私を病院へ連れてって
風邪をひいて一人で動けなくなっていた私。そこへ元へ運良くやってきた幼馴染。助けてもらうはずが…。
(現代/ギャグ/ほのぼの/甘々)
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興味を持って下さったありがとうございます。少しでも読んで下さった方の心に残れば嬉しいです。
頭が痛い、喉も痛い。
身体がダルいし、息も苦しい。
つまり風邪だ。
馬鹿は風邪ひかないなんて嘘だな。
現に、馬鹿な私が風邪ひいてるもん。
身体のあちこちが痛くて、寝返りをうつのも辛いが、このまま寝ている訳にもいかない。
仕方なく、隣の部屋にある常備薬を取りに行く為、私は辛い身体に鞭打って布団から這い出た。
だが、薬まで辿り着く事なく、部屋と部屋を繋ぐ廊下でダウン。
無理、このまま気を失いそう。
私はここで死ぬんだ。
誰に看取られる事もなく…、一人寂しくあの世逝き。
そんな事を考えていると、玄関から聞き覚えのある声が聞こえる。
「…おーい!もと子!!いねーのかー」
しんちゃんだ、あの声は幼馴染のしんちゃんだ。
地獄に仏とはまさにこの事。
私はほふく前進をしながら玄関まで行き、必死に声を絞り出した。
「開いてる…入って…」
やっとの事でそれだけ言うと、玄関のドアが開いてしんちゃんが顔を見せた。
「おい、貸してたゲーム返し…って!何だ!?貞子か!?」
中に入り、私の姿を見たしんちゃんは、驚いた様に飛び退く。
…まぁ確かに。
長い髪を振り乱して、青白い顔で、床を這いずり廻る姿はリン○みたいだけど…。
「しん…ちゃん…」
「?…何だ、貞子じゃなくてもと子か」
「風邪…ひーた…」
「風邪?…確かに最近は昼と夜の温度差が激しいからな」
「医者に…連れ…」
「あぁ、無理無理。俺はこれから帰ってゲームすんだよ」
「てめ…弱った友人見捨ててゲームかよ!死んだらどうする!化けて出るぞ!…ッぐ、ゲホゲホ…!」
「アホか、風邪くらいじゃ死なねーよ。んじゃーな」
「待て!…そんなんだからモテねーんだよ!この薄情者…」
必死に訴える私をさらりと無視し、踵を返したしんちゃんの足に手を伸ばすと、私は全身全霊の力でしがみ付く。
「気持ち悪ぃーな!離せ!」
「はーなーすーかぁーッ!!病ぉー院にぃー、連れて行けー!!」
「キモイキモイ!!」
「しー…ん…ちゃあーん…」
「怖すぎだっつの!分かった分かった!!」
私の懇願が届いたのか、しんちゃんは真っ青な顔で頷くと、私を肩に担ぎ上げる。
そのまま、すたすたと布団が敷いてある部屋まで行くと、私は乱暴に布団に放り投げられてしまう。
「取り敢えず、てめえは布団で寝てろ」
布団を首元まで引き上げると、しんちゃんは子供を寝かし付ける様に私のお腹をポンポンと叩く。
「医者…は?」
「アホか、この俺にお前を医者に連れて行くだけの金があるわきゃねぇだろ」
そう言うと、しんちゃんはキョロキョロと辺りを見回した。
「市販の風邪薬くらいあんだろ?どこだよ」
「…隣の部屋に」
少しガッカリしながら薬の置き場所を伝えると、しんちゃんは面倒くさそうに部屋を出て行く。
でも意外と分かりにくい場所にあるせいか、薬を取りに行ったしんちゃんはなかなか戻って来なくて。
一人残された私は、天井の一点を見つめながら、いつしか眠りに落ちていた。
どれくらい眠っていたのか、夢から覚めた私がぼんやりと目を開けると、布団の隣にしんちゃんが眠っている。
しかも寝薬というのは意外に効くもので、身体は少し楽になっていた。
「…しんちゃん?」
もぞもぞと布団から起き上がりながら名前を呼ぶが、寝入っているのかしんちゃんは目を覚まさない。
枕元には、探してきてくれた薬と水の入ったコップが置いてあり、何となく手に取ってみると…。
「…何で便秘薬」
風邪薬を探してたんじゃなかったのか。
溜め息混じりにしんちゃんを見ると、何だか様子がおかしい。
「…しんちゃん?」
妙に息苦しそうだし、顔も赤い。
…まさか、私の風邪がしんちゃんをも蝕んだ!?
「しんちゃん…!!」
慌てて抱き起こすと、身体中が熱い。
やっぱり私の風邪がうつったんだ。
急いで私が寝ていた布団に寝かせると、風邪薬を取りに隣の部屋に走る。
しんちゃんとは違い、すぐに風邪薬を見付けて戻ると、私はしんちゃんの上半身を抱き起こす。
「しんちゃん…風邪薬だよ、便秘薬じゃないよ。飲んで」
そう話し掛けるけど、しんちゃんは苦しそうにしてるだけで目を開けない。
こんな時はどうしたら良いんだろ?
薬も飲まず、正体不明に眠り込むしんちゃんを前に、私は為す術がない。
「薬くらいは飲ませないと…」
困りながらしんちゃんを見ていた私は、仕方なく用意した薬を口に含むと、しんちゃんに口付けた。
舌で薬をしんちゃんの口の中に押し込むと、今度は水を口に含んで、また口付ける。
しんちゃんの鼻を摘まんで、咳き込まない様にゆっくりと水を飲ませると、私は手の甲で口を拭う。
「…薬は飲ませた、後は…」
小さい頃に風邪をひいた時、どんな看病をして貰ったっけ?
…あぁ、そうだ!
熱が下がる様にオデコに濡らした手拭いを置いてたかも。
そう思い出した私は、なるべく綺麗な手拭いを濡らし、固く絞ってしん、ちゃんのオデコに乗せる。
「しんちゃん…ごめん。早く良くなってよ」
特にやる事もないけど、しんちゃんの寝顔を見ていた私は次第に眠くなってしまい、布団の傍に座り込む。
すると、私もまだ完治はしてなかったみたいで、いつの間にか眠りに落ちていた。
後から聞いた話によると、いつまでも帰ってこない事を心配した、しんちゃんのお母さんが私の家に来たらしい。
そこで、今にも死にそうな顔で眠る私としんちゃんを見つけて、無理心中かと焦ったって言ってた。
元気になったしんちゃんからは、どうやって寝てる俺に薬を飲ませたんだって聞かれたけど…。
それはもちろん内緒。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
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