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プロローグ 新米教師、着任。

新作です(*'▽')

この一ヶ月なにもできなかったのですが、そのリハビリに手を動かした結果を放出します。




「えっと……髭もちゃんと剃ったし、服装も問題ないな。やっぱり何事も第一印象が大切、と……」



 日本の都市部にある学園。

 その一つの教室の前で、俺は何度も自分の身だしなみを確認していた。これほどまでに緊張するのは、それこそ学生時代に転校先の学校で自己紹介した時以来。どうにも自分は、このような新しい環境に足を踏み入れるのが苦手のようだった。


 だが、そうはいっても今日からはもう弱音は吐けないだろう。

 何故なら俺はもう、学生ではないのだから。


「あ……っと、予鈴だ」


 そのことを考えて、深呼吸をしていると『キーン、コーン、カーン』という分かりやすいチャイムが響き渡った。つまるところは、ここからはもう後戻りできない、ということになる。

 そうなると、不思議と覚悟が決まった気がした。

 俺は一つ頷いてから、ドアを開く。すると――。



「ほらほら、早く席につきなさい! 先生がきましたよ!!」



 ――2年A組。

 全員で二十五名の女子生徒たちは、委員長然とした少女の言葉にザワザワと移動し始めた。素直に着席する子もいれば、不満げに一か所に留まっている子もいる。俺はその様子を見回した後、ゆっくりと教壇へと移動した。

 そうすると、先ほどまで統一性のなかった生徒たちの視線がこちらへ。

 その気はないだろうが、品定めをするような眼差しに一瞬だけたじろいでしまった。でも、ここで引いてはいけない。



「えー……今日から、このクラスの担任になりました。天ヶ瀬礼音です。前任の先生が退院されるまでの短い間ですが、よろしくお願いします」



 なるべく平静を装って口にすると、何やらピリッとした空気になった。

 女の子たちは各々、仲が良いのであろうグループでコソコソと会話をしている。だが、それを諫めるようにして声を上げたのは先ほどの委員長気質の子。


「みんな、私語は慎みなさい! 先生が困っているでしょう!!」

「あ、あはは……」


 俺はそんな彼女の態度にも苦笑いしつつ、出席簿を取り出した。

 そして目を通しつつ、これまでの経緯を思い出すのだ。





「……え、俺が私立箒星学園の教員、ですか?」

「あぁ、悪くない話だと思うが。どうだろう」



 大学を卒業して間もなく、就職活動に失敗していた俺は行く当てなく日々を過ごしていた。日中は生活費を稼ぐためのアルバイトをこなし、夜は決まって同じ居酒屋に足を運ぶ。そうやっていると、声をかけてきたのは一人の女性だった。

 眼鏡をかけた二十代後半ほどの彼女は、小さく笑うとこう続ける。



「私は箒星学園の理事長をしているのだが、あいにく教員が一人不足してしまってね。猫の手でも良いから借りたい状態なのだよ」

「はぁ……猫の手、ですか」



 ビールを口に含みながら、俺は半信半疑に答えた。

 たしかに大学時代に教員資格は取っており、しっかりとした手順を踏めば教員免許も問題ないだろう。しかしながら、自分のような半端者に声をかける相手を信じ切ることができず、どうにも踏ん切りがつかない。

 そうしていると、理事長の女性はくすりと笑って言った。


「なに、すぐに信用してもらおうとは思っていない。だから私としても最大限、真摯に対応させてもらうつもりだよ。……天ヶ瀬礼音くん?」

「え、どうして俺の名前……?」

「ふふふ。この出会いは偶然ではない、それだけの話さ」

「………………」


 虚を突かれてこちらは思わず黙り込む。

 居酒屋で偶然に隣になった人、だったはずなのに。相手のその言葉は、俺の中の何故をさらに大きくした。そして自然、こちらの興味を強く引き付ける。

 俺が何も言い返せずにいると、理事長は一枚の名刺を置いて席を立った。



「決心ができたら、ここに連絡してくれ。……待っているよ」



 そう言い残すと、彼女は颯爽と立ち去ってしまう。

 俺はその後ろ姿を見送って、呆然とするしかできなかった。





 ――教師というのは、子供たちに未来を示す職業だ。

 少なくとも俺は、そのように教わっている。かつての自分がそうだったように、子供たちは己の身近な大人の背中を見て育っていく。親、兄弟然り、教師という存在もその中の一人に含まれているはずだ。



「えー……それでは、朝のホームルームを終わります」



 そのことに責任を持てないのなら、辞めておくべきだろう。

 しかし俺は、いまここに立つ決断をした。その理由は複合的で、一言では片付けられない。ただ一つたしかなのは、もとより教師という存在に憧れや敬意を抱いており、自分もかくありたいと願っていることだった。


 もっとも、まだまだ自分は未熟。

 日々を一生懸命に過ごして、子供たちの信頼を得られるように努めなければならない。そう考えつつ、職員室へ戻ろうとした時だった。



「あ、あの……天ヶ瀬先生!」

「ん……?」



 一人の生徒が、どこか緊張した面持ちでこちらにやってきたのは。

 赤い髪に赤の瞳をした童顔に、高校生というより中学生といった小柄な体格をした彼女は、逡巡したのちにこのように言う。



「え……っと、もしかしたら、ですけど――」



 少しだけ、息を呑んでから。



「レオンお兄ちゃん、ですか……?」――と。



 微かに、円らな瞳を潤ませて。

 俺はその呼び方と表情を確かめて、思い出した。


「もしかして、マナ……なのか?」



 その名前は、懐かしい。

 幼い日々を想起させる響きだった。


 


面白かった

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