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第4話「目覚める力」

桜庭小春は、サクラノヴァのコクピットに座り、手元のパネルを操作しながら、改良したロボットの調整を続けていた。アクチュエーターの出力を細かく調整し、サーボモーターや各部の稼働テストを繰り返す。これまでも何度も行ってきた作業だが、今回はいつもと違う。大会を控え、サクラノヴァを完璧な状態に仕上げるためには、どんな小さな調整も怠れない。

「よし、これでどうだ?」小春は無意識に声を漏らすと、サクラノヴァの手足を動かし、確認作業を行った。足元の足場がしっかりと踏みしめられ、駆動部がきれいに動くのを見て、心の中で安堵の息をつく。

その時、悠真が工房のドアを開けて入ってきた。

「調子はどうだ?」と問いかける彼の声が、作業の集中を少しだけ遮ったが、小春は微笑んで答えた。

「うん、ほぼ完璧。でも、まだ試運転が必要だよ。エネルギーの消費具合とか、武器の調整も済ませないと。」

「じゃあ、テスト走行は明日か?」悠真の目が輝いた。

小春はうなずき、「うん、明日はサクラノヴァを外で動かしてみる。調整が全て終わったら、いよいよ大会に向けての準備が本格化するから。」

悠真もその言葉に力を込める。「俺も手伝うよ、サクラノヴァの武器系の調整は任せてくれ。」

「ありがとう!」小春は嬉しそうににっこりと笑った。

その夜、工房の中はいつも以上に静かで、穏やかな空気が漂っていた。外の風が冷たく吹き込んでくる中、小春の手は止まることなく、サクラノヴァのパーツを一つ一つ精緻に調整し続けた。

翌日、とうとうその日がやってきた。サクラノヴァの最終調整が終わり、試運転が開始される日だ。

「いよいよだね……」小春は意気込むものの、心の中では少しの不安も感じていた。大会が迫る中、彼女が参加する大会のレベルがどれほどのものか、まだ未知数だったからだ。

「でも、どんな相手がいても、サクラノヴァなら大丈夫だよ。私が設計したんだもの!」小春は自分に言い聞かせるように言った。

悠真が車の鍵を手にし、サクラノヴァが置かれている駐車場へ向かう。「それじゃ、行こうぜ。試運転だ!」と彼は元気よく声をかけた。二人は車に乗り込み、駐車場へと向かっていった。

工房から少し離れた場所にある広場。そこにサクラノヴァは、すでに待機していた。

「さあ、いよいよだよ、小春。試運転、上手くいくといいな。」悠真が言うと、小春は頷いた。

「うん、絶対にうまくいくよ。」

サクラノヴァに乗り込み、搭乗用のヘルメットをかぶった小春は、アクチュエーターを起動させ、操縦桿を握る。その瞬間、サクラノヴァの体が震え、エネルギーが各部に供給されていくのを感じ取る。

「サクラノヴァ、起動。」小春が命令すると、ロボットは力強く動き始め、足元からギアを噛み合わせる音が響いた。

「よし、動きは問題ない!」小春は集中し、サクラノヴァに命じて一歩を踏み出させた。足元がしっかりと地面を捉え、ロボットは思い通りに動く。

次に、武器のテストを行うことにした。サクラノヴァの右腕に装備された「チェリーブレード」を引き抜くと、刃が光り、周囲を照らし出す。小春は刃を試すために空気を切り裂いた。

「いい感じ! 刃の鋭さは完璧だ!」小春は満足げに声を上げた。

その後、ブロッサム・ブラスターとペタル・シールドも順調にテストされ、サクラノヴァは戦闘準備を整えた。

サクラノヴァの調整が終わり、いよいよ大会に向けての準備が整った。しかし、その背後で何か不穏な動きがあった。

「ナイト・オルド、あの組織の影が気になるな。」悠真が工房の片隅で呟いた。

「うん、私も気になる。でも、今は大会に向けてできることをやるだけだよ。」小春は決意を込めて答えた。

それでも、どこか不安げに空を見上げると、雲が一時的に重く垂れ込めているのが見えた。何かが近づいているような気配。

メカ・アスリート杯の開催が迫る中、桜庭小春はその準備に全てを注いでいた。サクラノヴァはすでに完璧に近い状態に仕上がり、あとは大会で試されるだけだ。だが、彼女の心の中には、どうしても払拭できない不安があった。

「本当にこれで大丈夫なのか……?」小春は工房の一角でサクラノヴァを見つめながら、心の中で呟いた。

サクラノヴァは、彼女が長い時間をかけて作り上げた最高傑作だ。精密な機械工作とプログラミング技術を駆使して、完璧に動くように設計された。しかし、外部からのプレッシャー、特にナイト・オルドが背後にいるという事実は、彼女の心を重くしていた。

「ナイト・オルド……あの組織が本当に関わっているとしたら、ただの競技大会では済まないかもしれない。」小春は自分の考えを整理しながら、サクラノヴァのシステムを再確認する。機体のすべてが正常であることを確認すると、ようやく少しだけ安心した。

「でも、私にはこれしかない。サクラノヴァがある限り、私は前に進むしかないんだ。」小春は自分に言い聞かせるように、うなずいた。

その頃、工房の入り口から悠真の声が聞こえてきた。「おーい、小春! そろそろ寝ないと大会前に体力が持たないぞ。」

「う、うるさいな、もう少しだけ確認してから寝るから!」小春はすぐに返事をすると、再びサクラノヴァのセンサー類を調べ始めた。

悠真は軽く笑いながら、「お前は本当に集中すると周りが見えなくなるんだからな。でも、無理して倒れたら意味ないぞ。」と言った。小春はその言葉をきっかけに、ようやく意識を少しだけ他に向けた。

「うーん、でも、やっぱり気になるんだよね。大会で何が起きるのか、ナイト・オルドが絡んでくるのか、それに……。」

「それに?」悠真が尋ねると、小春は少し黙り込んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。

「私、もしかしたら大会に参加するだけじゃなく、戦うことになるかもしれない。サクラノヴァの武器を使って、誰かと戦うことになるんじゃないかって……」小春は目を伏せながら言った。

「それでも、お前はサクラノヴァを完成させて、ここまで来たんだろ? 戦う覚悟を決めるのも、お前次第だよ。」悠真は真剣な表情で言った。

小春はその言葉に少し驚き、そして心強さを感じた。悠真の言う通りだ。ロボットを作るだけではなく、その先にあるものを見据えて戦う覚悟を決めることが、今の自分に必要だと感じた。

「ありがとう、悠真。私、戦うよ。サクラノヴァと一緒に。」小春は強く言い切った。

大会の前日、ようやく小春はベッドに入り目を閉じた。しかし、眠れなかった。心の中で、あの黒いロボット――オブシディアンのことが頭を離れなかった。

「オブシディアン……あれは一体、何だったんだろう。」小春はその姿を思い出す。漆黒のボディに赤いアクセントが光る異様な存在。かつてサクラノヴァの試運転中に遭遇したあの恐ろしいロボットは、今でも鮮明に脳裏に焼き付いていた。その後、あんなに短時間で逃げることができたのは、奇跡に近かった。

「次、もしあいつが出てきたら、私はどうすればいいんだろう。」小春は自分の心の中でその問いに答えられず、ただ無力感を感じるばかりだった。

その時、部屋の窓の外から強い風の音が聞こえた。窓を開けると、夜空は雲に覆われ、まるで何かが迫ってくるような不安定な空気が漂っていた。小春はその風を感じながら、ひとりで静かに誓った。

「私は負けない。サクラノヴァと一緒に、どんな試練にも立ち向かう。」

大会当日、会場は異様な熱気に包まれていた。巨大なスタジアムの中で、数多くのロボットとその操縦者たちが集まり、競技に備えていた。小春もサクラノヴァを車に積み込んで会場に向かった。

会場には世界各国から集まったロボットが並び、どれもが異なる特徴を持っていた。小春はその中でもサクラノヴァのデザインが一際目立つことを感じ取った。桜色と白のカラーリングが、他のロボットたちと一線を画していた。

「いよいよ、始まるんだね。」悠真が小春に声をかける。

「うん、でも、ちょっと緊張するな……。」小春は少しだけ息を呑んだ。

その瞬間、会場のアナウンスが流れ、選手たちが競技に向けて準備を整えていく。

「さあ、いよいよだ。」悠真が小春を励ます。

「うん、絶対にやり遂げてみせる!」小春は決意を新たにして、サクラノヴァのコクピットに向かって歩き出した。

だが、その背後では、ナイト・オルドの影がひそかに動き始めていた。彼女が大会で何を目にすることになるのか、まだ誰も知る由もなかった。

メカ・アスリート杯開幕の熱気が、広大な競技場を包み込んでいた。会場は万雷の拍手と歓声で揺れ、小春はサクラノヴァのコクピットで静かに深呼吸する。今日から始まる過酷な戦いに向けて、心を整えていた。

「小春、緊張してるか?」

通信機越しに悠真の声が届く。

「ちょっとだけね。でも、これが私たちの本番だもん。絶対に楽しむ!」

小春は笑顔を浮かべ、サクラノヴァの操縦桿を握り直した。

最初の種目はスピードレース。広大なフィールドに設けられたコースは、直線だけでなく急カーブや障害物ゾーン、さらには険しい地形まで盛り込まれている。操縦技術だけでなく、ロボットの性能を限界まで引き出さなければ勝利はつかめない。

小春がスタートラインに立つと、周囲には各国の選手たちが自慢のロボットを並べていた。どの機体も個性的で、最新技術が惜しみなく詰め込まれているのが一目でわかる。

「サクラノヴァが一番小さい……でも、機動性なら負けない!」

小春は自分に言い聞かせるように呟いた。

「全員注目!間もなくスピードレースの第一ヒートがスタートします!」

アナウンスが響き渡り、観客席から歓声が上がる。

「作戦はシンプルだ、最初は様子見でいい。焦るなよ。」悠真が冷静に指示を送る。

「わかってる。私たちの強みは、最後のスパートで見せつける!」

スタートの合図とともに、各ロボットが一斉に動き出した。サクラノヴァも滑らかに加速し、他の機体と肩を並べる。

最初のセクションは長い直線。ここでは純粋なスピードが試される。小春はエンジン出力を抑えながら、他のロボットを観察していた。

「前の機体、意外と動きが鈍いな。多分重量が重いんだ。」悠真が敵の情報を分析する。

「了解。次のカーブで一気に抜くよ!」

コースはやがて鋭い左カーブに差し掛かった。他のロボットは慎重に減速するが、小春はサクラノヴァの機動性を活かし、鋭いライン取りで数機を一気に追い抜いた。

「すごい!サクラノヴァならではの動きだ!」悠真も思わず声を上げる。

次のセクションは、大小さまざまな障害物が散りばめられたエリアだ。このセクションでは、回避能力と戦略が問われる。

「ここからが本番だね!」小春は笑みを浮かべ、操作をさらに細かく調整した。

サクラノヴァは桜色の機体を滑らせるように動かし、狭い間隔の障害物を次々と抜けていく。他の選手たちが苦戦する中、小春の技術は輝きを放っていた。

だが、その時――。

「警告!右後方に接近する機体あり!」悠真が叫ぶ。

小春が振り返ると、銀色の大型ロボットが猛スピードで迫ってきていた。

「えっ、あれは……!」

そのロボットは他の機体を力ずくで押しのけながら進んでいた。どうやらルールすれすれの強硬戦術で順位を上げているらしい。

「負けるもんか!」

小春はサクラノヴァの加速モードを起動。瞬く間に速度を上げ、銀色のロボットをかわしてみせた。

レースもいよいよ終盤。最後の直線は、参加者全員が全力でスピードを競うクライマックスだ。

「ここで全力を出すよ!」小春はエネルギー出力を最大に設定し、サクラノヴァを解き放った。

桜色の軌跡を描きながら、サクラノヴァは次々と前のロボットを追い抜いていく。その姿に観客席から大きな歓声が上がる。

「ラストスパートだ、小春!」悠真の声が響く中、小春はコクピット内で叫んだ。

「サクラノヴァ、行こう!」

ゴールラインを越える瞬間、サクラノヴァは見事に1位でフィニッシュ。

「やった……!」小春はコクピットの中で大きく息を吐き出した。

「見事だったな、小春!サクラノヴァのスピードが完璧に生きた。」悠真が笑顔で称賛する。

控室に戻った小春は、周囲の選手たちからも祝福を受けた。

だが、その中で一人だけ、小春に冷たい視線を送る者がいた。黒いフードを被った少年――その胸元には、ナイト・オルドの紋章が刻まれていた。

「次の競技で、お前の真価が試されるだろうな。」少年は低く呟き、姿を消した。

「ナイト・オルド……?」小春はその言葉に胸騒ぎを覚えながらも、次の戦いに向けて意気込むのだった。


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