女子会決定
学食で話しかけてきた玲子ちゃんは学部の3年生、まあ学科のアイドルである。
「あ、玲子ちゃん、かわいいのう!」
こんな反応をして許されるのは、札幌の物理では真美ちゃんくらいのものだ。
「あ、恩田さん、小原玲子といいます」
「うん、知ってる! で、どしたの?」
「あの、私、家、小樽なんです」
「いいとこだね」
「ですが4月から研究室に入ると、ちょっと遠いので、札幌に出てこようと思うんです。やっと親の許可が取れました」
「うんうん」
「で、さっき恩田さんと聖女様の会話が聞こえまして……」
「まあ座んなよ」
真美ちゃんが食事のトレーを持つ玲子ちゃんを促した。
「失礼しまーす」
気楽に話してほしいので、私も真美ちゃんも食べながら話を聞いた。
「今4月からの部屋を探してるんですけど、先輩たちの意見を聞きたくて」
「なるほどねぇ~、じゃ、のぞみも呼ぶか?」
私がスマホでのぞみを呼ぶと、ちょうど食堂に入ってきたところだった。手を振っている。手を振り返すと、とりあえずのぞみは昼食を取りに行った。
「小樽っていいとこだよね」
私が玲子ちゃんにもう一度言うと、玲子ちゃんは、
「う~ん、みんなそう言いますけど、住んでるとよくわかんないですね」
「それもそうか」
「現実問題として、通学に時間がかかって、バイトもままならないんですよ」
「だよね~」
「で、研究室に入ると、ちょっときついと思うんです。時間遅くなりそうだから」
「でも私達、7時前には大学出てるよ」
「そうなんですか」
「そうそう、夜遅くまで勉強してたら、池田先生に怒られた」
「なんか言ったか?」
「へ?」
気がついたら私の真後ろの席が池田先生だった。
悪口言わなくてよかったと思っていると、池田先生がむりやり振り返って玲子ちゃんに話しかけた。
「小原さんだったよね。どこの研究室か決めた?」
「いえ、まだです」
「ぜひうちおいでよ。聖女様いなくなっちゃうからさ、ちょうどいいよ」
私は割り込んだ。
「先生、どういう意味ですか?」
「あ、いや、男女の機会均等をめざす池田研としては、女性研究者がいなくなるのいやだなぁってね」
「先生、どうせ研究室のHPに玲子ちゃんの写真載っけて、来年の学生確保しようとしてるんじゃないですか?」
「い、いや、そんなことないよ」
「玲子ちゃん、肖像権ってあるよね」
のぞみがやってきて言った。
「ねえ聖女様、玲子ちゃんの話って、肖像権?」
「あ、ごめん、で、玲子ちゃん、札幌で部屋探してるのよね」
私が説明したり玲子ちゃん自身が話していると、のぞみは意外なことを言った。
「聖女様さ、不動産屋さんに退去の話しした?」
「ああ、そろそろしないとまずいね」
「じゃあさ、玲子ちゃん聖女様のとこの後釜に入ってもらえば?」
「え、なんで?」
「聖女様、引っ越し荷物多くて困ってるんでしょ」
「うん、あれだけあると処分にもお金かかる」
「だからさ、玲子ちゃんに使ってもらえば処分しなくていいし、玲子ちゃんもお金かかんなくていいじゃない?」
なるほどそんな考えがあるかと感心した。すると玲子ちゃんは、
「そ、それ、助かります!」
「じゃ、うち見に来る?」
「は、はい、行きます!」
すると真美ちゃんが叫んだ!
「よし、女子会じゃ!」
「真美ちゃん、いきなりはまずいよ、玲子ちゃんにも予定ってものが」
「別に今夜とは言っとっらんじゃろう」
「そうか」
「あ、あの」
「な~に、玲子ちゃん」
「恩田さんの口調、おかしくないですか」
それに答えたのはのぞみだった。
「あ~、真美ちゃんはときどきエロオヤジになる。私が最大の被害者」
「そうなんですか?」
「私は真美ちゃんの妾、ってことになってる」
「は、はあ」
玲子ちゃんはひいてた。
その夜、突発的に始まった女子会をしていたら、私のスマホに着信があった。
玲子ちゃんだった。ビデオ通話である。
「玲子ちゃんな~に~?」
「なんかテンション高いですね、飲んでるんですか?」
「うん、さっき飲み始めたところ、で、何」
「あ、あの、お部屋見せていただく話なんですけど、また今度のほうが良いですかね?」
「玲子ちゃんいつがいいの?」
「早いほうがいいかと思ったんですけど、今夜飲んでるんだったたら、少しあいだあけたほうがいいですよね」
真美ちゃんが勝手に首を突っ込んできた。
「早いほうがいいなら、明日でもいいよ! ね、聖女様」
「私はいいけど、お家の方は大丈夫?」
すると画面に中年のおじさんが映った。
「聖女様ですか、玲子の父です。娘が無理なお願いをしたみたいで」
「いえいえ、こちらから提案したんです」
「そうですか、ご迷惑かと思いますが、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
2日連続の女子会が決まった瞬間だった。
電話を切った後気づいたのだが、玲子ちゃんのお父さんは私のことを聖女様と呼んでいた。後輩の保護者にまで私のあだ名が広まっている事実に気づかされてしまった。




