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第8話「砕けた絆、揺れる心」

オブシディアンとの激戦を繰り広げた小春と悠真は、右肩部に致命的なダメージを与えたことで敵の動きを一時的に止めることに成功した。だが、戦闘が小康状態に入った瞬間、小春の心はある一点に引き裂かれていた。

「どうして…あなたが…」

オブシディアンの通信画面に現れた顔、それはメカ・アスリート杯で知り合い、共に戦った仲間の一人、水島みずしま りょうだった。

「凌君…どういうこと?」

小春の問いかけに対し、凌は冷たい笑みを浮かべるだけだった。そして、言葉は続く。

「小春、君の技術は素晴らしい。だが、それを守るために戦うだけでは、何も変わらない。ナイト・オルドの力を借りれば、技術は真の意味で世界を変えるんだ。」

その言葉に、小春は息を詰まらせる。

「それって…ナイト・オルドの計画に賛同してるってこと?そんなの間違ってる!」

凌の声は冷たく、それでいてどこか苦しげだった。

「小春、僕は君たちと戦いたくない。でも、これが僕の選んだ道だ。ナイト・オルドは力を持つ者に未来を与える。君だってそれがわかるはずだ。」

「違う!未来は力じゃなくて、技術と信念で切り開くものよ!」

小春の声は震えながらも力強かった。

「凌君、戻ってきて。私たちは仲間だったはずでしょう?」

だが、凌は首を横に振る。

「もう遅い。僕はこの道を選んだんだ。」

その言葉とともに、オブシディアンのシステムが再起動を始める。機体の損傷は甚大だったが、それでも戦闘を続ける意思を示すように動き出した。

その時、外部で戦っていた仲間たちがホールに到着した。リタが通信を通じて叫ぶ。

「小春、状況は?オブシディアンの動きが再び活発化してる!」

「凌君が…操縦してるの…」

小春の答えに、通信越しのリタたちは一瞬沈黙した。

「凌が?そんな…彼がナイト・オルドの一員だなんて…」

悠真が信じられないという声で呟く。

「あのとき、彼が突然姿を消した理由はこれだったのか…」

エリックも険しい表情を浮かべた。

だが、今は感傷に浸っている時間はない。オブシディアンは再びサクラノヴァを狙って突撃してきた。

小春は躊躇していた。凌を止めなければならないが、彼に傷を負わせることをためらってしまう。その隙を突くように、オブシディアンの爪がサクラノヴァの装甲を掠めた。

「小春、迷うな!今は戦うしかない!」

悠真が叫ぶ。

「でも…凌君を本当に傷つけたくない!」

「それでも、僕たちが倒れれば、ナイト・オルドの計画を止めることなんてできないんだ!」

悠真の言葉は重かった。小春はぎゅっと唇を噛み締める。

「…わかった。けど、凌君を説得するチャンスを捨てるわけにはいかない!」

小春はサクラノヴァの武装を調整し、敵を無力化することに専念する戦術に切り替えた。全ての攻撃を、オブシディアンの動きを封じることに集中させたのだ。

一方、オブシディアン内部の凌もまた、激しい葛藤に苛まれていた。

「小春、お前ならわかるはずだ。僕は…僕はただ…」

凌は言葉を飲み込み、操縦桿を握り締める。彼にはナイト・オルドの命令があった。小春を捕らえ、サクラノヴァを奪え。それが彼に課された任務だった。

だが、目の前で必死に自分を止めようとする小春の姿に、彼の心は揺らいでいた。

「どうしてこんなことになったんだ…」

小春の狙いは的確だった。関節部の動きを封じられたオブシディアンは、次第にその動力を失い、ついに動けなくなった。

「これで…終わりだよ、凌君。」

小春は涙をこらえながら呟いた。

だが、その瞬間、オブシディアンのコックピットが開き、凌の顔が直接現れた。

「小春…僕は間違っているのか…?」

その問いかけに、小春は迷わず答えた。

「間違ってるよ、凌君。だけど、やり直せる。私たちはもう一度仲間になれる。」

凌は目を伏せ、苦しげにうなだれた。

戦闘の余波がようやく収まり、小春たちはオブシディアンを無力化した。炎の残り香と金属音が響く中、サクラノヴァのコックピットから降り立った小春は、傷ついた凌へと駆け寄った。

「凌君、大丈夫…?」

凌は肩で息をしながらも、小春を見上げてかすかに笑った。

「これが…君の力か。やっぱりすごいな、小春…」

その言葉には皮肉も敵意もなく、ただ純粋な感心が込められていた。

「もう戦う必要なんてない。全部話して、凌君。」

小春の真剣な眼差しに、凌はふっと目を伏せた。そして、ぽつりと呟く。

「…わかったよ。全部話す。でも、その代わり、僕の言葉を最後まで聞いてくれ。」

基地の一角で簡易的な治療を受けながら、凌は重い口を開いた。

「ナイト・オルドは、ただの犯罪組織じゃない。彼らは、自分たちが正義だと信じてるんだ。世界を支配する技術や力を取り込むことで、今の腐った秩序を壊し、"新しい世界"を作ろうとしている。」

「そんなの、ただの言い訳だ! やってることは暴力で人を支配するだけじゃないか!」

悠真が声を荒げた。

凌は目を伏せ、かすかに首を横に振る。

「…そうかもしれない。でも、僕はその中で一つだけ信じられるものを見つけた。彼らが進めている"オーロラ計画"だ。」

その名を聞いて、小春の眉がぴくりと動いた。

「オーロラ計画って…何?」

凌は苦々しい表情で続ける。

「オーロラ計画は、ナイト・オルドが進めている次世代エネルギー技術の研究だ。もし完成すれば、世界中のエネルギー問題が解決する。それどころか、人類は新たな段階へ進むことができるかもしれない。」

「でも、それを軍事利用するために進めてるんでしょ?」

小春は鋭く問い詰めた。

凌は視線をそらし、俯いた。

「…そうだ。計画の一部は軍事転用が前提になってる。だから僕は…君たちの力を借りて、それを止めたいんだ。」

凌の言葉は小春たちに衝撃を与えた。敵でありながら、彼の中にはまだ正義感が残っているように思えた。しかし、悠真は簡単には納得しない。

「今さら裏切ったふりをしても、信用できない。だいたい、そんな計画に加担してた時点で、お前も同罪だろう。」

「悠真、やめて!」

小春が割って入る。

「凌君が間違ったことをしてきたのは確かだけど、今こうして助けを求めてきてるのに、私たちが拒絶したら何も変わらない。」

「けど、小春…!」

「私たちの目標は、ナイト・オルドを止めること。凌君がその手助けをしてくれるなら、それでいいじゃない!」

小春の必死の説得に、悠真は不満げに口をつぐんだ。そして、凌は静かに頭を下げた。

「ありがとう、小春。でも、僕が言ったことの半分以上は信じなくていい。信じてほしいのは、これだけだ。ナイト・オルドは、サクラノヴァと君の才能を狙ってる。それだけは確かだ。」

その時、基地の外部から警報が鳴り響いた。リタが慌てて通信を入れてくる。

「小春、大変!ナイト・オルドの部隊が接近してる!」

「ど、どういうこと?ここはまだ見つかってないはずじゃ…!」

凌が顔を曇らせる。

「…おそらく、僕がオブシディアンを使ったことで、位置を特定されたんだ。すまない…」

悠真が苛立ちを露わにする。

「結局、敵を引き寄せただけじゃないか!やっぱり信用できない!」

「悠真、今はそんなこと言ってる場合じゃない!」

小春が制し、サクラノヴァのコックピットへと駆け込む。

「みんな、すぐに迎撃準備をして!」

ナイト・オルドの部隊は、数体の量産型ロボットと支援機を伴って迫ってきた。凌はその様子を見て歯を食いしばる。

「もし捕まれば、僕も完全に処分される。戦えるなら、僕も手伝わせてくれ。」

「凌君…わかった。信じるよ。でも、無茶はしないで。」

小春はサクラノヴァを起動させ、仲間たちとともに迎撃態勢に入った。悠真は不承不承ながらも、凌のサポートを引き受けることにした。

戦闘が激化する中、凌は自分の操縦技術を駆使して敵を翻弄する。だが、彼の動きにはどこかためらいが見えた。それを察した小春は通信を入れる。

「凌君、迷わないで。あなたが信じる未来のために戦って。」

その言葉に背中を押された凌は、決意を新たにしたように力強い声で応えた。

「ありがとう、小春。僕も、君たちと一緒に戦うよ!」

夜が明け始めた頃、小春たちは辛くもナイト・オルドの襲撃を凌いだ。だが、その勝利は決して楽なものではなかった。サクラノヴァの機体は損傷し、エネルギー残量も心もとない状況に陥っている。

「悠真、通信網の修復はどう?」

小春が指示を飛ばす間もなく、悠真は基地のモニター越しに頭を振った。

「まだ完全には回復してない。けど、凌が言ってた通り、奴らは何かを追ってる。多分、オーロラ計画の中核部分を守るための動きだ。」

その言葉に、小春の中で不安が募る。凌は黙ったままモニターを見つめていたが、やがて重い口を開いた。

「ナイト・オルドの動きは予想以上に早い。次の襲撃はすぐだろう。僕たちがここにいる限り…。」

「だからこそ、次の手を考えなきゃいけないんじゃない?」

小春の声には迷いがなかった。

「まずは、サクラノヴァの修理と強化が急務だよ。凌君、手伝ってもらえる?」

凌はわずかに目を見開き、驚きの色を浮かべた。

「僕を信じてくれるのか?」

「信じるというより、信じたいんだよ。」

小春は微笑んで答えた。

「君が本気で協力してくれるなら、きっと力になる。」

サクラノヴァの修理は一筋縄ではいかなかった。戦闘中に損傷した外装とエネルギーシステムの復旧が必要だったが、部品不足が深刻な問題だった。

「このままだと、次の戦闘で耐えきれないかもしれないな。」

悠真が作業を中断して呟く。

「でも、手持ちのパーツだけで何とかするしかない。」

小春は工具を握りしめる。その表情は決して諦めていないものだった。

凌は考え込むようにしてから、静かに提案する。

「実は、僕のオブシディアンにも予備のパーツがいくつか搭載されてる。互換性があるかもしれない。」

その言葉に、悠真は怪訝そうな顔をした。

「お前のロボットの部品なんて、信用できるか?」

「悠真、今はそんなこと言ってる場合じゃないよ。」

小春は凌の提案を受け入れることを決めた。

「凌君、ありがとう。早速見てみよう。」

凌が提供した部品には、これまで小春たちが触れたことのない高度な技術が組み込まれていた。とりわけ、エネルギー効率を劇的に向上させる特殊なユニットが目を引いた。

「これ、凄い…!ナイト・オルドの技術って、こんなに進んでるの?」

小春が驚くと、凌は複雑そうな顔をして答える。

「彼らは目的のためなら、どんな代償も厭わない。それがこの技術の裏側だ。」

「でも、この技術を正しい方向に使えば、もっと多くの人を助けられるはず。私は、そう信じたい。」

小春は力強く言葉を続けた。

修理作業が進む中、警報音が再び響き渡る。リタが緊迫した声で通信を入れてきた。

「小春、敵の第二波が接近してる!今回はさらに大規模な部隊よ!」

その言葉に、基地の空気が一気に張り詰めた。

「くそっ、やっぱり来たか!」

悠真が拳を握りしめる。

「時間がない…でも、サクラノヴァはまだ完全には修復できてない。」

小春は歯噛みしながらも即座に指示を出した。

「凌君、手伝って!」

「もちろんだ。」

凌は迷いなく頷いた。

サクラノヴァの起動試験を急ぎ終えた小春たちは、迎撃態勢に入った。今回は凌も前線に出ることを決め、オブシディアンを改めて調整していた。

「本当に戦えるのか?」

悠真が問い詰めるように聞く。

「…僕には、もう後がないんだ。」

凌は静かに答えた。

「これが僕のけじめだと思ってくれ。」

小春は二人の間に割って入るようにして声を上げた。

「喧嘩してる場合じゃない!みんなで力を合わせて、ここを守り切るよ!」

敵部隊は圧倒的な数で攻め寄せてきた。量産型のロボットに加え、移動砲台や空中支援機も含まれている。

「悠真、右側の砲台に集中して!」

「わかってる!そっちは頼むぞ!」

小春と悠真の連携は完璧だったが、敵の勢いは止まらない。凌はオブシディアンを駆使して援護に回りながら、隙を突いて敵の中核を狙っていく。

「小春、援護してくれ!」

凌が叫ぶと、小春は即座に反応し、サクラノヴァの新しい武装を解放した。

「いくよ、サクラノヴァ!『桜鋼ブレード』、展開!」

その一撃は敵の陣形を崩し、戦況を一気に変えるものだった。


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