第30話 決勝前
「おはよ」
「おはよ」
「おはよ、ママ!」
私はのぞみとの電話で二人を起こしてしまったらしい。
私はルドルフに聞かなければならないことがあった。
「ルドルフ、今回むこうに連れてっちゃった4人は、ちゃんともとに戻っているのよね」
「うん、だいじょうぶ。あとね、夢の夜空でヤニックさんのことも思い出したから、ヤニックさんもこっち来てると思う」
「そう、それはよかった、いや、よくない」
「え、よくないの?」
ルドルフはいきなり目に涙をためた。どう説明するかと考えていると修二くんが話してくれた。
「ルドルフは玲子ちゃんのことを心配したんだろう。それはえらいな」
「うん」
「問題はヤニックさんは、こちらで生活する手段がないということだ」
「どういうこと?」
「ルドルフはこっちに来たとき、戸籍がなかったろう」
「そうか」
「そうだし、この世界のことをヤニックさんは何にも知らない。困っているかもしれない」
涙を流すルドルフがちょっとかわいそうで、私は口を挟んだ。
「ヤニックさんも大人だから、いきなり死んじゃうということはないでしょう。第一、こちらに確実に来ているというわけでもないでしょう」
「うん」
修二くんも強く言い過ぎたと思ったのか、優しく聞いた。
「ルドルフは前、杏を追いかけて東海村へ来たよね」
「うん、この世界、魔力を持っている人居ないから、どこにいるかすぐわかる」
「ヤニックさんはどうかな」
ルドルフは目をつむって真剣なかおになった。
「う~ん、わかんない」
「そっか、じゃ、心配しても無駄だな」
「そうかもね」
「とにかく玲子ちゃん関連は、緒方さんにまかせよう。札幌には明もカサドンもいるからさ」
「そだね」
「ルドルフ」
「うん」
「パパとママは、これからみんなと連絡をとるよ。だからテント内の片付け、できるかな」
「うん!」
ルドルフは寝袋から出て、寝袋を丸めて袋に入れ始めた。
私と修二くんは手分けして各所にスマホで連絡をいれることにした。私の担当は榊原先生・カサドン・真美ちゃん・優花、修二くんは新発田先生・健太くんだ。優花と健太くんもむこうから帰ってきているはずである。
まず榊原先生に連絡する。日曜の早朝だからまずメッセージで電話していいか送る。すると榊原先生はすぐに電話してきた。
「おはよう聖女様、あっち行ってきたんだってね」
「お二人から聞いたんですね」
「うん、いいな、次行くときは僕も連れてってよ」
「正気ですか」
「正気も正気、科学がいろいろおくれている世界なんだろう、君たちだけが活躍してるとか、ちょっとくやしいじゃないか」
「はあ、そうですか」
「だからこっちは心配いらない、今日こっち来る?」
「いえ、実は今、サーキットに居るんです」
「あ、ああ、そうだったね。楽しんでおいでよ」
「ありがとうございます」
修二くんによると、新発田先生も似たようなものだったらしい。その他のメンバーも大きな問題はなかった。さすがは2回目である。
朝食はフレンチトーストを作った。割らないように慎重に持ち込んだ卵、それにLLの牛乳が役に立った。フランスパンを漬け込んでいる間に、テントやタープなどを片付けていく。ルドルフが息を荒くしながらパパのお手伝いをしている。ドラゴンの姿のルドルフは勇ましくかっこいいが、子どもの姿のルドルフは限りなく愛おしい。
今私達がヤニックさんにできることはなにもない。ルドルフもそれがわかっているのか、サーキットの朝をフルに楽しむことにしたようだ。
朝食が済むと一気にすべてを片付ける。私が洗い物をしている間に修二くんとルドルフはレンタルしていたテント・タープ・寝袋を返却する。そして車に荷物をどんどんのせて、キャンプの撤収は滞りなく終えることができた。9時前にはサポートレースの決勝があるので急いで場内巡回バスのバス停に並ぶ。
のぞみからメッセージが来た。玲子ちゃんはふつうに実験しているという。今日は日曜だから、試料づくりが遅れているのだろう。
サポートレースとは前座のレースのことである。F-4というFー1そっくりなレーシングカーが走る。この中から将来のF-1ドライバーが産まれるのだろうか。車同士のクラッシュもある激しいレースだった。
その決勝が終わったところでホームストレート下のトンネルをくぐってパドックへ行く。間近でレースマシンが見れるのでルドルフが興奮している。そして通常の場内放送でない、レース関係者向けの放送も聞こえる。
『ゼッケン32のチーム関係者の方、コントロールタワー3階までお越しください』
「ママ、この放送何?」
「これね、オフィシャルからの呼び出しだね。多分何かの違反があって、ペナルティ受けると思う」
「ふ~ん」
車好きの父からの知識の受け売りである。
「ルドルフ、早めにお昼食べといたほうがよくないか?」
修二くんが言う。
「そうだね、ピットウォーク、お昼だもんね」
「じゃ、あそこ、行くか」
修二くんはパドックに設けられたレストランを指した。
レストラン内は派手なデザインのレーシングチームのウェアを着込んだ人でいっぱいだった。




