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第9話「暗雲の向こうに、脅威の影」

敵部隊を退けた小春たちの基地は、傷跡だらけだった。壁には無数の弾痕が刻まれ、設備の一部は破壊されたまま。救援を要請しようにも、通信網は完全には復旧しておらず、孤立した状態が続いていた。

小春は疲れた様子でサクラノヴァのコクピットから降り立つと、ふらつく足取りで地面に座り込んだ。

「はぁ…なんとか持ちこたえたけど、次はどうなるか分からないね。」

悠真が隣に腰を下ろし、水筒を差し出す。

「お前が諦めたら、俺たち全員終わりだぞ。」

「分かってるよ。でも、敵の攻撃がこんなに早いなんて…。ナイト・オルドは本気で私たちを潰しに来てる。」

凌がその場にやってきて、小春と悠真の会話に割り込む。

「次の波が来る前に、態勢を立て直す必要がある。僕が知ってるナイト・オルドの戦術からすると、今のはただの前哨戦だ。」

「前哨戦…?」

小春は目を見開いた。

「あれだけの規模の攻撃が?」

凌は頷き、険しい表情を崩さない。

「本命はこれからだよ。彼らが『オーロラ計画』の完成を急いでいる以上、僕たちへの攻撃を緩めることはない。」

その時、基地の周囲を警戒していたリタから通信が入る。

「小春、聞こえる?未知の機体が接近中よ。でも、敵の動きとは違う…多分味方だと思う。」

緊張が走る中、悠真がサクラノヴァのセンサーを起動して確認する。

「リタの言う通りだ。あれは…見覚えがある機体だぞ。」

基地の前に現れたのは、メカ・アスリート杯で知り合った仲間、イーサン・ハワードの専用機「ストームバリスタ」だった。青と銀を基調としたその機体は、遠距離攻撃に特化した武装を備えており、彼の得意分野を象徴している。

イーサンは通信を繋ぐと、軽い笑みを見せた。

「よぉ、小春、悠真。それに…凌?お前も一緒にいるのか。」

「イーサン!」

小春の顔がパッと明るくなる。

「どうしてここに?」

「大会後、お前たちがナイト・オルドに狙われてるって噂を聞いてな。俺にできることがあればと思って駆けつけた。」

「助かるよ。正直、今は戦力が足りなくて困ってたところなんだ。」

イーサンの加入により、戦力が少しでも増えたことに一同は安堵する。しかし、悠真は警戒を解かないまま、問いかける。

「でも、どうやってここを見つけたんだ?俺たちの位置は完全に隠してたはずだぞ。」

「お前らの通信ログを拾った。ナイト・オルドだけじゃなくて、俺だってお前らを探せるさ。」

その軽口に、悠真もようやく肩の力を抜く。

イーサンの協力で、基地の防衛設備が強化されていく。彼のストームバリスタに搭載されたハイパワーレーダーを利用し、敵部隊の動向を監視するシステムが完成した。

「これで少しは対抗できるね。」

小春はモニターを見ながら呟く。

しかし、その安堵も束の間、レーダーには異常な数の反応が映し出される。

「何これ…?こんなに多くの敵機体が一度に動いてるなんて。」

「やっぱり来たか。」

凌が緊張した声で言う。

「ナイト・オルドの本隊だ。」

イーサンは笑みを浮かべながらも、その目には鋭い光を宿していた。

「面白くなってきたじゃないか。これだけの相手を倒せば、俺たちの名は伝説になるぞ。」

「そんな気楽に考えてる場合じゃない!」

悠真が声を荒げる。

「でも、悠真の言う通りだよ。」

小春はレーダーを指さして言った。

「この数を相手にするには、私たち全員が全力を尽くさなきゃ無理だ。」

小春たちは急ピッチで準備を進めた。サクラノヴァには新たに設置したエネルギー効率向上ユニットが搭載され、ストームバリスタの遠距離攻撃が防御ラインを補完する役割を担う。

小春は最後の調整を終えると、全員に向かって言葉を投げかけた。

「これからの戦いは、私たちの命運を左右するものになる。それでも、私たちには守るべきものがある。だから…絶対に負けない!」

悠真とイーサンがそれぞれ拳を突き合わせ、凌も静かに頷いた。その瞬間、彼らの心は一つになった。

その夜、基地は不気味な静けさに包まれていた。昼間の激戦を終えた小春たちは、短い休息を取りながら明日の戦いに備えていたが、心の中には不安が渦巻いていた。イーサンの到着は頼もしかったものの、ナイト・オルドの圧倒的な物量と計画を前に、戦況は依然として不利なままだ。

小春は工房でサクラノヴァの調整を続けていた。新たに開発したエネルギー効率向上ユニットは、理論上では完璧だったが、実戦での負荷に耐えられるかは未知数だった。

「少しでも強くしなきゃ…。次はもっと大きな波が来る。」

自らに言い聞かせるように呟きながら、小春は細かい配線を慎重に調整していた。その姿を見守っていたのは悠真だ。

「小春、お前が倒れたら元も子もないぞ。少し休めよ。」

「悠真、分かってる。でも…あの黒いロボット、オブシディアンがまた来たら、今のままじゃ太刀打ちできない。」

悠真は小春の肩に手を置き、真剣な表情で言った。

「サクラノヴァがどれだけ強くても、お前がボロボロじゃ意味がないだろ。俺たちは仲間なんだから、もっと頼ってくれ。」

その言葉に、小春は一瞬だけ手を止めた。しかし、すぐに小さく頷くと、工具を置いた。

「分かった。ありがとう、悠真。」

深夜になり、凌がモニターに映るレーダーを睨みつけていた。イーサンが持ち込んだハイパワーレーダーのおかげで、敵の動向がより詳細に分かるようになったが、今夜は奇妙な点滅が続いていた。

「…おかしいな。この反応、敵が近づいてるのに何も見えない。」

隣で見ていたリタが眉をひそめる。

「ステルス技術?それとも…。」

その時、基地の外から低い振動音が聞こえてきた。

「来たか…。」

凌は席を立ち、警報を鳴らそうとしたが、それよりも早く通信が入った。

「小春、聞こえるか?」

聞き覚えのある声だったが、どこか低く冷たい響きが混じっていた。

「誰…?この声…。」

小春が通信モニターに駆け寄ると、そこに映し出されたのは黒いロボット「オブシディアン」。そのコクピット内に座る操縦者の顔が画面に映った瞬間、小春は息を呑んだ。

「…嘘でしょ…。どうしてあなたが…?」

映像に映っていたのは、かつてメカ・アスリート杯で友情を誓い合った参加者の一人、クラウディア・グレイだった。彼女はその大会で惜しくも敗れたが、確かな技術と冷静な判断力で知られていた人物だ。

しかし、今の彼女の表情は冷たいもので、その目にはかつての優しさは微塵も残っていなかった。

「クラウディア…どうして?」

小春の声は震えていた。

クラウディアはため息をつくようにして言った。

「小春、あなたの才能は誰もが認めてる。だからこそ、ナイト・オルドに協力すべきなのよ。」

「そんなの絶対に嫌!」

「ならば、ここで終わりね。彼らの計画を邪魔する者は全て排除する、それが私の役目。」

通信が途切れると同時に、基地の周囲から爆音が響き渡った。オブシディアンを中心に、ナイト・オルドの部隊が次々と姿を現したのだ。

「全員、戦闘準備!」

悠真が叫びながらサクラノヴァに駆け寄る。

小春も急いでコクピットに乗り込み、システムを起動する。

「敵の数は…20体以上!完全に囲まれてる!」

リタの報告が響く中、イーサンがストームバリスタを起動させた。

「やるしかねぇな。俺の一撃で道を切り開く。」

小春とイーサンが出撃した瞬間、オブシディアンが動き出した。その動きは異様に早く、サクラノヴァを圧倒するスピードで接近してくる。

「こんな動き…!」

クラウディアの声が通信越しに響く。

「分かる?これがナイト・オルドの技術力よ。あなたのサクラノヴァがどれだけ優れていても、時代遅れなの。」

しかし、小春は諦めなかった。

「時代遅れかどうかは、私が決める!」

サクラノヴァの新たなユニットが起動し、輝くようなエネルギーが機体を包み込む。

サクラノヴァのコクピット内。激闘の余韻が未だ小春の心を支配していた。目の前の敵はかつての盟友、クラウディア・グレイ。彼女がナイト・オルドのロボット、オブシディアンを操縦しているという現実は、小春にとって想像を超える衝撃だった。

「どうして…」

小春の呟きが静寂の中に吸い込まれる。クラウディアは彼女の問いに一瞬だけ戸惑いを見せたが、すぐに冷笑を浮かべた。

「小春、あなたは甘い。技術だけで世界を変えられると思っているの?理想論では何も守れない。」

「それでも、私は…!」

言葉を返そうとした瞬間、オブシディアンが再び動き出した。そのスピードと攻撃の精密さは、サクラノヴァを圧倒した。小春は防御態勢を取るも、一撃一撃が重く、機体にダメージが蓄積していく。

「クラウディア、どうしてナイト・オルドなんかと…!」

その問いに、クラウディアは冷淡に答える。

「彼らは私に力をくれた。それだけよ。あなたも理解するべき。力がなければ、何も守れない。」

「小春、大丈夫か!」

通信越しに悠真の声が響く。彼は戦況を見て、自らの操縦するサポートロボット「スカイランサー」を出撃させていた。

「悠真!援護をお願い!」

「了解!任せろ!」

悠真のスカイランサーは、機動力を活かしてオブシディアンの背後を取ろうとする。しかし、クラウディアは悠真の動きを読んでいたかのように、スムーズに回避し、反撃のレーザーブレードを放つ。

「悠真、避けて!」

小春の警告が間に合い、悠真は辛うじて攻撃をかわすが、次の瞬間には新たな敵機が現れた。ナイト・オルドの量産型ロボットが次々と基地に迫り、激しい戦闘が繰り広げられる。

「俺たちも出るぞ!」

イーサンが叫び、リタも武装を整えたサポートロボット「フロストキャノン」で出撃する。

小春は、クラウディアの動きを見極める中で、自らの機体に施した新たな改造を活かす決断を下した。

「エネルギー効率向上ユニット、起動!」

サクラノヴァの外装が青白い輝きを帯びる。これにより機動力が大幅に向上し、クラウディアの攻撃をかわしつつ反撃に転じることが可能になった。

「これが私の技術の答えだ!」

サクラノヴァの強化された武装「イオンブラスター」が放たれ、周囲の敵機を一掃する。しかし、オブシディアンだけはその攻撃を難なく防ぎ、逆に前進してきた。

「悪くない。でも、それだけじゃ私には勝てない。」

クラウディアの冷徹な声が響く中、オブシディアンの武器「エグゼキューター」が展開される。その巨大な斧型武器は、周囲の空間をも揺るがす威力を持っていた。

小春とクラウディアの戦闘は、もはや技術の競い合いを超え、信念と感情のぶつかり合いとなっていた。

「クラウディア、こんなことをして、本当に満足なの?!」

「満足かどうかなんて関係ない。私が求めているのは勝利。そして、私自身の力を証明すること。」

「それがナイト・オルドの道具になることだっていうの?!」

小春の叫びに、クラウディアの表情が一瞬揺れた。しかし、その迷いを振り払うように、彼女はオブシディアンを突撃させた。

「ナイト・オルドは道具なんかじゃない!彼らこそが未来を創る存在なのよ!」

その時、戦場の上空に新たな機影が現れた。

「…あれは?」

小春たちが見上げる中、銀色に輝くロボットが急降下してくる。その機体には「フェニックス」のエンブレムが描かれていた。

「誰だ…?」

通信が開かれ、その操縦者が名乗りを上げた。

「俺たちも手を貸すぜ、小春!」

それは、メカ・アスリート杯での元ライバル、ライアン・クロスだった。

「ライアン?!」

驚く小春をよそに、ライアンの機体「シルバーフェニックス」はオブシディアンに向かって突撃を開始した。

「クラウディア、俺たちはあんたを止める!」


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