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第3話「傷だらけの工房」

夜明けの光が差し込む工房は、静けさの中に異様な雰囲気を漂わせていた。昨夜の戦闘で破損した窓や散らばった工具を見つめながら、小春は額に浮かんだ汗を袖でぬぐった。

「なんとか追い返せたけど、オブシディアン……あれは一体何者なの?」

サクラノヴァは無事だったが、その表面にはオブシディアンとの小競り合いでついた傷がいくつも残っていた。小春はその傷を指でなぞりながら、再び熱い決意が胸に芽生えるのを感じた。

「もっと強くしなくちゃ……サクラノヴァを、私自身を。」

小春は朝食もそこそこに、再び作業に没頭した。オブシディアンとの戦闘を通じて、サクラノヴァの現状では足りない部分がいくつも浮き彫りになった。特に、高機動戦闘への対応力の低さが問題だった。

「新しい関節モジュールを入れる必要があるわね。それと、エネルギー効率をもう少し……」

彼女はメモ帳に改良案を書き込みながら、必要な素材を確認する。

父の遺したパーツストックに目を向けると、そこにはまだ使われていない高性能アクチュエーターが眠っていた。彼女はそれを手に取り、微笑む。

「これなら、もっと早く、もっと滑らかに動けるはず!」

調整作業を進める中で、彼女の脳裏には昨夜のナイト・オルドの使者の言葉が蘇った。

「メカ・アスリート杯であなたの技術を披露してください。」

大会への参加は確かに魅力的だった。しかし、小春の中にはまだ拭いきれない不安があった。オブシディアンの突然の襲撃、そしてナイト・オルドの存在。彼らがなぜ自分に目をつけたのか、その理由がわからなかった。

「でも、やらなきゃ……」

自分の目標を思い出す。サクラノヴァを完成させること、そしてその力を試すこと。それが彼女の夢だった。

「大会に出ることで、もっとサクラノヴァを進化させられるなら、私がやるべきことは決まってるよね!」

小春はすぐに改造作業に取り掛かった。新しいアクチュエーターを取り付けるためには、関節部のフレームを一部作り直す必要があった。彼女はCADソフトを使い、新しいフレームの設計図を描き始めた。

画面に映し出される立体モデルは、サクラノヴァの軽量化と強度を両立させるために緻密に計算されたものだった。

「これならいける……!」

彼女は3Dプリンターにデータを送信し、フレームの試作品を製作し始めた。その間に、工具を取り出して既存のパーツを解体し、新しいモジュールを組み込む準備を進める。

夕方になり、作業が一段落したところで工房の扉がノックされた。

「また……?」

警戒しながら扉を開けると、そこには意外な人物が立っていた。中学の同級生で、ロボット制作に興味を持つ高槻たかつき 悠真ゆうまだった。

「お前のところにナイト・オルドのやつらが来たって聞いたんだけど、本当か?」

悠真は真剣な表情で尋ねた。

「え?どうしてそれを……」

驚く小春をよそに、悠真は工房に視線を向けた。

「そのロボット、すごいな。俺も手伝わせてくれないか?」

小春が悠真の協力を受け入れ、二人で作業を進めていると、工房のモニターが警告音を発した。防犯カメラが工房の周囲に不審な動きを検知したのだ。

「また来たの?」

小春はすぐにモニターを確認したが、そこに映し出されたのはオブシディアンではなかった。謎の小型ドローンが数機、工房の周囲を旋回していた。

「なんだあれは?」悠真も驚きの声を上げる。

「わからないけど、ここを探ってるみたい……!」

ドローンの動きが明らかに工房内部を狙っていると判断し、小春はすぐにサクラノヴァを起動した。

「悠真、そこにあるスイッチを押して!」

「これか?了解!」

悠真の手でサクラノヴァのシステムが完全に起動し、桜色の機体がゆっくりと動き出す。

「行くよ、サクラノヴァ!」

小春はコクピットに乗り込み、ドローンとの戦闘体勢を整えた。

夜が更け、工房の周囲を飛び回る小型ドローンに小春と悠真は息をのんだ。

「この数……十機以上いるじゃないか。」悠真がモニターに映る映像を見て驚愕する。

小春はサクラノヴァのコクピットに座り、モニターに映るドローンの動きを冷静に観察していた。

「これ、ただの監視用じゃないね。攻撃してくるつもりだ。」

ドローンの動きは徐々に工房の防御ラインを突破するような挙動を見せ始めていた。小春は操作パネルに手を置き、サクラノヴァのエネルギーシステムをフル稼働させる。

「やるしかない。悠真、工房の電源を落として! 防御システムだけは残して!」

「分かった、任せろ!」

悠真が工房のメインスイッチを切り替えると、工房の明かりが消え、静寂が訪れる。だが、その静寂はすぐにドローンの低い羽音で掻き消された。

サクラノヴァがゆっくりと立ち上がり、その桜色のボディが闇夜の中でかすかに光を放つ。小春は操縦桿を握り、ブロッサム・ブラスターを構えた。

「来るよ……!」

ドローンの一機が急降下してきた瞬間、小春はトリガーを引いた。桜の花びらを模したエネルギー弾が飛び出し、ドローンを正確に撃ち落とす。

「やった! けど、まだたくさんいる!」

次々と襲い来るドローンに対し、小春はブロッサム・ブラスターを連射しながらペタル・シールドを展開。エネルギーバリアがドローンの攻撃を弾く音が響く中、彼女の集中力は極限まで高まっていく。

一方、工房内では悠真が必死に小春をサポートしていた。

「小春! ドローンの動き、規則的だ。3秒ごとに同じ軌道を通ってる!」

「いい観察力! その情報、こっちのモニターに送って!」

悠真は急いで工房の端末からドローンの軌道データをサクラノヴァに送信した。小春の画面にドローンの動きが赤いラインで表示される。

「これで……仕留められる!」

小春はドローンの次の動きを予測し、ブロッサム・ブラスターを放った。エネルギー弾は複数のドローンを一度に撃ち落とし、空に散らばる破片が夜空にきらめいた。

残るドローンは一機。その動きはこれまでのものと明らかに異なり、異常な速度でサクラノヴァに接近してきた。

「こいつ、普通じゃない……!」

小春はチェリーブレードを展開し、接近戦に備える。ドローンは鋭い刃を展開しながら突進してきた。

「負けない……!」

刃が交差する一瞬の隙を突き、小春はチェリーブレードを振り抜いた。桜色の光の軌跡がドローンを切り裂き、最後の敵は音もなく地面に崩れ落ちた。

戦闘が終わると、小春と悠真は工房の外に出て、ドローンの残骸を調査した。

「これ、ただの監視用じゃない。軍事用のカスタムドローンだ。」

悠真がドローンの内部を覗き込みながら言った。

「やっぱり……ナイト・オルドの仕業かな。」

小春は破片を拾い上げ、内部のチップに刻まれた謎のロゴを見つけた。それはナイト・オルドのものではなかった。

「別の組織……?」彼女の胸に新たな疑念が浮かぶ。

夜が明ける頃、工房は再び静けさを取り戻していた。小春はサクラノヴァの傷を見つめながら、拳を握った。

「もっと強くしなきゃ……これじゃまだ足りない。」

悠真はそんな小春に歩み寄り、肩に手を置いた。

「お前ならできる。俺も手伝うからさ。」

彼の言葉に小春は微笑み、再び作業机に向かった。

朝日が昇り、工房には穏やかな光が差し込んでいた。しかし、昨夜の戦闘の余韻はまだ小春と悠真の中に残っていた。サクラノヴァのボディには、ドローンによる攻撃の痕跡がいくつも刻まれている。

「これじゃ、次は持たないね……。」

小春はため息をつきながら、サクラノヴァの膝関節の破損した部分を指でなぞった。

「でも、逆に考えればいい。これ以上強くできるチャンスだよ。」

悠真が工具を持ちながら励ますように言った。

「そうだね! もっと強く、もっと速く、もっと賢くするの!」

小春の目が再び輝き始める。その情熱に引っ張られるように、悠真も笑みを浮かべた。

工房のホワイトボードには、小春が描いたサクラノヴァの設計図がびっしりと書き込まれていた。

「まずは関節部分の強化だね。ドローンの攻撃で動きが鈍くなったのは、関節のサーボモーターの出力が足りないせいだと思う。」

「いい案だな。でも、それだけじゃ攻撃力が物足りないんじゃないか?」

悠真が口を挟む。

「もちろん、それも考えてるよ! 新しい武器を追加するつもり。ブロッサム・ブラスターのエネルギー効率を上げて、連射性能を高める。それに、チェリーブレードも強化してもっと切れ味を良くしたい!」

小春の提案に悠真は驚いた表情を見せるが、すぐに笑顔で頷いた。

「やっぱりお前、すごいよな。俺はパーツの調達を手伝うよ。」

その日の夕方、工房に一通の封筒が届いた。表には金色の封蝋が施され、「メカ・アスリート杯 運営委員会」と記されている。

「これって……!」小春が封を切ると、中には大会への正式な招待状が入っていた。

「やっぱり、ナイト・オルドの仕業かな?」

悠真が少し警戒した表情を浮かべる。

「でも、これを利用しない手はないよ。大会に出れば、他のロボットや技術も見られる。それに、サクラノヴァをもっと磨くきっかけになるはず!」

小春の目は挑戦への興奮で輝いていた。悠真は一瞬躊躇したが、彼女の情熱に押されて頷く。

「分かった。ただ、気を付けよう。何があるか分からないからな。」

それからの数日間、小春と悠真はサクラノヴァの改良に没頭した。工房はまるで戦場のような忙しさだった。

「この新しい合金、思った以上に軽い! これなら動きがもっと速くなる!」

小春は新素材で作ったサクラノヴァのパーツを見て満足げに笑った。

「でも、これだと耐久性が不安じゃないか? 俺たちの相手は、ドローンよりもっと強いロボットになるかもしれないんだぞ。」

悠真が疑問を投げかける。

「だから、ペタル・シールドのエネルギー出力も上げるの! これで防御力はカバーできるはず。」

小春の明確なプランに、悠真も納得するしかなかった。

ある夜、作業を終えた小春と悠真は、工房の片隅で並んで座っていた。サクラノヴァは改良が進み、以前よりも洗練された姿を見せている。

「メカ・アスリート杯、どんな大会なんだろうね。」

小春が夜空を見上げながら呟いた。

「聞いた話じゃ、ただの運動会じゃないらしい。ロボット同士の直接対決もあるとか。」

「燃えるね! サクラノヴァがどれだけ通用するか、早く試したい!」

小春の無邪気な笑顔に、悠真は少し微笑む。だが、彼の心には一抹の不安があった。


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