秘密のkiss
実は密かに憧れているクラスメートの金原。
ガラが悪く、明らかな不良だが女子には人気が高く、おまけに実は成績の良い金原に、放課後に教室で二人きりで勉強を見てもらえる事になる。
憧れの人と2人きりの放課後の勉強会、緊張するなという方が無理というもの…?
(日常/青春/ほのぼの/甘)
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興味を持って下さってありがとうございます。少しでも読んで下さった方の心に残れば嬉しいです。
季節に似合わない暖かな陽気は人間の精神にまで影響する物なのか。
それとも、昼食が終わったばかりのせいなのか。
未だ授業中だと言うのに、授業の内容が全く頭に入って来ない。
黒板の前で話をしている教師の声が、子守唄に聞こえて仕方がなかった。
込み上げる欠伸を抑える事が出来ずに、船橋は教科書を立てて顔を隠す。
(ヤバイなぁ…、寝ちゃいそう…)
時計を見ると、まだ授業が始まってから大して経っていない。
窓際の一番後ろの席は、居眠りに丁度良く、船橋は再び込み上げる欠伸をこらえながら、こっそりと窓の外を盗み見た。
他のクラスが体育でもやっているのだろうか。
校庭からは生徒達の賑やかな声が聞こえて来る。
ここからは校庭の様子までは見れないが、聞こえて来る声援からサッカーをやっているのだろうと推測出来た。
(午後一の授業が退屈な古典なのも嫌だけど、満腹の状態で体育をするのも嫌だな…)
胃の中には、消化していないパンやらお菓子やらが溜まっている。
今、激しい運動なんかしたら間違いなく逆流してくるだろう。
「…ふぁー」
早く終わらないかと、あくびをすると、頭に何かが当たる。
(…?)
頭に当たった何かは、船橋の頭でバウンドすると、机の上に転がった。
(消しゴム…?)
拾い上げると、消しゴムには折り畳まれた紙切れが結ばれており、誰が投げ付けて来たのか分かった船橋は思わず微笑んだ。
結ばれた紙切れはノートの切れ端で、書き殴ったらしい乱暴な文字がシャープペンシルで書かれている。
【何、寝惚けた面してやがる】
明らかに、さっきのあくびを見られていた内容だ。
おずおずと教室内に視線を向けると、見るからに不良と言う風貌の男子生徒が船橋を見つめていた。
(金原君…)
しまった…と後悔する。
あくびを見られていた。
誰も見ていないと思っていたから、遠慮なく大口を開けて欠伸をした。
(うわー…)
金原は、クラス内でかなりモテる。
少し不良っぽいが、そこが良いのだと女子の間では人気者だった。
憧れている女子は、このクラス以外にも沢山いる。
勿論、船橋もその1人だった。
なんて恥ずかしい所を見られてしまったのか…。
船橋は、赤くなる顔を再び教科書で隠した。
午後の授業が全て終わり、帰りのホームルームを終えると、クラス内の各生徒達が雑談を交わしながら帰りの用意を始める。
船橋は周りにならって、家に持ち帰る教科書を鞄に詰めながら、溜め息を吐いた。
(しまった…。明日は小テストがあるのに、数学の時間は全部寝て過ごした…)
自慢じゃないが、船橋は数学が苦手だ。
国語などと違い、答えは一つと言うのが癪に触る。
例え、その答えが正解でも、答えに至るまでの行程が違えば点数は変わってしまう。
そのせいで、何度点数を引かれたか分からない。
ふと辺りを見回すと、殆どのクラスメート達は帰った様で、教室内は閑散としていた。
(少し復習してから帰ろうかな…)
自分の性格を良く知っている船橋は、自宅に帰れば勉強などせずに遊びに行ってしまう事は分かっていた。
再び椅子に腰掛け、数学の教科書を取り出す。
だが、授業中に取ったノートを見返すと、頭痛を感じてしまう。
(分かんないって…)
あまりにもちんぷんかんぷんで、溜め息を吐きながら頭を抱えると、同じ様に頭上からも溜め息が聞こえてきた。
「何やってんだよ」
誰もいないと思っていた船橋は、急に聞こえた声に驚いて小さく悲鳴をあげる。
「…ぁあ…金原君…、びっくりした…」
「お前授業寝てて聞いてないんだろ?教科書開けよ、教えてやるから」
そう言いながら、金原は船橋の前の席から椅子を引き出し、腰掛ける。
金原は普段授業など聞いていないように見える上、ほとんど授業に出ていないくせに、実は成績は学年トップの秀才である。
憧れでもあり、そんな金原が教えてくれるなら願ったり叶ったりだ。
言われるままに教科書を開くと、金原は教科書を覗き込む様に身を屈めた。
同じ様に教科書を覗き込む船橋の間近に顔が迫り、船橋の心臓が大きく高鳴る。
金原にも聞こえてしまいそうな心音に、思わず身を引くと、金原は不満げに船橋の頭を掴んだ。
「…おい、勉強する気あんのか?ちゃんと聞けよ。何度も説明しねーぞ」
「ご…ごめん…」
こちらの動揺など気付かずに、方程式の解き方を説明する金原だが、正直船橋は勉強をするどころの話ではない。
憧れの男子がこんなに近くにいるのだ。
しかも二人きり。
緊張しないわけがなかった。
しかも金原の説明は、聞けば聞くほどに分からなくなる始末だった。
所々で何度か説明を聞き返し、ようやくある程度理解すると、船橋は深く息を吐いた。
「なる…ほど?」
「ほんとに分かったのかよ?」
疑いの眼差しを向ける金原に苦笑すると、再びノートへ視線を向ける。
「とりあえず、このページ終わるまでは教えてやるから、分からなかったら聞けよ」
その言葉に、金原は本気で教えてくれている事がわかる。
船橋は改めて金原に感謝すると、勉強に集中し始めた。
説明以前よりは理解出来る様になり、悩みながら問題を解いていると、自然と集中してしまう。
数学と言うものは、パズルの様なものだ。
基本的な解き方さえ理解出来れば、難しい事はない。
バイクの雑誌を読んでいる金原を尻目に、授業中に解く事が出来なかった問題をある程度終わらせた頃には、辺りは日が暮れ泥み始めていた。
そろそろ部活も終わる時間だろうか、校庭を覗き込むと、片付けを始めている生徒達の姿が見える。
その姿に急かされる様に全ての問題を終わらせ、船橋は前の席で雑誌を広げていた金原に声を掛けた。
「金原君、終わっ…金原君?」
話し掛けた金原は、授業中の自分の姿を見ているかの様に机に突っ伏している。
そっと顔を覗き込むと、船橋を待ちながら見ていた雑誌に飽きたのか、普段は見れない寝顔がそこにあった。
(か…可愛い…)
すやすやと気持ちの良さそうな寝息をたてる金原は、普段の乱暴さなど微塵も感じさせず、船橋は思わず微笑んでしまう。
(ありがと…)
起こして直接お礼を言いたかったが、あまりに気持ち良さそうな寝顔のせいか、起こす事を躊躇ってしまう。
(今起こさなくても、どうせ先生が見回りに来るよね…)
起こすのをやめ、教科書やノートを鞄に入れようと鞄を開けた船橋は、鞄の底に入っていたペンに気付き手を止めた。
派手なペンと金原の寝顔を交互に見比べた船橋の脳裏に、小さな悪戯心が芽生える。
持っていたペン先で、眠る金原の背中をつついてみるが、起きる気配はない。
(先生が気付くだろうし…良いよね?)
そう自分に言い聞かせると、船橋はペンを強く握り締めた。
当然、すぐに水で落とせる水性の赤ペンだ。
さらさらっと簡単に唇のイラストを頬に描くと、キスのあとに見えなくもない。
そんなイラストのキスマークの下に続けてThanks.と描くと、船橋は持っていた赤ペンにキスをした。
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