チェーロの独白
その日、不思議な夢を見た。懐かしい感覚。懐かしい姿。懐かしい声。全て知っている。だが会えない。
そんなの分かっていてもまた会えるのではないかと思ってしまう自分が嫌で、もどかしくて苦しくて......どうしてあんな夢を見てしまったのだろうか。
どうして、彼の......俺の右腕の夢を見てしまったのだろうか。きっと連日ストームを見ているからかもしれないな。彼とは違うというのにどうにも思い出すことが増えてきている。
もう忘れたほうがいいと思っているのにな。別の世界で別の人間として生きているのなら前でのことは忘れたほうがいいのではないかとずっと思っている。
それなのに次々と似ている人が現れるし、まさかの二人が記憶を持っているって言うし......忘れることなんてできなくなってしまった。彼ら二人が覚えているのならこちらが忘れたところで意味はない。本当にどうしようもないものだ。
夢を見て、彼のことをまた思い出して、彼の最後の泣き顔まで思い出した。
俺が彼をかばったから。彼を泣かせてしまった。俺が弱かったから。自分も守るすべをすぐに思いつかなかったから。それでも守れたから悔いはない。けれど、最後は笑っているところが見たかった。
もう叶うことのない願い。ささやかな願いでも自分の組のみんなに関わることは叶えられることがない。もうみんなはいないのだから。
いくら容姿や声が似ているとしても別人なのだ。ストームも、レインも、ソルさんも、リオも似ている者を知っているが全員別人。性格や行動までは違う。
あの人みたいだなと思うことが度々あっても違うのだ。
自分だって違う。空として......組長として過ごしてきた日々とは違う。あの頃のように日々鍛錬をしているわけでもない。教育係にしごかれているわけでもない。
あの頃より弱くなった自分が今大切なものをつくっても守れるとは思えない。
頃合いを見て離れていくつもりではあってもいつになるか分からないのなら今から離れてしまおうか。もう誰も泣かせたくない。
チェーロ......それが今の名で聖女という役割があるのは分かっている。その役割を捨ててしまいたい。そう思うことだってある。だって、私がその役割を捨てればきっと護衛だってつけなくて良くなる。
そうすれば、ストームだって自然と離れていくはずだ。
今の自分に特別なことがあるとしたらその役割だけなのだから。
王様に話をしてどこかに逃げてしまおう。いっそのこと話もせずに逃げてしまおうか。
よし、そうしよう。誰にも追ってこれないところまでいこう。
ただ......力をつけてからだ。
もう少しだけ、一緒にいたい。逃げたいなんて思っておきながらずるいとは思う。
でも、もう少しだけだから。
すぐに離れるから少しの間だけ許してほしいな......




