第11話「黒き刃の真相」
闇に包まれたナイト・オルドの施設内、黒いロボット「オブシディアン」が立ちはだかる。サクラノヴァのカメラ越しに見えるその姿は、以前にも増して威圧感を放ち、小春たちを圧倒した。
「小春…久しぶりだな。」
通信越しに聞こえたその声に、小春の心臓は跳ね上がった。
「…その声、まさか…!」
まるで時が止まったかのような沈黙が流れる中、オブシディアンの操縦者が名乗りを上げた。
「俺だ。桜庭 一真だ。」
その名前を聞いた瞬間、全員が息を呑んだ。小春の兄であり、数年前に失踪したはずの桜庭 一真が、目の前の敵として立ちはだかっているのだ。
「お兄ちゃん…どうして…?」
小春の声は震えていた。だが、一真の返答は冷たく響いた。
「答える必要はない。ただ、お前たちにはここで消えてもらう。」
その言葉とともに、オブシディアンが動き出した。
◇
オブシディアンの機動力は小春たちの想像を超えていた。
重厚な装甲にもかかわらず、驚異的な速さでサクラノヴァに迫り、鋭い刃を繰り出す。
「悠真、フォローして!」
小春が叫ぶと同時に、悠真のスカイランサーがサクラノヴァを援護するように前に出た。
「小春、冷静になれ!感情に流されるな!」
悠真の言葉に小春は我に返るが、それでも心の混乱は収まらなかった。
「なんで…お兄ちゃんがナイト・オルドの側にいるの?」
小春が問いかけるも、一真は答える代わりに攻撃を激化させる。
「聞く耳を持たないなら、お前を止めるだけだ。」
オブシディアンの刃がサクラノヴァをかすめ、火花が散る。小春は操縦桿を握りしめ、必死に応戦した。
戦いが続く中、クラウディアが小春に通信を送った。
「小春、聞いて。桜庭一真の記録を調べたわ。彼は…ナイト・オルドに強制的に協力させられている可能性が高い。」
「強制的に…?」
「そうよ。記録によれば、一真は失踪中にナイト・オルドの研究に関与させられていた。彼の技術は、オブシディアンを完成させるために必要不可欠だったみたい。」
クラウディアの言葉を聞きながら、小春は涙がこぼれそうになるのをこらえた。
「じゃあ…お兄ちゃんは仕方なく戦ってるの?」
「可能性は高いけど、真実を聞き出すには戦いを止めるしかない。」
小春は一瞬目を閉じ、深呼吸をした。
「お兄ちゃんを助ける…そのためには、まずこの戦いを終わらせなきゃ。」
サクラノヴァのシステムを最大稼働させ、新たに開発した武装「エターナルブレード」を展開した。これは高エネルギーを利用した近接武器で、瞬発力と正確さが求められる。
「悠真、クラウディア、援護をお願い!」
「了解!」
「任せて!」
◇
サクラノヴァとオブシディアンの戦いは激化する。刃と刃がぶつかり合う音が施設内に響き渡り、火花が舞う。
「お兄ちゃん!私は絶対に諦めない!」
小春の叫びとともに、サクラノヴァがエターナルブレードでオブシディアンの武装を打ち砕いた。その瞬間、一真の声が響く。
「そこまでだ…小春。」
オブシディアンがその場に膝をつき、動きを止めた。
「…お兄ちゃん!」
小春は急いでコックピットを降り、オブシディアンへと駆け寄った。
オブシディアンのハッチが開き、一真が姿を現す。彼は疲れ切った顔をしていたが、どこか穏やかな表情だった。
「小春…お前は強くなったな。」
「お兄ちゃん…なんでナイト・オルドの側に…?」
一真はゆっくりと語り始めた。
「俺は…ナイト・オルドの技術開発に巻き込まれたんだ。あいつらは俺の技術を兵器に利用しようとして…逆らえば、お前や母さんに危害が及ぶと脅された。」
その言葉に、小春の目から涙があふれた。
「じゃあ、ずっと苦しんでたの…?」
「ああ。でも、お前がこうして立ち向かってきたことで、俺は…ようやく解放された気がする。」
一真は小春の肩に手を置き、微笑んだ。
「後は任せた。お前なら、ナイト・オルドの計画を止められる。」
◇
オブシディアンとの激闘を終え、小春たちは施設内の隠れた部屋で一時的に休息を取っていた。兄・一真との衝撃的な再会と彼の告白は、小春の心に深い衝撃を与えたが、その余韻に浸る間もなく、次の行動が求められていた。
「ナイト・オルドの最終計画――『オーロラ計画』を止める。」
小春の声は震えながらも力強かった。目の前のスクリーンには、クラウディアが施設内の地図を投影している。
「ここが『オーロラ計画』の中核施設。最も厳重に守られた場所よ。」
地図上の赤い点滅箇所を指しながら、クラウディアは続けた。
「ただ、この施設には複数のセキュリティシステムが稼働しているわ。解除するには、私たち全員の協力が必要になる。」
「全員でやるんだ。俺たちがいる限り、小春を一人にはさせない。」
悠真が力強く言い、仲間たちもそれに続いた。
「よし、それじゃあ作戦を開始しよう。」
小春は小さくうなずき、サクラノヴァの操縦席へと戻った。
◇
施設内を進む小春たちの前に、幾重にも張り巡らされた防衛メカが立ちはだかる。
「敵の動きが思った以上に早い…!」
悠真のスカイランサーが先行し、軽快な動きで防衛メカの攻撃を引きつける。その間に、小春とクラウディアがハッキングを試み、次のエリアへの扉を開放する。
「悠真、よくやった!次のエリアに進むよ!」
小春の指示で、全員が一斉に駆け出す。だが、施設の奥に近づくにつれ、敵の数は増え、攻撃も激化していった。
「これ以上は正面突破は厳しいわね…!」
クラウディアが叫ぶ中、小春は決断した。
「分散して行動しよう。一人が目標ルートを突破する間、他のみんなで時間を稼ぐ!」
「それなら、俺が囮になる!」
悠真が名乗りを上げると、すぐに動き出した。
「悠真、無茶はしないで…!」
「分かってる。小春、あとは任せた!」
悠真たちの奮闘で敵の注意が逸れる中、小春とクラウディアはついに中枢施設のドアにたどり着く。
「この先が『オーロラ計画』の中核ね。でも、ここから先は私たちだけじゃ難しい。」
「大丈夫。サクラノヴァの新機能を使えば突破できるはず。」
小春は改造されたサクラノヴァの新システム「プラズマバースト」を起動。高エネルギーを用いた強制突入モードで、施設の強固な扉を破壊することに成功した。
◇
中に入ると、巨大なモニターが視界を覆い尽くす。そこには、ナイト・オルドのリーダーであるアルベリオ・クラヴィスが映し出されていた。
「ようこそ、桜庭 小春。君の到着を待っていたよ。」
アルベリオの冷酷な笑みを見て、小春は問いかける。
「オーロラ計画って一体何!?これ以上、あなたたちの好きにはさせない!」
アルベリオはあざ笑うように答える。
「オーロラ計画。それは…全世界のロボット技術を集結し、戦争の形を根本から変えるものだ。だが、その中核には君の技術が必要不可欠だ。」
モニターにはサクラノヴァの設計図が映し出され、さらに拡張された軍事仕様のデータが重ねられていく。
「君のサクラノヴァは、まさに完成形だ。この技術を兵器に転用すれば、どれほどの力を得られるか…君は分かっているだろう?」
「そんなこと…絶対に許さない!」
怒りに震える小春の言葉に、アルベリオは冷たく言い放つ。
「ならば力で示してもらおうか。この施設内に配置された最強の防衛システムを突破できるならな。」
◇
アルベリオが言葉を終えると同時に、施設の中央部から巨大なロボットが現れた。それは、「クロノ・バルディア」と呼ばれるナイト・オルドの最新鋭兵器だった。
「これが…オーロラ計画の試作品…!?」
クロノ・バルディアは圧倒的な火力と防御力を備えており、サクラノヴァですら容易には太刀打ちできない相手だった。
「小春、何か策はあるの?」
クラウディアが焦りながら問いかける。
「…まだある!最後の切り札を使うしかない!」
小春はサクラノヴァに搭載された「エターナルブレード」のフルパワー解放を決断する。
「これが成功すれば…必ず打ち破れる!」
◇
アルベリオの冷笑が響く中、巨大なロボット「クロノ・バルディア」が動き出した。施設全体がその巨体の振動で揺れる。
「なんてサイズ…!戦車以上の火力と防御力があるわけだ。」
クラウディアの声は驚きと焦りを帯びていた。だが、小春は冷静さを保とうと努め、操縦桿を握り直した。
「サクラノヴァには新しいシステムがある。きっと突破できる!」
小春は自らを奮い立たせるように言い放ち、サクラノヴァを前進させる。クロノ・バルディアの武装が展開し、施設内に轟音が響く中、両者の戦闘が始まった。
◇
クロノ・バルディアは、誘導ミサイルと高出力ビーム砲を立て続けに放ち、圧倒的な火力で攻めてくる。サクラノヴァはその攻撃をギリギリで回避しながらも、機体にダメージを受けていく。
「エネルギー消耗が激しすぎる…でも、これを使うしかない!」
小春は新たに搭載した「プラズマバースト」を起動した。このシステムは、サクラノヴァの出力を一時的に限界まで引き上げるが、エネルギー消費が尋常ではないというリスクを伴っていた。
「行けぇぇぇ!」
サクラノヴァの全身が眩い光に包まれ、プラズマブレードがクロノ・バルディアの右腕を切断する。
「やった…!」
クラウディアが声を上げるが、その瞬間、クロノ・バルディアの胸部装甲が開き、新たな武器が現れる。それは高エネルギー収束砲だった。
「この一撃で貴様らを塵に変える!」
アルベリオの声が響き渡り、クロノ・バルディアがエネルギーをチャージし始める。
「まずい…この規模の攻撃を受けたら、この施設ごと吹き飛ぶ!」
悠真が通信越しに叫ぶ。その間も、クロノ・バルディアのエネルギー収束は進んでいく。
「やるしかない…!サクラノヴァの全出力を使えば、あの砲撃を止められるかもしれない。」
小春の決意は固まっていた。
小春は最後の切り札、「エターナルブレード」を発動する。このシステムは、サクラノヴァの全エネルギーを一点に集中し、最大限の破壊力を発揮するものであった。
「サクラノヴァ、お願い…!」
全身が赤熱するほどのエネルギーをまとったサクラノヴァがクロノ・バルディアに突進する。その刹那、クロノ・バルディアの高エネルギー収束砲が発射されるが、サクラノヴァはその光線を切り裂くように突き進み、エターナルブレードを敵の核へと叩き込んだ。
◇
轟音とともにクロノ・バルディアが崩壊していく。だが、その爆発の余波でサクラノヴァも大きなダメージを受け、動きを止めてしまう。
「小春、大丈夫か!?」
通信越しに悠真の叫び声が聞こえる。
「…うん、なんとか…。」
小春は傷だらけの体で操縦席から顔を上げる。モニター越しに見える仲間たちの顔に、彼女は小さく笑みを浮かべた。
「これで…オーロラ計画を止められたはず…。」
だがその時、施設全体に警報が鳴り響く。
「警告!施設の自爆システムが起動しました。全員速やかに退避してください。」
「くっ、まだ終わりじゃないのか…!」
悠真たちは小春を救出するため、急いでサクラノヴァの元へ向かう。