4、お菓子とユーモアと顧問の先生
「部室はいつでも自由に使って。冷蔵庫は無いけど、クーラーボックスはあるから。保冷剤を持ってくれば、夏でも大丈夫」
「はい」
「活動日は、平日五日間ってことにしてる。ぐーたらしながら活動して、文化祭用に冊子を作って、無料配布ね」
「販売はされないんですか?」
「先輩がいた時はしてたけど、買う人いなくてさ。物好きさんくらいだよ」
うーん。そういうのは、どうなんだろう。ちょっとした小説を書いて、読んでくれる人がいるなら、販売をしても良いと思うけど。
「好きな時に書いて、好きな時に休んで良いから」
「はぁ。はい」
「オレ、執筆はアナログ派で、原稿用紙に手書きだけど、羽山はどうする? パソコン必要なら、PC室に行くしかない」
「先輩、手書きなんですか!?」
「うん。書き終わったら、家にあるオレのパソコン使って、打ち込む感じ。印刷もする」
そういえば。この室内には、パソコンどころか、Wi-Fi環境すらない!
「まぁ、PC室使う時は、顧問の竹ノ内先生に……。そういや、今日は来ねぇな。いっつもお菓子食いに来るのに」
「顧問の先生、いらっしゃるんですね」
「いやいや、いるでしょ。普通。しかもオレの三年間、竹ノ内先生が担任なんだよ。あ、現代文担当ね」
「なんだか、その竹ノ内先生に、会ってみたいです」
「やめとけ。あの人、すぐ調子乗るから」
するといきなり引き戸が開き、スーツ姿の女性の先生が、入って来るなり、オーバーリアクションな寸劇を始めてしまった。
「おぉ! 文芸同好会にようこそ、新入生! この同好会が部だった頃に在籍した、OGの竹ノ内涼香です!」
「そして、現代文担当でーす」
「気持ちを込めろ! 翼!」
「いやいや、羽山が怯えてるって。か弱い女の子をビビらせて、何を楽しんでるんすか」
「おっと、これは失礼。ポテチもーらいっ! 入部届は、もう書いた? 今のうちにもらうけど」
「あ、えっと。はい」
スクールバッグから、クリアファイルを取り出し、その中から入部届を渡す。
「フムフム。羽山あおばさんね。二組か……。体育祭、一緒じゃん!」
「それ、オレも言いました」
「気が合うじゃないか! 翼!」
「オレ的には、合いたくないです」
「照れちゃってぇ」
「照れてません。先生の勘違いですよ」
「あっそ。このポテチ、コンソメ二倍か。うん。美味しい」
この会話には、参加しない方が良さそう。でも、顧問の先生が、面白そうな先生で良かった。
私の隣でポテチを食べてるけど。
「こんなぐーたら同好会に、よく入ろうと思ったね。羽山あおばさん」
「小説を書いてみたくて。読むのが好きなので、自分でも書けたらなって。それだけです」
「そっかそっかそっか。翼と違って良い子だ! あ、翼と二人きりになるから、もし手ぇ出されたら、急いで逃げてね! 国語科準備室か教務室にいるからね!」
「は、はいっ?」
加木先輩と二人きり? あ、そうか。部室で執筆するから、普段は二人きりなんだ。
「竹ノ内先生は、常に居てくれないんですか!?」
「顧問だけど、教師だからね。会議とか色々あるんだよ」
「その前に、オレが手ぇ出す前提なの、やめません?」
「ジュースは何がある~? お、サイダーあるじゃん!」
「聞いてますか!? 竹ノ内先生!」
なんだろう。絶対、楽しい同好会になりそう。