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第6話「新たなるステージへ」

メカ・アスリート杯が終わり、会場には喝采と名残惜しい空気が満ちていた。大会の最終結果が発表され、小春とサクラノヴァの名は堂々の総合優勝者として刻まれた。だが、その喜びの陰で、小春は複雑な感情に揺れていた。

ナイト・オルド――この大会の主催者であり、裏で暗躍していた組織の存在。彼らが何を企んでいるのか、その全貌はまだ明らかになっていない。そして、彼らが送り込んだ黒いロボット「オブシディアン」。その圧倒的な性能と操縦者の正体は、小春に新たな疑問と恐怖を抱かせていた。

「やったじゃない、小春!」

控室に戻った小春を迎えたのは、悠真の満面の笑みだった。彼は手に持ったトロフィーを誇らしげに掲げている。

「ありがとう、悠真。でも……」

小春は微笑みつつも、どこか浮かない表情をしていた。それを察した悠真は、ふっと表情を引き締めた。

「ナイト・オルドのこと、だよな?」

「うん。あの人たち、ただ大会を盛り上げるだけじゃない気がする。オブシディアンの性能や、いくつかの競技で感じた妙な違和感……何か裏があるって思えてならないの。」

悠真は頷く。彼もまた、大会を通じていくつかの不審な点に気づいていた。特に、特定の参加者だけが妙に優遇されていたような状況や、オブシディアンが突然現れたタイミングの不自然さ。

「それに……父さんの工房を襲ったのもナイト・オルドの仕業かもしれない。」

小春は拳を握りしめた。その瞳には恐れと決意が混在している。

大会後、小春と悠真は地元の町に戻った。久しぶりに自宅兼工房に足を踏み入れると、懐かしい香りが二人を包み込んだ。

「ただいま!」

小春の元気な声が響くと、奥から母・桜庭雅子が顔を出す。彼女は満面の笑みを浮かべ、娘を抱きしめた。

「おかえり、小春。優勝、おめでとう!」

その背後には、地域の人々が集まり、手作りの垂れ幕で小春を祝福していた。「優勝おめでとう、小春ちゃん!」という声が飛び交い、彼女は戸惑いながらも感謝の言葉を返す。

数日後、小春は再び工房での作業を始めた。サクラノヴァのメンテナンスを行いながら、大会での戦いを振り返って改良点を考えている。

「ここをもう少し軽量化できれば、加速性能が上がるかも……いや、耐久性が落ちるかもしれないし……」

一心不乱に図面を引く小春の隣で、悠真は苦笑いを浮かべていた。

「また始まったな。休む気はないのか?」

「休むなんて無理! 次のステップに進むには、もっといいロボットを作らないと。」

「次のステップ、ね……」

悠真は目を細めた。彼もまた、小春が新たな目標に向かって突き進むのを見守りながら、自分にできることを考えていた。

そんなある日、一通の封筒が工房に届いた。送り主は「ナイト・オルド」。その封筒の中には、次回大会の招待状とともに、一枚のメモが入っていた。

「桜庭小春様

君の技術と才能には心から敬意を表します。次回大会ではさらに特別な舞台を用意しています。君とサクラノヴァのさらなる進化を楽しみにしています。」

小春はその文面を読み、眉をひそめた。

「特別な舞台……?」

悠真はそのメモを覗き込み、すぐに警戒心を抱いた。

「これ、絶対に何か企んでるな。」

「でも……逃げるわけにはいかない。ナイト・オルドの真実を知るには、もっと近づくしかないんだと思う。」

小春の言葉に、悠真はしばらく沈黙していたが、やがて静かに頷いた。

「わかった。俺もついていく。二人でなら、どんなことだって乗り越えられるだろ?」

夜の工房で、小春はサクラノヴァの装甲に手を当てながら呟いた。

「私たちの戦いは、まだ終わってないよね、サクラノヴァ。」

月明かりが差し込む中、サクラノヴァの桜色の装甲が静かに輝いていた。その光は、これから待ち受ける新たな試練への希望を象徴しているかのようだった。

メカ・アスリート杯が終わり、小春と悠真は久しぶりの日常に戻っていた。桜色のサクラノヴァは地元の工房に運び込まれ、調整を待つ静かな佇まいを見せている。父の工房も大会の賞金のおかげで立て直しが進み、忙しさの中に穏やかな活気が戻りつつあった。

「さて、次は何を改良しようかな。」

小春はノートPCに向かいながら、サクラノヴァのデータログを見つめていた。大会で得た膨大な戦闘記録を解析し、さらなる改良案を考えている。

「小春、少し休んだらどうだ?」

悠真が工具箱を片手に声をかける。彼は工房の片付けを手伝いながら、小春の顔色を気にしていた。

「まだ大丈夫! それに、次の大会や新しい挑戦に向けて準備しておきたいんだ。」

小春の目は輝いていた。しかし、その穏やかな日々は突然の訪問者によってかき乱されることになる。

ある午後、工房の扉が静かにノックされた。扉を開けると、そこには黒いスーツに身を包んだ中年男性が立っていた。冷たい笑みを浮かべる彼の背後には、黒塗りの高級車が停まっている。

「初めまして、桜庭小春さん。」

男性は静かに名乗り、名刺を差し出した。それには「ナイト・オルド技術開発部長」と記されていた。

小春の顔が一瞬で緊張に変わる。メカ・アスリート杯の裏で暗躍していた謎の組織、ナイト・オルド。その名を忘れるはずがない。

「何の用ですか?」

小春は毅然とした態度で問いかける。しかし、男性は動じることなく、むしろ小春の反応を楽しむように微笑んだ。

「あなたの才能に目をつけた人間がいるのです。我々と手を組めば、あなたがこれまで以上に自由に技術を追求できる環境を提供します。」

小春は迷うことなく答えた。

「お断りします。」

予想通りの返答だったのか、男性の笑みは消えず、むしろ深まった。

「そうですか。ですが、考える時間を与えましょう。我々はいつでもあなたを歓迎します。」

名刺を置いて去っていく男性。その後ろ姿を見送りながら、小春は不安と怒りが混じった感情に苛まれていた。

悠真がそっと声をかける。

「小春、大丈夫か?」

「大丈夫。でも、このまま放っておくわけにはいかない気がする。」

小春は名刺を握りしめ、心の中で決意を固めた。ナイト・オルドが何を企んでいるのか、突き止める必要があると。

その夜、工房に奇妙な音が響いた。窓の外を覗くと、遠くに黒い影が動いているのが見えた。監視されている――そう直感した小春は、悠真に状況を伝え、警戒を強めることにした。

「奴ら、こっちの出方を見ているんだ。」

悠真は険しい表情で言う。

「でも、私は負けない。サクラノヴァをもっと強くする。そして、奴らの思惑を阻止する。」

小春の目には、再び戦う覚悟が宿っていた。

夜の工房に響くメカニカルな音。それは、サクラノヴァの内部で試作中の新しい制御システムが動作する音だった。小春はモニター越しにデータを見つめ、エラーの原因を探る。

「この出力配分じゃ、次の試験でも絶対に持たない…。もっと効率的なエネルギー管理が必要だわ。」

悠真はそんな小春の背後で、工具箱を片付けながら心配そうに声をかける。

「小春、少し休もう。昨日から寝てないだろ?」

「悠真、大丈夫。これが完成すれば、サクラノヴァはもっと強くなるんだから。」

小春の情熱は尽きることがない。しかし、その夜、工房の静けさを破る出来事が起こる。

工房の外から微かな金属音が聞こえた。悠真が耳を澄ませる。

「…今、何か聞こえなかったか?」

小春も作業の手を止めて窓の外を見る。外灯に照らされた路地には、黒い影が一瞬だけ映り込んだように見えた。

「まさか…ナイト・オルドの奴ら?」

小春と悠真はすぐに工房のセキュリティシステムを起動する。小春の父が設置した監視カメラが映し出す映像には、黒ずくめの人影が動いているのが映っていた。

「悠真、裏口を見てきて!私は正面を確認する!」

小春の声に悠真が頷き、工具を手に裏口へ向かう。

小春が正面のドアに駆け寄ると、突然、電子ロックが解除されようとしている警告音が鳴り響く。

「こんなセキュリティ、突破できる人なんて…!」

その時、工房の外に止まっていた小型車から一人の女性が降りてきた。彼女は、メカ・アスリート杯で見かけた記憶のある人物だった。

「久しぶりね、桜庭小春さん。」

女性は肩に革製のバッグを下げ、堂々とした態度で工房の前に立つ。その背後には、彼女が操縦していたロボット「ストームイーグル」のシルエットが映る。

「あなたは…リタ・ホールデンさん?」

小春は驚きの声を上げた。

リタは微笑みながら答える。

「その通り。でも、今は悠長に話している場合じゃないわ。ナイト・オルドがあなたを狙っている。急いで中に入れて。」

リタが警告するや否や、工房の屋根を砕く大きな音が響いた。天井から侵入してきたのは、黒い小型ドローン数機。鋭い金属の爪を持ち、工房内部を探索するかのように飛び回り始める。

「くそっ、悠真!」

小春が叫ぶと、裏口から悠真が飛び込んでくる。

「小春、裏もやられてる!ドローンが3機!」

リタはバッグから小型端末を取り出し、即座にドローンの動きを解析し始める。

「これ、ナイト・オルドの制御信号ね…。まだ完全には暗号化されていない。私が妨害するわ!」

小春はすぐさまサクラノヴァのコクピットに飛び乗り、起動シークエンスを開始した。背後でリタが操る端末が、ドローンの動きを制限している間に、サクラノヴァはその巨大なフレームを動かし始める。

「悠真、リタさん、ドローンを引きつけて!サクラノヴァで一掃する!」

悠真が工具を投げつけ、リタが電子妨害でドローンの動きを鈍らせる中、サクラノヴァのメインキャノンが展開される。

「ここで終わらせる!」

小春はトリガーを引き、ドローンを全て撃墜した。

騒動が収まり、リタは腕を組んで言った。

「小春、あなた一人でこの状況を乗り切れると思わないことね。私も協力するわ。」

悠真が驚いた顔で問う。

「リタさん、どうして?」

「ナイト・オルドは私の国でも活動している。奴らが世界中の技術者を支配しようとしているのを止めるためよ。」

小春はその言葉に頷き、手を差し出した。

「ありがとう、リタさん。一緒に戦おう。」

リタという頼もしい仲間を得た小春たち。

しかし、ナイト・オルドの次なる動きはさらに大胆だった。

リタの協力を得てサクラノヴァを守りきった翌朝、小春たちは工房の修復作業に追われていた。天井に空いた穴や散乱した工具が、昨夜の激闘を物語る。しかし、悠真はそんな状況でも冗談を言いながら、作業を進めている。

「いやー、小春。これ、セキュリティ強化の良い機会だと思わないか?」

悠真が軽口を叩くが、小春は険しい顔を崩さずに答える。

「悠真、笑ってる場合じゃないよ。昨夜の襲撃は、ナイト・オルドが本気で動き出した証拠。次はもっと大きな攻撃が来るかもしれない…。」

一方、リタは端末を操作しながら、ナイト・オルドの動きを追跡していた。彼女の表情は険しい。

「小春の言う通りよ。昨夜のドローンはただの先遣隊。奴らの本命はこれから来る。」

リタが解析したデータから、近隣の都市にナイト・オルドの拠点と思われる施設が存在することが判明する。それは、廃工場を改装した秘密基地のようだった。

「ここから車で2時間…近すぎる。」

リタが地図を指差すと、小春は考え込む。

「もしこの施設が本当にナイト・オルドの拠点なら、すぐにでも動くべきだね。でも、向こうの規模が分からない以上、慎重に行動しないと…。」

悠真は拳を握りしめて言う。

「なら、先に偵察をしよう。俺が行くよ。小春はここでサクラノヴァの調整を続けてくれ。」

リタも頷く。

「それがいいわ。私も同行して、現地でサポートする。」

悠真とリタは、小型ドローンを携えて廃工場へ向かった。一方、小春は工房でサクラノヴァの改造を急ピッチで進める。新しいエネルギー制御モジュールと、リタから提案された妨害信号発生装置を組み込む計画だ。

「これが完成すれば、少しは戦いやすくなるはず…!」

小春は汗を拭いながら作業を続ける。

廃工場に到着した悠真とリタは、周囲を注意深く観察する。建物は一見すると廃墟のようだが、近くのコンテナにはナイト・オルドのロゴが刻まれていた。

「間違いない、ここだ。」

悠真が呟く。

リタは小型ドローンを飛ばし、内部の様子を探る。ドローンが送ってきた映像には、武装した警備ロボットや、大型の輸送機械が並んでいるのが映し出されていた。

「これはただの拠点じゃない。ここは兵器開発の前線基地ね。」

リタは眉をひそめる。

しかし、その時、工場内から異様な音が聞こえてきた。金属を擦るような音とともに、巨大な黒いロボットが現れる。それは、「オブシディアン」と呼ばれるナイト・オルドの精鋭機だった。

「まさか…!」

悠真は息を呑む。リタもすぐにドローンを回収しようとするが、オブシディアンがドローンを一撃で破壊してしまう。

「見つかったわね。急いで戻りましょう!」

リタが悠真を促し、二人はその場を後にする。

工房に戻った悠真とリタは、廃工場での出来事を小春に報告する。

「ナイト・オルドの精鋭機がいたんだ。オブシディアンだよ。」

悠真の言葉に、小春の表情が一変する。

「オブシディアン…!あいつがここに来る可能性もあるってことだね。」

リタが腕を組んで言う。

「ええ、間違いなく奴らは私たちの動きを察知している。次は大規模な攻撃が来るわ。」

小春は決意を込めて頷く。

「なら、その前に動こう。サクラノヴァの改造が完了したら、こちらから仕掛ける!」

ナイト・オルドの拠点を突き止めた小春たち。

しかし、オブシディアンを前に、彼らの戦いは一層厳しさを増していく。


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