオは不思議そうな顔をして、ストームはまたキラキラとした目をしている。見ているものは同じだというのに感じることはそれぞれなのだ。
「こんなものか?ソル」
「チェーロこそ今日はまだ本調子ではないようだな?拳がいつもより軽いぞ」
チェーロとソルはお互いに煽り合っている。どちらが先にその煽りに乗せられるのかは分からない。
だが煽ることでお互いが最大の力を出せるようにする。それが二人の狙いなのだ。
「そうか、なら......」
チェーロがそうつぶやき、光を放出させる。その光は純白。染まりそうなのになににも染まらせない。そんな意思を感じる純度の高い光の結晶。
(良かった出せた。今世で得た力。聖女の力なので私だから扱えるもの。まあ、自分の戦闘スキルはほとんど初代に似ているようなので、このグローブを使ってできることなんて分かっている。この光はただの光ではなく、私の覚悟。言ったら怒られそうな力。でも、まだ問題はない。グローブもあればある程度は制御される。使うことにためらいはないよ)
彼女は稽古だとしても手は抜かない。初代が残したグローブというのは彼女の助けになるものであり、戦闘スタイルが似ているからこそ扱えるもの。
光は、彼女自身の覚悟。彼女の内から湧き出るもの。その力の使い方を彼女は分かっている。
そして、その力の代償も......
「止まれチェーロ」
「降参か?」
「うむ。その光を受けられるほど俺は強くはないのでな!」
負けたというのにソルは笑っている。
チェーロの持つ力の大きさを彼は即座に見抜いたのだ。
「ソルさんが弱いということはないと思いますが」
「チェーロが強くなったということだ!」
ソルは笑う。
彼女が強くなった、と。その言葉を受けて彼女がどのような決意を固めているのかも知らずに笑うのだ。
彼もまた、チェーロを大事に思っていて、傷ついてほしくないと願う。
それでも、チェーロはそれに気づくことはない。考えを固めてしまったのだから。
(ソルさんに言葉で止められるぐらいに強くなったのならもう遠くにいっても大丈夫なのでは?やっぱり早いほうがいいと思うし......よし、すぐに準備しよ!)
歯車は回りだす。
チェーロは逃げる。
逃げ切れると彼女は確信している。自分を大切に思う人間がいたとしても、追うまではしてこない。
しかし、追うものは多数。
捕まったとき、彼女は何を思うのか。それは彼女にしか知ることができないのである。




