女子会準備
翌日夕方、玲子ちゃんは池田研にやってきた。
「なんか荷物大きいね」
と声を掛けると、
「お泊りですし、父からお酒持たされました」
と返事された。「お酒」の単語で近くにいた男子たちが反応したので私は、
「あんたたちのじゃないの、シッシッ」
と追っ払った。リュックが大きく膨らんでいるので、
「重くない?」
と聞いてみたんだけど、
「大丈夫です」
と笑顔を見せてくれた。
玲子ちゃんと二人、家まで歩く。美人の玲子ちゃんの上に雪がのっかたりして美しい。
うらやましい。
「玲子ちゃん、一回荷物うちに置いて、買い出し手伝ってくれない?」
「わかりました。スーパー近いんですか」
「そうだなぁ、近いけど車出すかなぁ」
「あ、聖女様の車、乗りたいです」
「わかた」
駐車場で車のエンジンをかけ、玲子ちゃんには車の番をしといてもらう。その間に私は玲子ちゃんからリュックを受け取って、部屋にもっていく。そして玲子ちゃんのリュックは異常に重い。酒瓶だろう。
駐車場にもどると、玲子ちゃんは車に積もった雪を下ろしていてくれた。
「ああ、ありがと。気が利くね」
「いえ、小樽育ちですから」
小樽は札幌より圧倒的に雪が多い。そこで鍛えられているのだろう。
車が走り出したところで、聞かれた。
「恩田さんと緒方さんも来るんですよね」
「うん、だけどあの二人は実験系だから、どうしても遅くなるんだよね。だから女子会のときはたいてい、私が先に帰って買い出し。適当に買っておいてもね、のぞみが料理上手だから、美味しいの作ってくれるの」
「そうなんですか、それは将来の旦那さん、うらやましいですね」
「うん、明くん、太ってきた気がする」
「え、明くんって、岩田さんですか」
「あれ、知らなかった? あいつら同棲中」
「じゃあ今日来てもらうの、まずかったですかねぇ?」
「いいんじゃない一日くらい。明くん理解有るし、だいたい私に比べたら一晩くらい、文句言わせないよ」
「そうでしたぁ~」
入籍直後から修二くんと別居している私のことを考えたら、のぞみが文句を言うはずがない。
「ま、二人共さ、話ししたけりゃ女子会の最中でも連絡してくるよ」
いつものスーパーで食材を買い込む。
「玲子ちゃん、好きなの買ってよ」
私は思いつくままにバンバンかごに放り込んでいく。
「あ、だけどね、朝食はフランスパンだから」
「そうなんですか?」
「うん、なんかね、毎回フレンチトーストになっちゃってる」
「玲子ちゃん、料理は?」
「やっぱ実家ぐらしはだめですね、最低限しかできないです」
「そっか、じゃ、のぞみに教わるといいよ。私ものぞみに教わってんだ」
「へー」
スーパーを一周すると、いつものようにかごは一杯になった。正確には一人増えているから、いつもより33%増しだ。
「すごい量ですね」
「そう?」
「これ、残らないんですか?」
「うん、残んないね」
「よく太らないですね」
「脳がエネルギー使うからじゃない」
「聖女様がそう言うと、そんな気がしてきますね」
「ハハハ」
家に玲子ちゃんを案内する。
「私買ってきたもの整理するから、玲子ちゃん適当に内覧しててよ」
「内覧ですか」
「うん、見られて困るものは多分ない。クローゼットも開けていいよ」
「では遠慮なく」
買ってきた荷物をテーブル上に出したり冷蔵庫にしまったりしていると、のぞみと真美ちゃんが到着した。二人共お酒を携えている。
「お待たせ、私、料理手伝うわ。玲子ちゃんは?」
「うん、内覧中」
「じゃあワシが案内して進ぜよう」
というわけでのぞみは私と料理、真美ちゃんは玲子ちゃんの内覧につきあうことになった。
私はいつものように野菜炒め、のぞみはパスタを茹でる。和風・洋風めちゃくちゃだがそれも仕方がない。なぜならお酒も私はワイン、のぞみはビール、真美ちゃんは日本酒だ。玲子ちゃんはチューハイが好きだとさっき言っていた。玲子ちゃんの異様に重いリュックの重さの一部は缶チューハイなのだろう。さらにサラダとかチーズとサラミとか盛り付ける。こういうのは冷めるとかないので今のうちに作ってラップをかけておく。のぞみは冷蔵庫内の在庫状況も確認していた。のぞみは文字通りありあわせの材料で美味しいものを作ってくれるので、毎回何を食べさせてくれるか楽しみだ。
二人で準備していると、真っ赤な顔をした玲子ちゃんが帰ってきた。
「真美ちゃん、セクハラはいかんよ」
と注意したら、真美ちゃんは、
「私はなにもしとらん」
と言う。嘘つけと思っていたら玲子ちゃんに、
「聖女様、本当に結婚してたんですね」
と言われた。私はちょっと考えて、何を見られたか理解し赤面した。
そして今夜も、記憶をなくすまで飲んでしまうんだなと覚悟した。




