5、昼休みの中庭で
「羽山ちゃーん! 加木のヤツ、大丈夫だった!? 手、出されてない!?」
「大丈夫でした。加木先輩も、顧問の竹ノ内先生も、良い人でした」
今日はお弁当を持って、中庭で昼食。昨日知り合った、向井さんが入部するバレー部の、三年生の柊木先輩が、私たちを見つけるや否や、駆け寄って来てくれた。
「昨日は大変だったんだよ? うちら、羽山さんの心配で、部活に集中できなかったんよ」
「向井さんまで、心配してくれたんだね。ありがとう。柊木先輩も、ありがとうございます」
「いえいえ~。もし、加木に何かされそうになったら、噛みついてあげなね!」
「それは、ダメですよ!」
冗談を言い合って過ごす、昼休み。
こういう時間も、加木先輩は部室に籠っているのだろう。
「加木先輩って、どんな人なんですか?」
「うーん。一年の時に、クラス一緒だっただけだから、詳しくは言えないけど、それでも良い?」
「はい」
「とにかく面倒くさがり。誰かと群れてる所は、見たことないかな。あとは、頻繁に購買で、お菓子とジュースを買ってた。よく分からないけど、人に興味を抱くことはなかったと思う」
なんて話していると、購買の方から、加木先輩がこちらへ向かって、歩いてきた。
まさか、この会話聞かれてたとかある?
「加木じゃん」
「加木先輩ですね」
「へー、あの人が」
何も言わずに、私たちの方をチラッと見ただけで、先輩は中庭を通り抜けて行った。
会話を、聞かれていたわけではなさそう。
「あ、そっか。こっちから行った方が、部室に近い」
「そうなんですか。加木先輩、本当に部室に」
「変なヤツってことも、追加する」
「あの。加木先輩が言ってたんですけど、授業はちゃんと受けてるって」
「うーん。一年の時は辛うじて、受けてた。二年からは、どうだろうね。クラスのヤツらとは上手くやれてない印象だからさ」
「何かあったんですか?」
柊木先輩は、不思議そうな表情を私に向けてきた。
どうしたんだろうと、柊木先輩を見ると、ニヤリと口角が上がっている。
「何々? 羽山ちゃんは、加木のこと気になる?」
柊木先輩の口から放たれた言葉。そんなつもりじゃない。
ただ、これから一緒に活動していく中で、先輩と後輩の関係は良好でなくては。
「そんなつもりは、ありません。ただ、先輩と後輩として、これから活動していくので、先輩のことを知れたらと」
「良い子だ。千明。羽山ちゃんが、良い子過ぎる」
「眩しいくらいに、良い子ですよね」
「えっ? え~と?」
「悪い虫が付きそうなときは、いつでも頼ってね! 羽山ちゃん!」
ありがとうございますと、頭を下げて、その場は収まった。