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らぶ・スイーツ

人気のスイーツ店でパティシエを夢見て働くナナ。

深夜まで先輩パティシエである大西昭敏の手伝いで残っていると、大西はナナの描いたケーキのデザインを採用してくれると言い出した。

(日常/ほのぼの/職場)

---------


興味を持って下さってありがとうございます。少しでも読んで下さった方の心に残れば嬉しいです。


今巷で人気のスイーツカフェ。

何度か雑誌やテレビでも紹介されたそのカフェでは、毎日行列が出来る。


中でも人気なのは、パティシエオリジナルの日替わりスイーツだ。


一度日替わりに出たスイーツは、その日に食べなければ二度と食べられないという事から、毎日ファンが並ぶ。


勿論、数に限りはある訳で、食べられない場合の方が多い。


深夜、そんな超人気カフェの厨房に、二人の男女の姿があった。


毎晩残って翌日の日替わりスイーツを考えるパティシエである大西昭敏おおにしあきとしと、同じくカフェで働くスタッフのナナである。


「大西さん、明日の日替わりスイーツ決まりました?」


スイーツのアイデアが描かれた数枚のメモをテーブルに並べ、頭を抱えている昭敏に声を掛けると、ナナは淹れた紅茶を差し出す。


「決まらねーよ。ったく…下手に雑誌やテレビに紹介されると、忙しくなって頭が働かねぇな」


「忙しいのは良い事じゃないですか、人間忙しい内が花ですよ」


「お前は立派だな」


そう言うと、昭敏はメモの一枚を摘まみ上げた。


「…よし、明日はこのショートケーキにするか。苺の生クリームを添えて…」


ぶつぶつと呟きながら厨房を歩き回る昭敏を追い掛けてメモを覗き込むと、ナナは嬉しそうに声を上げた。


「わ!ショートケーキですか!私好きなんです!!」


「お前の為に作るんじゃねーぞ、欲しけりゃ並べよ」


「分かってますよ、あ…生クリーム在庫あったかな?」


明日も仕事で、並ぶ事は出来ないが、好きな物を作るというだけで楽しくなる。


冷蔵庫を開けて、生クリームの在庫を確認したナナが昭敏を振り返ると、昭敏は早速ケーキ生地を作り始めていた。


「今から作るんですか?」


「…試作品だよ、いきなり作ったモン店に出せる訳ねーだろ」


「あ、そっか」


言われてみればその通りだと手を叩くと、ナナは昭敏に近付いて手元を覗き込む。


ほんのりピンクに染まった生地が可愛らしい。


「…生地にも苺を?」


「ただのショートケーキを日替わりにしても、つまらねーだろ」


カシャカシャとマッシャーを動かしながら答える昭敏を見ていたナナは、ふいに湧いた疑問を口に出した。


「…大西さんって、何でパティシエになったんですか?」


「…あ?」


脈絡のない問い掛けに、昭敏は一瞬だけ面食らった様に手を止めてナナに視線を向けて来る。


「あ…いや、なんか大西さんってパティシエっぽくない気がして…すみません」


気分を悪くさせてしまったかと慌てて謝ると、昭敏は気にもせずに再びマッシャーを動かし始めた。


「甘いモンが好きだから」


「…それだけですか?」


「まぁ…他には、美味いスイーツを食ってる奴の顔を見るのが好きだから、だな。甘いモンを食ってる奴らの顔は、幸せそうだろ?…そんなお前は何でここで働いてんだ?パティシエ見習いか?」


「はい、私小さい頃からスイーツ大好きで…。食べるのは勿論ですが、可愛くデコレーションされてるのを見るのが大好きだったんです」


両親に連れられて初めて行ったケーキ屋で、まるで食べ物とは思えない程に完成されたケーキを見て、ナナは一目で心を奪われた。


真っ白な生クリームの上に、絶妙に乗せられた苺。


生地の上に乗っているクッキーやチョコレートのデコレーション。


様々な形に作られ、色とりどりにデコレーションされたケーキを見た時、一種の芸術だと本気で思ったのだ。


それ以来、ナナの夢はパティシエになる事になった。


学生の頃から、こんなスイーツを作りたいと、アイデアやデッサンをまとめている。


ここにこうして勤めているのも、人気のスイーツカフェで何か得られないかと思ったからだった。


夢を語る様にそう話すと、昭敏はニヤニヤしながら口を開く。


「オリジナルのスイーツねぇ…」


「な…何ですか?笑わないで下さいよ」


からかわれている様な不快感で唇を尖らせると、昭敏はマッシャーとボウルをテーブルに置いて、ナナに紙を差し出した。


「描けよ、ショートケーキのデザイン」


「…はい?」


何を言い出すのかと首を傾げてしまう。

すると昭敏はテーブルに紙を置き、引き出しからカラーペンを取り出す。


「材料とかその他は無理だけどな。お前の熱意を評して、明日の日替わりショートケーキのデザインはお前のを使ってやるよ」


「ほ…本当ですか!!」


冗談や、からかいの延長なのか。

ナナが信じられない気持ちで紙とペンを見つめると、昭敏は「さっさとしろ」と言ってボウルとマッシャーを手に取った。


「不細工なデザインならボツだぞ、店の信頼かかってんだからな。どーすんだ、やんのか」


「は…はい!!やります!やらせて下さい!!」


「好評だったら、これからの日替わりスイーツのデザインはお前に任せてやるよ」


人気パティシエの技術を勉強しようと残業したが、まさかこんな夢の様な事があるとは思わなかった。


テレビや雑誌で紹介される様な、人気店のスイーツデザインを任せられるとは。


震える手で紙とペンを握ると、ナナは頭をフル回転させ始めた。








翌日、ナナの考えたデザインのショートケーキは、見事に完売した。


勿論、人気店のスイーツであるという事が大前提の売れ行きだが、それでも見かけの悪いケーキなど、誰も買わないだろう。


売れたという事は、自分の考えたデザインが、世間一般に受け入れられたという事だ。


昼過ぎに完売した日替わりスイーツの棚を見たナナは、感動のあまり言葉にならなかった。


「売れたじゃねーか」


「大西さん…」


労をねぎらう様に肩を叩かれて振り返ると、そこには小さなケーキの箱を持った昭敏の姿。


「休憩しようぜ、午後からまた忙しくなるからな。昼飯がわりのケーキは買ったからな」


「あ…はい」


自分がデザインした日替わりスイーツが売れる度、嬉しさで胸が高鳴っていたナナは、疲れた様に休憩室へ行くと、イスに座り込む。


少し遅れて昭敏がナナの前に座り、ケーキの箱をテーブルに置いた。


「今日は疲れました…」


「ま、忙しかったしな」


「でも楽しかったし、嬉しかった…。売り切れるなんて思ってませんでした」


良い経験になったと改めて頭を下げると、昭敏は何枚かのメモを取り出す。


何のメモなのかと覗き込むと、それはナナが試行錯誤したスイーツのデザイン案だった。


「それ…」


捨てずに残してあったのかと驚いていると、昭敏はその中の一枚を抜き出してナナに見せた。


「明日の日替わりだ、もちっと練ってくれ」


「…はい?」


「だから、このデザインを明日の日替わりにすんだよ。このままじゃ微妙だから、もう少し頭使え」


「また…私のデザインを使ってくれるんですか?」


「あァ。好評なら、定番メニューのデザインにも使ってやる。…そのうち作んのもな、何事も経験と勉強だ」


気を失いそうな程に嬉しい言葉に、夢ではないかと思わず頬をつねってしまう。


すると昭敏は、持ってきたケーキの箱をナナに押し出した。


「…今日の日替わりスイーツだ」


「え!!」


昨夜、試作品は食べたものの、全て売れてしまった為に完成品は食べられなかったナナは、慌てて箱を開ける。


そこには、昨夜の試作品よりも丁寧に、かつ綺麗に作られたショートケーキが二つ、寄り添う様に入っていた。

最後まで読んで下さってありがとうございました。

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