2、いざ、部室へ!
「え~と、伝え忘れたことは……。無いな。あ、部活の入部届け、明日までに書いとけよ~。はい、終わり」
担任の小牧先生、ユルすぎる。自己紹介の時に、面倒くさがりだって言ってたし、そうなんだろうけど。
「じゃあね、羽山さん。何かあったら、体育館にいるからね」
「うん。多分大丈夫。ありがとう、向井さん」
三階の奥廊下だから、二年生の教室がある階に降りて。
一通り校内案内してもらえたから、ある意味助かる。
それにしても、二年生の教室がある階に降りるってことは、先輩たちに見られるってことだよね!?
仕方ない。これは背に腹はかえられぬ! 文芸同好会の部室を目指して!
階段を降りて、三階へ。ホームルームが終わっていないのか、廊下に出ている先輩たちは、少ない。
多目的ルームの隣……。ここかな。
西日が射し込んでいるのか、磨りガラスから、オレンジ色が見える。
中に人がいる気配が、全くしない!? え~と、どういうこと!?
「失礼しまーす……」
ドアを開けてみると、壁には本棚が並び、中央には折り畳み式のテーブルが二つ置かれ、椅子が五脚並べて、置かれている。
そして、並んだ椅子に横たわり、男子生徒と思われる、誰かが睡眠中。
「あの、すみません」
ここから先に入るのは、かなり勇気が必要。
出直そうかな。引き戸をゆっくり閉め、踵を返した時。
「誰?」
閉めたドアが開き、中にいた人がこちらへ。
肩くらいまである茶髪はボサボサで、制服は着崩れ、寝起きだからか、声が少しかすれている。目だってほぼ開いていない。
「えっと、ここって、文芸同好会の部室……。ですか?」
「そうだけど」
「入部したくて。でも、今日は、出直します。すみません、寝ていたところを、起こしてしまって。失礼します」
再び踵を返すと、いきなり左手首を掴まれてしまった。
これは、逃げられない。
「入部希望? だっけ? まぁ、ゆっくりしてって。お菓子あるし、ジュースある」
「ええっと?」
「説明しなきゃでしょ。めんどいけど、同好会の長だし」
「手、離して。くだ、さい」
「え、あ。ごめん」
忘れられていたのか、左手首はずっと掴まれたまま。
ようやく解放されたのは良いけど、強く掴まれていたから、ちょっと痛い。
「とりあえず、中入って」
「でも、えっと」
「入部希望なんでしょ?」
「はいぃ」
「うん。こんな嫌われ者の同好会に入部したい、物好きさん。ようこそ、文芸同好会へ。俺は三年の加木。加木翼。部員は俺だけだから、強制的に部長やってます」