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三題噺もどき3

昼過ぎ

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくよん。

 


 自室のドアが開かれた音で目が覚めた。


 何事かと思い、はっきりとしない意識の中で頭を動かす。

 先日の夜更かしが祟って、寝不足もいいところなので寝かせて欲しい。

「おきろー」

 そういいながら、断りもなしに部屋へと入ってきたのは妹だった。

 薄手の掛け布団をはぎ取った上に、ドスンとベットの上に座ってくる。

 暑かったのか掛け布団はほとんど蹴っていたが、上半身の分だけはしっかりかぶっていたあたり、変なこだわりがある自分の変なところが目に見えて嫌だな。

「ん……なに……?」

 出てるかどうかも分からない、細いうめきがのどからこぼれる。

 視力が悪いので、眼鏡もコンタクトもしていない状況では、ぼんやりとしか理解ができない。

 単に寝起き且つ寝不足というのもあるんだけど。

「もう昼過ぎだよ……」

 呆れた声でそう言いながら、更に起きろと催促してくる。

 なんだ……昼食なら母が弁当か何か作っておいてあるだろうに……何も関係ないだろう……寝かせてくれ。

「図書館行こうって言ってたじゃん」

 そう言われて、ようやく思いだした。

 そういえばそうだった。

 夏休みの宿題に、ご丁寧に読書感想文というものがあるらしく。それが、妹の使っている教科書に掲載されている作者限定と言われたらしい。いわゆる文豪と称される作者のものや、歴史や国語などで取り扱われる有名な作者の作品ということらしく。

 そのための本を借りに行こうと、言われていたのだ。

「んん……」

 短大の頃の専攻柄、その手の作者の本は何冊か持っていて、それでいいじゃんと言ったのだけど。その辺の趣味は合わなかったらしく、他のがいいと言われた。

 ……いいじゃないか、泉鏡花。おすすめだぞ。これは短編だが、『外科室』という作品が特にお気に入りだ。

「……わぁかったよ……」

 それはともかく、約束をしていたのだから、さっさと起きなくては。

 なんとか体を起こし、重い足取りで部屋を出る。

 上体を起こしたタイミングで満足したのか、妹は一度自室に戻り準備をしていた。

 多分午前中は授業があったのだろう。よく見れば制服を着ていた。そのまま図書館に行ってから帰ってこればよかったのに……とは言わない。

「……」

 そういえば、制服で思いだしたが、妹がそろそろタイムカプセルを掘り起こしに行くだのなんだの言っていた気がする。

 あぁ、今更ではあるが妹は2人いる。まぁ、2人ともまだ学生ではあるけど。1人はまだ夏休みに入っていないので、普通に朝から登校しているはずだ。夏休みはお盆辺りからと言っていたか。そのタイミングで行くのかな。

「……」

 自分自身、就職する前の年はタイムカプセルを開けに行く年だったはずなんだけど。

 残念ながら、成人式にも行っていないし、そもそもたいしていい思い出もない学年だったので、そのこと自体忘却の彼方へと押しやっていた。何か連絡が来ていたはずなんだけど、その頃には就職のことで手一杯だったし、卒業論文というものがあるので……という言い訳をしておいた。

「……」

 ま、そんなとうの昔に終わったことを思い出したとて、今には関係ない。

 とりあえずは、さっさと動くことにしよう。

 ぼうっとしたまま、トイレに行き、もう一度自室に戻り、枕元に置いてあった眼鏡を手に取る。ようやく視界がはっきりとして、その分思考もくっきりとする。

 ついでに、充電しておいた携帯も手に取り、コンセントを抜いておく。

「……」

 クローゼットを開き、適当に服を取り出す。

 もう考えるのも面倒なので、大抵同じような格好になっていく。

 仕事を始めたあたりで、休日に外出なんてこともほとんどなくなったので、元からなかったおしゃれへの興味がさらになくなったので、新しく服を買った記憶がない。

「……」

 服が決まってしまえば、あとはさっさと準備が進む。

 リビングに降りて、顔を洗って、軽く水分補給をしたりして。

 その間に、妹はとっくに準備を済ませ、待機状態である。

 鞄は1つしか持っていないので、その中に財布と携帯と念の為のイヤホンを入れて、準備完了である。

「ふぁ………行くか」

「んー」

 靴を履き、玄関を開くと。

 眩しい日の光に視界をつぶされ、思わず目をつぶる。入り込んできた熱気にも足を止められ、このまま家の中に戻ろうかと考えてしまう。

「なにしてん……」

「ちょ……待って」

 あまりの眩しさに目が開けられない。

 どうして今年はこんなに暑いんだ……異常気象にもほどがある。ホントにあり得ない。

 ……と心の中で文句を言っているうちに、視界は慣れていき体もようやく動く。

 はーもう、暑すぎ、あり得ん。

「車開けてー」

「はいはい……」

 玄関に置いてあった車の鍵を手に取り、ロックを開け、玄関の扉は閉める。

 かなり熱気がこもっていたのか、いくつかのドアを開いて風を通している。

 エンジンをかけたところで、中古車なのでたいして効きはよくない。

 後部座席にはクーラーがついていないので、妹は助手席に座る。

「あっつ……」

 エンジンをかけ、クーラーを全開にしながら、なんとか車内を冷やしていく。

 いっその事、さっさと出発して涼しい図書館に行った方がいいなこれは……。

 そう判断し、開けていたドアを閉め、運転席に乗り込む。

 シートベルトをして、クーラーの調節は妹に任せ、ゆっくりと車を出す。

「あ、帰りに百均いこ」

「……」

 こいつほんと……。

 いい足ぐらいにしか思っていないのを隠しもしないよな。








 お題:タイムカプセル・図書館・忘却

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