8、ポテチと炭酸
「ポテチ、また買っとかなきゃな。羽山も食べたいお菓子とかあったら、買っといてな」
「はい。私もクーラーボックスとか持ってきた方が良いんですか?」
「個人の自由。俺の場合、スーパーで買って、それを持っていってるから、保冷剤共々必要なだけだし」
「そうでしたか。じゃあ、私も持っていきます」
「うん。良い心掛けだ。ただ、竹ノ内先生も使うから、気をつけろ。あの人も自分で用意してくれたら、良いけど」
ため息をつきながら、加木先輩は次々に竹ノ内先生の愚痴を言っていく。
「まったく。あの人のどこが良いんだろうな。KiRaの晶楽はさ」
「え? 何で今ここで、晶楽さんの名前が出てくるんですか?」
「付き合ってるらしい。ほら、去年の夏にさ、晶楽が交通事故に遭ったじゃん。その後からだってさ」
「竹ノ内先生が言ってたんですか!?」
初耳! 晶楽さんに彼女が出来ていたなんて、驚きと祝福の気持ちが湧き出てくる!
「でも、晶楽さんはですけど、KiRaの二人は東京で暮らしてますよね?」
「時々、新潟に帰って来てるらしい。竹ノ内先生もだけど、KiRaが帰ってくると、高校の同級生が集まって飲み会をするんだ」
「加木先輩、詳しいですね」
「俺の姉貴も同級生なんだよ。しかも、彼氏は羽山も知ってる、小牧先生だし」
おおお! これもまた初耳! 小牧先生っていつも面倒臭がりで、ダルそうにしているから、恋愛に興味無いと思っていたのに。
「先輩はKiRa の二人に会ったことありますか?」
「ある。こっち帰ってくる頻度で会ってる」
「格好良いですか!?」
「えっ? えっと、えっ?」
「どうですか!?」
「良いんじゃないか? 当たり前だけど、歌も上手いし。面白いし」
加木先輩、羨ましい! 画面の向こうの人たちと会えているなんて!
「羨ましいです!」
「そうか? 会おうと思えば会えるぞ。てか、会おうと思わなくても会えるし」
「加木先輩は、持ってる人なんですね」
「俺が? ないない。まったくと言っていい程、何も持ってない」
「KiRa の二人に高頻度で会えるなんて、強運の持ち主ですよ」
「そうか? あ、自販機寄っていい? メロンソーダ飲みたい気分。羽山も何か飲む?」
数メートル先にある、ちょっとした小屋の屋根の下に、自販機が一台。
そこは確か、ペットボトルに入ったメロンソーダが買える。
「私は……。レモネードってありましたっけ?」
「レモネード? あったかな。普段気にしないから、知らないけど」
そんな話をしていれば、数メートルなんてあっという間。
「あるな。レモネード」
「ありましたね。レモネード」
加木先輩はポケットからコインケースを取り出して、硬貨を数枚投入。
「ほい。レモネード」
「えっ、ありがとうございます」
「ん。えーと、メロンソーダはぁ。よっしゃ、まだあるな」
ガコン。
「ふぅ。やっぱ炭酸は良いよな」
「炭酸お好きなんですか?」
「好き。この世で一番好きな飲み物。メロンソーダは殿堂入り」
「加木先輩の好きな物、知れてよかったです」
「俺の事知ったって、何も無いからな? そういう羽山は、KiRa の熱烈なファンってことか」