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第13話「兄妹のシンフォニー」

中央制御室の薄暗い光の中、オブシディアンの巨体が威圧的に立ちはだかる。その漆黒の装甲は、まるで絶望そのもののように周囲の空間を支配していた。

「小春、ここまで来るとは思わなかった。」

オブシディアンの操縦席から聞こえた声は、かつて小春を技術者として導き、支え続けてくれた兄・桜庭一真のものだった。

「どうして……お兄ちゃんがナイト・オルドに?」

小春の声は震えていた。兄が生きていたことへの安堵と、敵として立ちはだかる現実への困惑が入り混じる。

「小春、君はまだ分かっていない。この技術の本当の可能性を――そして、世界を変えるために何が必要かを。」

一真の声は冷徹で、かつどこか悲しげだった。

一真はナイト・オルドに身を投じた理由を語り始める。

「父さんの工房が資金難に陥り、技術の価値を認めてもらえなかったあの頃……。僕は、ナイト・オルドが示した未来に賭けるしかなかった。彼らは、僕たちの技術を使って世界を救うと言ったんだ。」

だが、その「救済」が軍事利用を含む支配構造の構築であることに気付いた一真は、もはや後戻りできない立場に追い込まれていた。

「でも、それは違う……技術は、誰かを傷つけるためじゃない!未来を作るためのものだって、お兄ちゃんが教えてくれた!」

小春は涙を滲ませながら叫ぶ。

「小春、君の信念は美しい。だが、この現実では、その信念だけでは何も守れない。」

一真の言葉が終わると同時に、オブシディアンが動き出した。

「来い、小春。君がここまで進化させた技術を見せてくれ。」

戦闘が始まる。オブシディアンは、圧倒的なパワーと速度を誇り、サクラノヴァを追い詰める。

「お兄ちゃん、本気でやるつもりなんだね……だったら、私も全力で応える!」

小春は、エターナルフレームの全エネルギーを解放し、サクラノヴァを最大出力で稼働させる。

激しい斬撃と衝撃波が交差し、中央制御室の壁や機材が次々と崩れ落ちていく。

「君の技術は確かに素晴らしい。だが、このオブシディアンには届かない!」

一真の操るオブシディアンは、装甲を変化させながら攻撃を防ぎ、隙を見て反撃する。

戦闘が続く中、小春は兄の戦い方に何かを感じ取った。

「お兄ちゃん……まさか、わざと攻撃を外してるの?」

オブシディアンの動きには、どこかためらいがあった。小春を本気で倒そうとしていないことが、次第に明らかになる。

「気付いてしまったか……。だが、それでも君は止めなければならない。君の優しさが、逆に世界を危険にさらす。」

一真の言葉に、小春は心を揺さぶられる。

「お兄ちゃん……そんなの、間違ってる!一緒に戦えばいいじゃない!技術を使って、みんなを助ける未来を作ろうよ!」

小春の叫びに応えるように、サクラノヴァのエネルギーが限界を超え、新たな力が解放される。

「これが……私の信じる未来だ!」

小春は、サクラノヴァの新技術「シンフォニックフィールド」を展開。エネルギーの波動がオブシディアンを包み込み、動きを封じる。

「君の信念の強さ、見せてもらったよ……。」

一真は静かに操縦桿を下ろし、オブシディアンの動力を停止させた。

「お兄ちゃん……!」

小春が駆け寄ろうとしたその時、ナイト・オルドの幹部が通信を割り込んできた。

「一真、何をしている!計画を止める気か!」

一真は幹部に向かって毅然とした声で答える。

「計画はここで終わりだ。ナイト・オルドの野望に未来はない。」

その言葉とともに、一真はオーロラ計画の制御装置を自ら破壊した。

ナイト・オルドの本拠地、深紅の光が脈打つ巨大な制御中枢「オーロラ・コア」。破壊を免れたその施設は、まるで巨大な心臓のように鼓動を刻み、周囲に緊張感を漂わせていた。

「これが……ナイト・オルドの本当の計画の中枢……。」

小春は、目の前に広がる異様な景色を見つめながら呟いた。

先の戦闘で兄・一真のオブシディアンを止めたものの、ナイト・オルドの幹部たちはなおも計画を遂行しようとしていた。一真が制御装置を破壊した影響で、オーロラ計画は遅延したものの、完全に停止には至っていない。

「悠真、ここからが本当の戦いだよ。私たちが止めなきゃ、世界が変わっちゃう。」

小春は幼馴染の悠真を見つめ、決意を込めた声で言った。

「分かってる。俺たちにはお前がいる。サクラノヴァがいれば、どんな敵も倒せるさ。」

悠真の言葉に、小春は小さく頷いた。

突如、施設内に警報音が鳴り響く。通信回線を通じて、ナイト・オルドの幹部、コードネーム「アークヴァンガード」が冷たい声で語りかけてきた。

「桜庭小春、ここまで来たことは称賛に値する。しかし、お前たちがたどり着けるのはここまでだ。オーロラ計画はすでに最終段階に入っている。」

その言葉とともに、施設の奥から無数の防衛ロボットが姿を現す。それぞれが最新鋭の武装を備え、侵入者を排除するようプログラムされていた。

「防衛ロボか……予想通りだけど、この数は厄介だね。」

悠真が眉をひそめる。

「私たちだけじゃ無理。みんなと連携して突破するしかない!」

小春は瞬時に状況を分析し、仲間たちに指示を出す。

地上では、メカ・アスリート杯で知り合った仲間たちが、それぞれのロボットを駆使して防衛ロボットに立ち向かっていた。

リナは高機動型ロボット「ウィンドブレイザー」を操り、敵の動きをかき乱す。

「まだまだこんなもんじゃないよ!私たちの技術を見せてあげる!」

ライアンは、重装甲型のロボット「バリアントコマンダー」で敵の攻撃を受け止めつつ、仲間を守る盾となる。

「前は任せろ!絶対に通させやしない!」

小春と悠真もサクラノヴァで中心部を目指しながら、敵を次々と撃破していく。

「サクラノヴァ、エターナルフレーム起動!一気に突き抜けるよ!」

小春の掛け声とともに、サクラノヴァが光を纏いながら進撃する。

激しい戦闘の末、小春たちはついにオーロラ・コアに到達する。しかし、そこには最後の壁が立ちはだかっていた。巨大なロボット「アークオメガ」が、小春たちを待ち受けていたのだ。

「これが……ナイト・オルドの最終兵器?」

悠真が呆然と呟く。

「違う。これを倒さないと、オーロラ計画を止められない。」

小春は操縦桿を握り直し、全身に力を込めた。

アークオメガは圧倒的なパワーと耐久性を誇り、サクラノヴァを凌ぐ性能を持つ。その戦闘能力は、まさに「絶望」を具現化したものだった。

「悠真、これが私たちの最後の戦いになるかもしれない。でも、絶対に負けない!」

小春はサクラノヴァのすべての機能をフル稼働させ、アークオメガに挑む。だが、敵の一撃はあまりに強力で、サクラノヴァの装甲が次々と削られていく。

「くっ……これ以上は……!」

絶体絶命と思われた瞬間、通信回線に一真の声が響く。

「小春、まだ終わらせるな。君の技術には、さらに隠された可能性がある。」

一真の助言により、小春は新たなモジュール「シナジーブレイカー」を起動させる。それは、仲間たちのロボットとのエネルギーを共有し、連携攻撃を可能にするシステムだった。

「みんな、力を貸して!」

仲間たちの力がサクラノヴァに集まり、巨大な光の刃「オーロラ・ストライク」が形成される。

「これが、みんなの力……そして、私たちの未来を守る技術だ!」

サクラノヴァは、オーロラ・ストライクでアークオメガを一刀両断。そのエネルギー波がオーロラ・コアに到達し、施設全体が停止する。

「やった……!これで計画は止まった!」

しかし、その代償としてサクラノヴァのエネルギーは完全に尽き、機体は動かなくなってしまう。

「ありがとう、サクラノヴァ……。」

小春は涙を流しながら、機体にそっと触れた。

ナイト・オルドの本拠地が崩壊する中、桜庭小春と仲間たちは最後の戦いを終えて脱出を図っていた。オーロラ計画の中枢「オーロラ・コア」を破壊した結果、施設全体が自壊を始めており、瓦礫が容赦なく降り注ぐ。

「みんな、出口はあと少しだ!急いで!」

小春は、サクラノヴァが停止したままのため、悠真と仲間たちの力を借りながら走り抜ける。

「こんな状況でも、よく生き延びてるな……。さすが俺たちってとこか?」

悠真が軽口を叩きつつも、緊張した顔で振り返る。背後には巨大な瓦礫が迫っており、一歩間違えれば命を落としかねない状況だった。

「悠真、油断しないで!出口まではまだ遠いんだから!」

小春が叫ぶと同時に、仲間のリナが鋭い声を上げる。

「この先に、まだ警備ロボがいるみたい!どうする?」

「ここで止まるわけにはいかない。全力で突破するよ!」

小春の言葉に、仲間たちは頷き、一丸となって道を切り開く。

ようやく施設の外へ脱出した小春たちの前には、夜明け前の静かな空が広がっていた。戦いの激しさとは対照的に、世界は何事もなかったかのように静けさを取り戻している。

「終わった……本当に終わったんだね。」

小春は、立ち止まりながら空を見上げた。その表情は安堵と疲労の入り混じった複雑なものだった。

「いや、まだだよ。」

悠真が言葉を挟む。「ナイト・オルドの幹部が全員捕まったわけじゃないし、オーロラ計画以外にも隠されたプロジェクトがあるかもしれない。」

「でも、私たちが一歩踏み出したことには変わりない。サクラノヴァとみんなの力があったから、ここまでこれた。」

小春は仲間たちの顔を一人ひとり見渡し、深く頭を下げた。

「ありがとう、みんな……本当にありがとう。」

その日の午後、ナイト・オルドの拠点跡地から遠く離れた安全な場所に集まった小春たちは、それぞれの道を歩むための別れの時間を迎えていた。

「結局、またみんなバラバラになるんだね……。」

小春の言葉に、リナが笑って答えた。

「バラバラじゃないよ。どこにいても、私たちは仲間だってことを忘れないで。」

ライアンも腕を組みながら頷く。

「俺たちが成し遂げたことは、誰にも真似できない。次はそれぞれの場所で、新しい挑戦をする番だ。」

悠真は、隣で静かに微笑んでいた。

「小春、お前も自分の夢に向かって進むんだろ?父さんの工房を復活させるって言ってたじゃないか。」

「うん。やるべきことはいっぱいあるけど……まずはサクラノヴァを修理しなきゃ。あの子がいなかったら、私はここにいなかったと思うから。」

数週間後、小春は父の工房に戻っていた。戦いで荒廃した機材や工具を整理しながら、次のプロジェクトに取り掛かっていた。

「サクラノヴァ、もう少し待ってね……。次はもっと強くて、みんなを守れる機体にするから。」

机の上には、新たな設計図が広げられている。それは、戦闘だけではなく、災害救助や人々の生活を支えるためのロボットだった。

「戦いだけがロボットの役目じゃない……。私が作りたいのは、人を笑顔にする技術だよ。」

ふと、工房のドアが開き、悠真が顔を覗かせる。

「よっ、小春。少しは休んでるのか?」

「悠真!?どうしてここに?」

驚く小春に、悠真は苦笑しながら答える。

「お前が無理してないか見に来ただけだよ。それに……手伝いが必要なら、言ってくれよな。」

「……ありがとう。でも、今は大丈夫。やらなきゃいけないことが見えてきたから。」

悠真はその言葉に満足げに頷き、工房を後にする。

小春は窓から差し込む光を浴びながら、完成したばかりの新しいロボットを見つめた。

「これが、私たちの未来への第一歩だね。」

サクラノヴァの隣に並ぶその機体は、小春の新たな夢を象徴するものだった。

ナイト・オルドとの激闘から数ヶ月。桜庭小春の住む街は、かつての平穏を取り戻していた。戦いの爪痕は深く残っているものの、人々は再建への道を歩み始めていた。小春の父が遺した工房もその一つで、彼女は日々黙々と復旧作業を続けている。

作業台に向かう小春の手元には、新たに描き起こされたサクラノヴァの設計図が広がっていた。戦いの中で傷ついた「相棒」を修復し、さらに進化させるためのアイデアが次々と湧き上がる。

「サクラノヴァ、次はもっと多くの人を守れるようにしようね。」

小春は静かに呟きながら、ドローイングペンを滑らせる。

その日、小春が工房で作業をしていると、懐かしい声が響いた。

「小春、相変わらず働き詰めだな。」

振り返ると、幼馴染の悠真が立っていた。その背後には、かつてメカ・アスリート杯で出会った仲間たちが続々と顔を見せる。クラウディア、ライアン、リナ、そしてクールな技術者のエリック。それぞれが再建の手伝いや新たなプロジェクトの相談をするために集まったのだ。

「みんな……!」

小春の目が一瞬驚きで見開かれるが、すぐに微笑みを浮かべる。

「今日は特別な日だからな。お前に黙ってるわけにはいかないだろ?」悠真がそう言ってテーブルに大きな箱を置いた。

箱の中身は、仲間たちが作った特製ケーキ。上には「再出発おめでとう」という文字が飾られている。

「小春、あなたが頑張ってきたおかげで、私たちもここまで来られたのよ。」

リナが優しく微笑みながら言う。

「それに、俺たちはまだお前と一緒にやりたいことがあるんだ。」アキトが力強くそう続けた。

その夜、工房にはかつての戦いを共にした仲間たちの笑い声が響いた。食事を終えた後、小春はみんなに自分の新しい夢を語り始める。

「私は、これからもサクラノヴァを改良し続けるつもり。でも、戦いのためだけじゃなくて……災害救助や、もっと多くの人を助けるためのロボットを作りたいの。」

その言葉に、全員が静かに頷く。

「いいじゃないか、小春。それができるのはお前だけだ。」

悠真が真剣な顔で答える。

「私たちも協力するわ。ロボット開発は一人でやるものじゃないでしょ?」

リナが笑顔で言い、エリックも無言で頷いた。

小春は胸の中に湧き上がる感謝の思いを抱きながら、皆の顔を見渡した。

「ありがとう……本当にみんながいてくれて良かった。」

夜が明け、朝日が工房を照らす頃、小春は再び作業台に向かっていた。眠ることなく考え続けた新しい設計図が、完成へと近づいていた。

「これでいい……いや、もっと工夫できるはず。」

彼女の集中力は鋭く、かつてメカ・アスリート杯で感じた情熱が再び湧き上がってくる。

その時、背後から悠真の声が聞こえた。

「小春、朝だぞ。少しは休めよ。」

「大丈夫。まだ眠くないから。」

小春は笑顔を見せるが、その目には未来への強い意志が宿っていた。

「それに、サクラノヴァも私に『まだ進め』って言ってる気がするんだ。」

悠真は苦笑しながらも、彼女の決意を感じ取り、黙ってコーヒーを差し出した。

昼過ぎ、工房の外では街の子どもたちが新しい遊び場で楽しそうに遊んでいる。小春たちが守り抜いた平和な日常がそこにあった。

小春はその光景を眺めながら、心の中で静かに誓った。

「これからも、この笑顔を守るために……私の技術を使うんだ。」

サクラノヴァの新しい設計図を手に、小春は新たな挑戦へ向かって歩みを進める。

「桜鋼のシンフォニー」――完結。


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