友人
チェーロが涙を拭きながら言ったことを聞き爽やかな男が彼女に質問する。
「そんなに似てるんすか?あっ、オレはレイン・ピオよろしくっす!」
「そうですね、すごく似てますよ」
レインに即答したチェーロはこのようなことも考えていた。
(最初は高圧的な態度をとるところとかそっくりだ。それになにより目だな。まあ、あの時のように睨んでいるわけではないが、気に入らないといった様子だ。最初に彼に会った時もそうだった。俺が組長になるということが納得できないといった感じだった)
自分を慕ってくれたとはいえ最初に出会った時は、空には一切懐いていなかった。
それどころか疎んでまでいたのだ。どうしてこんな何もできないようなのが、組長に就任するということになっているのかと不思議だった。
「彼が自分の技量を分かっていなくて武器を持ちすぎてしまった時にはヒヤッとしましたが、助けられて良かったと思ってます」
男が空を慕うことになった理由は自分の失態で危なかったところを助けてもらった時。その時からは突っかかって遠ざけることもなく、むしろ片時も空のそばから離れることはなかった。
「武器って......あんたどういう生活してきたんだ?」
赤い目をした男がチェーロに聞く。
彼女としてはただ思い出話をしたという感覚しかないのだが、その思い出はこの世界での話ではない。
しかしうっかり声に出してしまったのだ。
(やってしまった!!最近クラウたちと話してたからつい前の話をしてしまった......どう誤魔化そうかな......あっ、隣に適任がいるじゃないか!)
チェーロはそう思って隣にいるクラウを見た。
だが、彼はチェーロの期待に答えてはくれない。彼女が見た瞬間に目を逸らし、自分で誤魔化せといった雰囲気を出したのだ。
クラウにどうにかしてもらおうと考えていたためチェーロは悩んだのだが
「えっと、少々護身術を......」
そう答えた。
嘘は言っていない。彼女はソルのところで護身術を習っていた。
「こんなに小さいのに護身術で武器使うってよく許してもらえてんな」
(心が痛い!嘘ではないんだけど一部嘘!それを真に受けられてるから心がとても痛い!)
チェーロは今置かれている状況から目を背けたくなっている。言い訳など他に思いつかずこれ以上聞かれると困るのだ。
「雑談はそこまでにして名前教えてあげたら?レインしか名乗ってないでしょ」
先程は目を合わせなかったというのにクラウは助け舟を出した。
それに対してチェーロは感謝した。もう少し早くに助け舟をくれとは思ったのだが。
「あー名乗ってなかったな。俺はストーム・ラーレだ」
ストームと名乗った男はまだ警戒をしているようで、チェーロと目を合わせようとしない。
そんな様子に彼女は疑問を持った。
(自ら護衛の選抜に参加したわけではないのだろうか。自分からなりたいと思っていたのなら、こんなふうに警戒することはない気がする。それとも、思っていたよりも幼いやつだったからどうしたらいいかわからないといったところか?)
「こいつぶっきらぼうだけど根はいいやつなんだ!怖がらせるかもだけどよろしくな!!」
レインがストームのことを親指で指しながら言う。
ストームはよく誤解されやすいからその都度自分が訂正しているのだとレインは続けた。
「お前に訂正してもらわなくても別にいいんだけどな?」
「素直じゃねえなあ」
こういった様子の二人を見て
(変わらないな。もちろん別人なのは分かっている。けれど、この二人のやりとりを見ているとどうしても思い出す。一番そばにいて何度も助けてもらったこと。その人の笑顔を守りたくて、必死に生きてきたこと。俺が守らなくても彼らは強かったけれどな)
昔を懐かしみながら微笑む。
自分がいつも真ん中にいたからか少しさみしくも思いながら彼女は二人を見続けた。
「そういう話はあとにして。まあ、とりあえず紹介だけだからもう鍛錬に戻っていいけど」
「オレまだ聖女さんとあんま話せてないんで話したいっす!」
レインがそう言ってチェーロを見る。
「では、改めまして......チェーロ・アーランです。今代の聖女、らしいですが堅苦しいのは苦手なので友と話すようにしていただけると嬉しいです」
「じゃあチェーロって呼ぶぜ!チェーロもかしこまらなくていいからな!」
チェーロの言葉でレインは友人と話す時のように話すことを決めた。
彼女としてもそちらのほうがやりやすくていいのだ。
「一応俺等は聖女の護衛なんだが、いいのか?」
「いいんですよ。そもそも、私はまだみなさんより幼い。むしろこちらが敬う立場ですよ」
「別にそんなの気にしなくていいだろ。チェーロが幼くても対等に喋って誰も気にするやつはいない」
ストームにそう言われチェーロの心が軽くなった。今の彼女は歳が離れている。
だから少しだけ緊張もしていたのだ。
その緊張がとけ
「そうだね。ありがとう!」
本当の意味で笑えた気がしたと彼女は思った。




