13、嵐のあとは静かに……?
帰りのホームルームが終わり、購買でお菓子などを買い、部室へと向かう。
引き戸を開けると、既に椅子を並べて横になっている加木先輩がいた。
机の上にはペットボトルの麦茶と、食べかけのコーンスナック。
「お疲れさまです。先輩、これ食べます?」
「え、何?」
「購買で、POPに人気商品なんて書いてあったので、買ってみました」
椅子の背もたれの隙間から、私が差し出したモノを覗く先輩。
「マジかよ!? チキン南蛮サンドじゃん! これ、かなり人気で、昼休みには売ってないし、放課後のわずかな時間のみ、不定期で売っている、幻と言っても過言ではない、チキン南蛮サンド! おわっ!」
勢い良く起きたせいか、先輩は椅子から落ちてしまった。
「いってぇ。にしても、スゲーな羽山」
「あと二つだったので、先輩にもと思いまして」
「ありがとう。この代金払うわ。確か……。五百円だよな」
「え、そんな。いいですよ、いつもお菓子とか飲み物頂いてますし」
「いやいや、俺の命が懸かってる。マジで払う」
「あ……。そうですね。何というか、先生たちの……。ありがとうございます」
チキン南蛮サンドを一つ、先輩に渡して、私は先輩の向かいに座る。
「うっま。これ食べたの、いつ振りだ? えっと、いつだ? 二年になった辺りで食ったな。うん。久しぶり」
「先輩は放課後は、購買に行かないんですか?」
「大体昼休みに買い揃えてる。放課後なんて、帰宅部と練習前の運動部の連中で、激混みなんだよ」
「そうでしたか。確かに、昼休みより混んでました」
「ったく、近くにコンビニあるのにな。帰宅部の奴等は、とにかく許さない」
「アハハ。私も先に食べようかな」
「うん、その方が良い。執筆に夢中になってると、時間忘れるから」
先輩のお言葉に従って、私も幻だというチキン南蛮サンドを一口。
「ん~! 美味しいですね。幻の意味、分かりました」
「だろ? このタルタルソースが決め手でさ、まろやかな酸味が、チキンカツを包み込むんだよ」
「食レポ、お上手ですね」
「まぁな。俺だからな。日々、表現力と語彙力の向上を目指してる」
「そうでしたか。いつも寝てるだけだと、思ってました」
「端から見たら、そう見えるだろうな」
チキン南蛮サンドを食べ終え、私は執筆。加木先輩は再び眠りについた。
書き出しが決まらない。また話を変えようか。ライトノベルのような作品にしようか。なんて考えていると。
「よっすぅ~! 活動してる?」
小牧先生の声とともに、部室の扉が開け放たれた。
「って、翼。また寝てんのか。いい加減、部活しろよ」
小牧先生の言葉は、先輩には届いていない。
寝息を立てて、スヤスヤと寝ている。
「マジかよ。羽山、悪いな。こんな責任放棄の先輩しかいなくて」
「いえ。大丈夫です。加木先輩、良い人ですよ」
「コイツが? 羽山、悪い奴には気をつけるんだぞ。良い人だと思わせて、ガブッ! だからな」
「はい……?」
小牧先生は、まだ見回りが終わってないからと、部室から出ていった。