1、良くないウワサ
学生生活の楽しさを左右するもの。それは、部活だと思う。
この高校には多くの運動部、文化部、同好会があって、そろそろ決めないといけない。
「羽山さんは、部活決めた?」
「入学前から決めてたんだけど、どこで活動しているのか、分からなくて……」
昼休み、購買で買ったサンドウィッチを、中庭で食べながら、高校でできた友達の、向井千明さんと部活の話で盛り上がる。
「何部? 運動部なら、グラウンドとか体育館に行けば、必ずいるし……。文化部は張り紙してるしね」
「向井さんは、文芸同好会がどこで活動しているのか、知ってる?」
「文芸同好会? え、あ、部員が足りなくて、同好会に都落ちした、あの?」
「うん。小説書いてみたくて」
「あそこは、やめた方が良いって。バレー部の先輩が言ってた」
「何か問題があるの?」
本好きに悪い人はいない。何か問題を起こした人でもいるのだろうか。
「部員数は一人だし、授業にまともに出てなくて、基本的に部室に籠ってるらしいよ。一人になってからの文化祭では、小説の無料配布してるんだって。販売は面倒とかって話」
「そうなんだ……。中学生の時に、ここの文化祭に来てみたんだけど、ツバタさんの小説と出会ってしまって。会いたかったなぁ」
「ツバタさん?」
「うん。一緒に活動出来たら良いなって」
「そっか。羽山さん、文学少女感あるし。うち、羽山さんの小説読んでみたいかも」
「楽しみにしてて」
とは言ったものの、部室が何処なのか、分からないまま。
無闇に探しても、時間が無くなるだけ。
「千明じゃん! 購買どうよ?」
「沙和先輩! 良いですね、高校生って感じで! 先輩も購買ですか?」
「そうそう。カツサンド食べたくてね。お友達?」
向井さんの先輩が、お財布を持ってやって来た。
「は、はじめまして。羽山あおばです」
「はじめまして。千明の中学からの先輩の、柊木沙和です。バレー部のキャプテンです。三年生です」
「キャプテン。凄いですね」
「アハハ。ありがとう」
「そうだ。沙和先輩。文芸同好会って、何処で活動してるんですか? 羽山さん、入部希望らしくて」
沙和さんの表情が一瞬、強ばった様子。
そんなに文芸同好会の印象は、良くないのかな?
「文芸同好会は、やめた方がいいよ。アイツが部室に籠ってるし」
「本好きに悪い人はいないって、そう思っています」
「何が起きても、自己責任になるよ? それでもいい?」
「はい。文芸同好会に入りたくて、この高校を選んだので」
「そこまで言われたら、これ以上は言えないな。分かった。部室の場所はね。教室棟三階の奥廊下に、多目的ルームがあるの。その隣に空き教室があるんだけど、そこで活動? してるよ」
教室棟三階の奥廊下。多目的ルームの隣の、空き教室。
「ありがとうございます。柊木先輩」
「いえいえ、どうか無事でね」